Star Slinger『Volume 1』インタビュー


StarSlinger_jk.jpg

英マンチェスターを拠点に活動するダレン・ウィリアムスのエレクトロニック・プロジェクト、Star Slinger(スター・スリンガー)。2010年に、これまでに制作してきた楽曲をまとめたアルバム『Volume 1』をダウンロードのみでリリースすると、そのハウスやヒップホップ、チルウェイブ系のインディーポップ、ソウル・ミュージック等、あらゆるジャンルのサウンドをサンプリングしたダンス・サウンドが話題となり、近年はリミキサー/プロデューサーとしてジャンルを横断する活動を展開している新星です。

そんなStar Slingerが、前述のアルバムに、海外では同じくダウンロードのみでリリースされた『Rogue Cho Pa – EP』、『Bedroom Joints – EP』の楽曲など11曲を追加収録した、日本盤の『Volume 1』(ヴォリューム1)を、6/5にリリースします。全22曲が初CD化となる注目作です。

ここでは、本作『Volume 1』の内容と彼の音楽的背景について語った、Star Slingerのインタビューをご紹介しましょう。4月に行われた初来日公演のライブ・レビューもあります。また今回、Star Slingerと共に来日したGold Pandaの新作インタビューも掲載中ですので、ぜひチェックしてみてください。


StartSlinger_A1.jpg

Star Slinger『Volume 1』インタビュー

__一番最初に音楽に没頭していったきっかけは何でしたか?

「小さい頃はラジオのチャート番組 TOP 40とかをよく聞いてて、テープに録音して何度も聞き直したりしてた。今でも、その頃に録音したテープを聞き返したりすると、改めて発見できる事があったりするから、すごく面白いと思う。本当に自分が音楽を大好きだと感じ始めたのは、11歳くらいの時かな」

__その当時に一番好きだったアーティストは誰でしたか?

「すごく王道のメロウなダンス・ミュージックだったね。Lighthouse Familyとか、Jamiroquaiとか。若者だけじゃなくて、一般的なお父さんやお母さんまでが聴いてたような音楽が好きだった。でも、’90年代にはあんなメロウなダンス・ミュージックが一般の人たちにまで受け入れられていたって事を考えると、改めて凄いことだなって思うよ」

__それから、実際に自分の手で音楽を作り始めたのはいつ頃でしたか?

「同じ11歳くらいの時期だね。ドラムやギター、ベースといった楽器をプレイするのとちょうど同じ時期に、レコーディングも始めたんだ。僕の父親がレコーディング用の機材を一式持っていたから、演奏するだけじゃなくて、レコーディングも音楽の一部なんだって事を同時に理解したんだよ」

__その頃作っていた音楽はどんなものだったんでしょう?

「自分にとって、ルーツと呼べるものは大きく分ければ二つあるんだと思う。当時は、さっき言ったような王道っぽいダンス・ミュージックをカシオのキーボードでマネして作っていたのと並行して、ギターを使って当時一番ビッグだったバンド、Oasisの曲を弾いたりもしていた。ダンス・ミュージックだけじゃなくて、そういうギター・ロックの王道みたいなものも自分のルーツになっている気がする」

__あなたの音楽は今でも、折衷性=エクレクティシズムに満ちたものだと思いますが、それにも自分のルーツが影響を与えていると思いますか?

「そうだね。音楽の作り方も、二つあると思う。一つは、意識的であるかどうかは別にして、自分の体験を全てチャネリングして、音楽の中で表現していくこと。もう一つは、一つの表現に特化して、それを極めながら誰もが分かりやすいような形で作っていくやり方。僕がやりたいのは前者なんだ。全ての影響源をフラグメント化して、自分のフィルターを通して表現していくってこと」

__今でもあなたはマンチェスターを拠点にしていますが、活動当初に何らかのローカル・シーンに属しているという意識はありましたか?

「もちろん、マンチェスターは僕がエージェントも何もない状態からライヴを始めた場所だから、そういう意味ではマンチェスターが全ての始まりの場所だったと言えるとは思う。でも、次第にオンラインでエージェントに直接音源を送ったりして、そのやり方でブッキングをやり始めたから、そういう方法こそが僕のキャリアの始まりという意識が強いね。僕の2回目のギグは、ブルックリンから来たRatatatのマンチェスター・ギグのサポートだったんだよ。だから、地元はマンチェスターなんだけど、他の地域の人ともインターネットを通じて繋がりを作ってきたのが大きいと思う」

__2010年には、今回日本でリリースされる『Volume 1』をオンライン上でリリースします。同作がネットを通じて世界的に大きな反響を受けた事に対して、どう感じていましたか?

「すごくショッキングだったよ! 特に音楽ブログとかで紹介されて、爆発的に知られるようになったんだ。その当時に実際僕が何をしてたかって言えば、マンチェスターのローカル・ショーで、少しでも皆に知られるように手配りで自分のCDを配ってたんだから。ヒップホップのライヴの方が僕の音楽を受け入れてもらえるかなと思って、そういうショーのエントランスで配ってたんだけど、そこでは何にも起きなかった。その間に、自分の知らないところでネットを通じて知名度が上がっていて、Toro Y Moi、Washed Out、Small Blackといったアーティストが僕の音楽を紹介してくれていたんだ。それから彼らとはツアーを一緒にまわったり、ちゃんとお金をもらってリミックスをやらせてもらったりして、そういう所から広がっていったんだよ。だから、あの当時ライヴでCDを配っていた人達には“あの時、ちゃんとCD聴いてれば良かったのに!”って言いたいね!(笑)」

__それをきっかけに、リミックスの依頼が殺到するようになりましたね。その当時の事をふり返って教えてください。

「リミックスの仕事については、初めから意識していたんだ。僕が最初にやったリミックスはSmall Blackだったんだけど、それを聴いてもらえれば他のアーティストからもきっと依頼が来て仕事になるだろうと思っていた。実際にそうなってくれて、まず自分が長年聴いてきたバンドだったBroken Social Sceneが依頼をくれて、その後も多くのバンドから依頼をもらえた。その後、バンドのリミックスは一旦止めようと考えた時期もあって、それからはR&Bとかエレクトロニカ系アーティストの方のリミックス仕事を重点的に選ぶようにしていた。今でもバンドのリミックスに関しては、本当に自分が好きなバンドだけを慎重に選ぶようにしているよ。最近やったリミックスの仕事は、Jesse WareやRhye。あと、最近London Grammarというグループにも提供したんだ。彼らはこれからビッグになると思うよ」

__多くのサンプリングを使用している自分の曲と、リミックスの作り方は違うものですか?

「最初の頃は同じようにアプローチしてたね。自分のトラックでソウルのサンプリングを使うように、リミックスでもその曲をチョップして再構成していくやり方でやってた。でも、その方法が自分の中で慣れてくるにつれて、同じ事の繰り返しばかりではダメだと思うようになって、リミックスで色んなアプローチを実験していた時期もあるよ。普通、リミックスを主だった仕事にしているアーティストは少ないと思うんだけど、僕は幸いにもリミックスで一定の収入が得られているから、真剣に取り組もうと考えている」

StartSlinger_A2.jpg

__『Volume 1』を最初に自主リリースしてから3年が経ちますが、今この作品を振り返ってどんな印象を持ちますか?

「このアルバムをリリースした後、ずっとツアー続きで何度も曲をプレイしてたから、正直に言うと一時期ここに収録した曲に飽きてしまっていた時もあった。この後に作った新曲もあって、自分自身もその頃から進化していると思っていたから。今でもライヴでこれらの曲をプレイすると少し退屈な気持ちになる事がある。でも、このアルバムを聴き返すと当時の良い気分が蘇ってくるし、このアルバムがなかったら今の自分もなかったわけだから」

__今回の日本盤には、『Volume 1』の後に発表した2枚のEPも追加収録されています。この3年間で、音楽の作り方は変わりましたか?

「ベーシックな技術は変わらないけれど、サンプリングの方法とかは変わったと思う。昔はすごく早くサンプリングして曲に使っていたけれど、今はもっとよく考えるようにしている」

__『Volume 1』は今聴くとすごく楽天的でポジティヴな魅力があると思います。

「そうだね。『Volume 1』は、2010年じゃなくて今初めて聴いた人にも驚きがあるアルバムだと思う。このアルバムの音が古びていないのは、この中に込められたオプティミズムが時間を超える普遍的な魅力を持っているからなんじゃないかな」

__あなたが往年のソウルを多くサンプリングしているのも、そういった時間を超えるオプティミズムに惹かれている部分があるのでは?

「僕にとっては、ソウル・ミュージックの歌詞はそんなに重要じゃないんだ。例えば愛についての曲であっても、すごくシンプルな歌詞だけだったりする所に惹かれる。あとは、インストゥルメンタルの録音・プロダクション技術がとても優れていると思う。今でも同じ楽器をプレイする人はたくさんいるけど、その当時の音を完全に再現するのは難しい。そういう部分もソウル・ミュージックのタイムレスな魅力だと思うね」

__昨年には、自分のレーベル、Jet Jamを立ち上げていますが、その経緯を教えてください。

「元々はパーティのオーガナイズから始まったんだ。スロヴェニアでヨーロッパでは2回目のショーをやった時に、今共同でレーベルを運営している2人と出会った事がきっかけで、彼らとパーティをやればもっと人が集まるんじゃないかと意気投合した。そのうちの1人は僕のガールフレンドで、VJをやっている。ビジュアル的にも美しくて、エクレクティックに色んなジャンルのDJが色んなタイプの音楽をかけるパーティだよ」

__メジャーや有名レーベルから声がかかる事もあったと思いますが、一つのレーベルに所属しないのはなぜ?

「別にメジャーとは絶対にやりたくないってわけじゃないよ。実際に、今EMIとは出版権に関しての契約を結んでいる。それによって僕がメジャー所属アーティストのプロデュースをしたり、トラックを提供したりする仕事がスムーズに出来るようになったんだ。今2枚目のアルバムを作っている最中なんだけど、それをどのレーベルからリリースするのかはちょうどEMIと話をしているところなんだ。Jet Jamからリリースしてしまうと、それに伴う仕事も全て自分で抱え込まなくてはいけないから、他のレーベルに任せられる部分は任せたいと思っているよ」

__新作の制作状況を教えてもらえますか?

「あと2曲で完成するよ。タイトルは『Love Takes US High』になると思う。最初は『Volume 2』にしようかとも考えていたんだけど、次のアルバムがオリジナルのアイデンティティを持っていると感じ始めたから、全く別のタイトルにしたんだ。『Volume 1』が“Volume 1”で完結しているというアイデアも何か気に入っているしね。まだレーベル選びの最中だけど、何とか今年の夏にはリリースしたいと思っている」

__最近はアメリカのラッパーをゲストに迎えた曲も多く作っていますが、ヒップホップやR&Bに対する興味が強くなっているのですか?

「ラッパーとのコラボレーションは自分自身の音楽とは分けて考えているんだ。彼らとやる場合は、自分はあくまでプロデューサーの立場で参加して、彼らの名義でリリースする。僕自身のアルバムは、もっとダンス寄りでアップビートで、ゴスペルの影響が強いものになるよ」

__最後に、ようやく日本盤がリリースされる『Volume 1』を、日本のファンにどのように聴いてほしいですか?

「このアルバムはすごく夏っぽいレコードだと思うから、この夏を『Volume 1』と一緒に楽しんでほしい。iPodに入れて旅行に持っていくのもいいし、家でリラックスしながら聴くのも最高だと思うよ」

text & interview : 青山晃大


SSbyTeppei_2013-4.JPG

Star Slinger ライヴ・レビュー
GOLD PANDA JAPAN TOUR 2013, Special Guest STAR SLINGER
2013/04/12 (FRI) 代官山UNIT

ファースト・アルバム『Volume 1』の日本盤リリースを控え、4月13日初めて日本の地を踏んだスター・スリンガーことダレン・ウィリアムス。インディ・ロック・バンドからヒップホップ/R&B系アーティストまで、ジャンルを横断して多くのリミックスをこなしてきた当代随一のプロデューサーの初来日だけに、会場後方までぎっしりと人で埋め尽くされている。彼の持ち味はソウル・ミュージックを中心としたサンプリング・マジックと多ジャンルを越境する折衷的なビート・センスだが、今回のライヴはそれらの魅力が最大限に発揮された多幸感溢れる1時間となった。

冒頭から、ゆったりとしたビートに乗せて女性ソウル・シンガーのヴォーカル・サンプリングがアップリフティングに響き渡り、一足先に夏の訪れを感じるような立ち上がり。その後も膨大なサンプリング・ヴォーカルが入れ替わり立ち代わりフロアを彩り、それに合わせてビートも硬質なヒップホップから流麗なハウスまで多彩な変化を見せていく。セットが終盤に差しかかると、折衷主義を信条とする彼の本領がさらに発揮され、多幸感に満ちたヴォーカル&ピアノのループで魅せるハウス風のビートから一転して、騒々しくトライバルなM.I.A.の「Bucky Done Gun」をプレイ。驚きの選曲に会場からは大きな歓声が飛んでいた。ラストには、昨年大ブレイクを果たしたラッパー、ケンドリック・ラマーによる「Bitch, Don’t Kill My Vibe」のリミックス・ヴァージョンも披露され、彼の初来日ライヴは大団円を迎えた。

スター・スリンガーはこれまで、過去の音源をサンプリングによって現代に蘇らせ、数々のリミックス仕事によって世界各地のシーンやジャンルを繋いできた。ポップ・ミュージックの膨大に広がる歴史とネットワークを縦横無尽に行き来し、その全てを愛する生粋のポップ・ラヴァー。それが一ジャンルに属すことのなく活動を続ける、彼の本当の姿なのだろう。ポップ・ミュージックの多様性を凝縮するように、1時間の間で次々と表情を変えていくライヴからは、そんな彼の本質が垣間見えたように思う。(青山晃大)

photo : Teppei


【リリース情報】

StarSlinger_jk.jpg

Star Slinger
Volume 1
(JPN) よしもとアール・アンド・シー / YRCU-98005
6月5日 発売
※全曲初CD化
HMVでチェック

tracklist
01. Mornin / モーニン
02. Minted /ミンテッド
03. Extra Time /エクストラ・タイム
04. Innocent / イノセント
05. Bumpkin / バンプキン
06. Copulate / コピュレイト
07. Dutchie Courage / ダッチィ・カレッジ
08. Gimme / ギミ
09. Gas / ガス
10. Family Friend / ファミリー・フレンド
11. Star Slinger / スター・スリンガー
12. Like I Do / ライク・アイ・ドゥ*
13. Hot Potato / ホット・ポテト*
14. Do It Myself / ドゥ・イット・マイセルフ*
15. Hoe Pulla / ホー・プラ*
16. Rene Storm / ルネ・ストーム*
17. Impressionable / インプレッショナブル*
18. Casanova’s Jump Off / カサノヴァズ・ジャンプ・オフ*
19. Slow ‘N’ Wet / スロウン・ウェット*
20. Baby Mama / ベイビー・ママ*
21. Moet & Reese / モエ・アンド・リース*
22. Take This Up / テイク・ディス・アップ*
*Bonus Tracks for Japan

【オフィシャルサイト】
http://bignothing.net/starslinger.html
http://starslinger.net/

interviewカテゴリーの記事