アメリカ人と日本人の両親を持ち、幼い頃から音楽に親しんできたバイリンガル・シンガー、SHANTI。ジャズ・ミュージシャンとのセッションや、自らギター演奏を披露するアコースティック・ライブを精力的に行う一方で、CM音楽や、J-POPアーティストのバック・コーラスに参加し、活躍を見せてきた実力派だ。ボーカルのみならず、類い稀なソングライティング・センスでも、注目を集めている。
ここにご紹介する『BORN TO SING』は、そんなSHANTIのメジャー・デビュー・アルバム。多彩なミュージシャンを迎え、アコースティック・ギターを主軸に、生楽器の温かみあるサウンドと、セッションならではのグルーヴが追求された意欲作だ。ここでは、時にメロウに、時に情熱的に響きわたる、彼女の表情豊かな歌声を堪能できる。また、ボーナス・トラックとして、吉澤はじめとコラボレートした「Curtain Call」が収録されている点も注目だ。
『BORN TO SING』の制作風景に迫るべく、SHANTI本人にインタビューを行った。
ーーSHANTIさんはこれまでに、ジャズ・シーンからJ-POPフィールドまで、様々な方面で活動をしてきましたが、ルーツにはどんな音楽があるのでしょうか?
「アメリカに住んでいるおじいちゃんは、ジャズ・ピアノを弾いていたり、父はドラマーだったりと、音楽が血に入っているんですよね。親戚にもミュージシャンが多くて、オペラ歌手や楽器のプレイヤー、あとはミュージカルに出ている人もいます。だから、シンガーになったのも自然なことで、“このジャンルのアーティストとの出会いが衝撃的で!”とか、そういうものってあまり無いんですよ」
ーー音楽が身近にあるのは、当たり前のことだったんですね。このたびリリースされた、メジャー・ファースト・アルバム『BORN TO SING』は、どんなテーマの作品でしょうか?
「とにかく、“自分の声を伝えたい”というのが一番でした。今まで、いろんなスタイルの音楽をやってきたから、今回のアルバムにも、ひとつのジャンルにとどまらない、様々なスタイルの曲が収められています。私は日本在住の洋楽アーティストというか、自分のバックグランドが二つあるということもあるわけですが、スタイルは多様でありながらも、最終的には、“その楽曲や、メロディーが望む歌い方でいいんだ”って思ったんです。素直に表現することが、アルバムのテーマでしたね」
ーーそんな本作では、生楽器を主体とした、温かみのある音が特徴的ですね。
「『BORN TO SING』の音は、ジャンルで言うよりも、オーガニックなサウンドと言った方が、理解しやすいかもしれないですね。生楽器の音づくりも、大事にした部分なんです。ライブの良いところって、自分の肌で、音の周波数を直に感じられるところだと思うんですよ。それをできるだけリアルに、CDでも残したいなと思いました」
ーーレコーディングは、どんな感じで進めたのですか?
「シンプルに、“この人と一緒に演奏したい”って思うミュージシャン達を集めて、一斉にレコーディングしました。譜面に、一人一人のパートを書いて渡したりはせず、録る前にリハーサルをして、その中で“ギターはこのリフで”、“ドラムのアプローチはもっとこうで…”とか、アイディアを出し合って微調整をしましたね。各ミュージシャンが持っている色を、つぶしたくなかったんですよ」
ーーその点では、各楽器の個性と、セッションならではの躍動感が、際立っていると感じました。また、アコースティック・ギターを中心に構成された楽曲もありますね。
「ここ3年ぐらい、木原(良輔)さん、私、西山(史翁)さんで、ギター・トリオ形式でライブをやっているんですよ。その中で生まれたサウンドをもとに、ドラムやベースを入れてアレンジを発展させた曲ですね。これまでライブでやってきた積み重ねが、表現できたと思います」
ーーたくさんのミュージシャンから良い要素を引き出す、SHANTIさんならではのコツってありますか?
「そうですね…。実は、ミュージシャンどうしが、たくさんおしゃべりしたり、食事を一緒にするっていうのが、すごく大事だと思います。ミュージシャンって、それぞれが個々のアーティストじゃないですか。みんな“自分時間”で生きているので、一緒にいても居心地にズレがあるんですよ。それは、私が自宅に招いて食事をつくったり、お茶を飲みながら話していくことで、お互い気持ちがほぐれて解消されるんです。そうやってリラックスした後に、何も考えず演奏をすると、すごく良いものが出てくるんですよね」
ーーそれは、意外なコツですね。作曲のアイディアは、どのように生まれるのでしょうか?
「歌詞とメロディーが同時に、頭の中に聞こえてくることが多いです。何日も何日も、4〜8小節ぐらいのメロディーが鳴って、頭から離れなくなるんですよね。『BORN TO SING』で、他のミュージシャンと共作している曲も、メロディーは基本的に私が書いたんですけど、ミュージシャンの人たちがセッションで弾いていた、コードのニュアンスや雰囲気の中に、情景みたいに言葉が見えてきたんですよ。すべてが自然発生なんです」
ーーセッションやライブで生まれる一瞬一瞬を、切り取って曲にできるのは、SHANTIさん自身が、歌と楽器演奏という双方のフィーリングをわかっているからなんでしょうか?
「楽器が弾けることで、ミュージシャンとつながりやすいっていうのはありますね。でも、ジャズ・ピアニストの演奏と、私の演奏では雲泥の差があるので(笑)。音楽の基本的な理論や、コードのつくり、スケールについても学びましたけど、理論に基づいて曲づくりしているわけではないんですよ。どちらかと言うと私は、アンテナを常に張り巡らせて、いろんなものを吸収しながら音楽をつくるタイプなんです。街には騒音もいっぱいあるし、嫌なものを吸収しちゃうこともあるんですけど、そういうグチャグチャしている、いらない要素が、曲づくりに入ると削ぎ落とされていくんですよね」
ーーところで、『BORN TO SING』には、カバー曲も多数収録されていますね。これらのアレンジでは、どんなところにこだわりましたか?
「ジャズのアーティストって、みんな昔のスタンダード・ナンバーをカバーしているじゃないですか。でも大体は声が違うだけで、わりとアレンジの似たものが多いんですよね。それじゃつまらないと思って。昔の曲をリスペクトする気持ちと、今のリスナーが聴いても良いなって思えるようなアレンジ、その両方を形にしようと思いました」
ーーたしかに、まるで全く新しい楽曲のように聞こえる、挑戦的なアレンジになっていますね。
「ギター・トリオで演奏していると、ドラムやベースがいないから、全体的に単調になりやすいんですよ。だから、小編成でどこまでアレンジできるかも、課題の一つでしたね。ジャンゴ・ラインハルトっていう、ロマ・ミュージックのギタリストがいるんですけど、彼の曲にあるザクザク感やスピード感が、面白いなと思って。そのスタイルを取り入れてみたり、いろんな表情を上手く演出できるアレンジを選んだ感じかな」
ーー最後に、今後の活動に対する思いを聞かせてください。
「アルバムを聴いて、ライブに来てほしいっていう気持ちが一番大きいですね。音源で表現した温かさをライブでも伝えて、お客さんとの関係性を育てていきたいと思っています」
アルバム情報
01. Aqua’s Lullaby
02. They can’t take that away from me
03. Killing Me Softly With His Song
04. 真夏の果実 -Summer Blue-
05. Our Song
06. Yuyake
07. Talking Low
08. From This Moment On
09. Cry Me A River
10. Look Back
11. Closing Time
12. Fly Me To The Moon
13. Goodnight
※Bonus Track
14. Curtain Call
【Official Website】
http://columbia.jp/shanti/
【LIVE INFORMATION】
SHANTI BORN TO SING Tour 2010
Supported by Mt.RAINIER DOUBLE ESPRESSO
7/10(土)@ 葉山LA MARÉE DE CHAYA(神奈川)
7/17(土)@ 中目黒 楽屋(東京)
7/18(日)@ 名古屋Blue Note
7/20(火)@ Mister Kelly’s(大阪)
7/23(金)@ Motion Blue Yokohama(横浜)
9/5(日)@ COTTON CLUB(東京)
TOTAL INFO: コンサートイマジン(03-3235-3777)