モデル、自身のブランドCAROLINA GLASERのデザイナーとして活躍し、ファッション・フィールドでも注目を集めているポップ・シンガー、MEG。シングル『OK』(2007)を発表して以来、エレクトロ・ポップ・アイコンとして人気を博す彼女は、数々のクラブ・ミュージック・クリエイターと関わり深いことでも広く知られている。
ここにご紹介する『MAVERICK』は、そんなMEGが約1年ぶりに完成させたフル・アルバム。中田ヤスタカ(capsule)が楽曲プロデュースを手がけた話題盤だ。6作目のフル・アルバム『BEAUTIFUL』(2006)で見せた、ジャンルレスなスタイルを加速させ、ピアノやストリングス、生ドラムのサウンドと、レトロなシンセが融合した、新感覚のポップ・チューンが楽しめる本作。ミドル〜スロー・テンポの、メロディアスな楽曲が主体となっている点も注目要素だ。
エレクトロ・ポップ・アイコンから次のステップへと羽ばたいた、MEGの最新モードが詰まった『MAVERICK』。その制作背景について、本人に話を聞いた。
【“型にハマらない自分”を宣言したアルバム】
ーー前回のインタビューでは、“『BEAUTIFUL』を完成させた時には、やりきった感があった”と話していましたよね。それを経て、ニュー・アルバムの制作にはどんな気持ちで臨んだのでしょうか?
「バンド編成でライブをやるようになって、ライブでは自分の音楽をすごく伝えやすくなったなぁって感じたので、それもあって、ニュー・アルバムでは、時間をかけて歌詞を書きたいと思いました。その時に伝えたい音楽を、ていねいにつくりたかったんです」
ーー前作よりステップアップした作品をつくるために、どんなことを意識しましたか?
「エレクトロとか、クラブで聴いて耳障りがいい曲って、言葉のリズムを重視して歌詞を組み立てていますけど、このアルバムでは、ただリズムに乗っているだけじゃない、書きたいことを綴った歌詞にしたいと思ったんです。それを、ライブでも歌いたいっていう気持ちがありましたし」
ーーダンサブルな要素よりも、MEGさん自身のメッセージが重要だったんですね。
「そうですね。楽器を取り入れてライブをやってみて、ゆっくりした曲を歌うのも面白いなって思ったし。リズムだけじゃなく、きちんと歌を伝えたいと思うようになったんです。だから今作でも、わりとバラード的なものや、遅いテンポの楽曲の方が、歌詞を書きやすかったですね」
ーー実際の制作過程はいかがでしたか?
「結局、制作のスタートが押してしまって、1ヶ月ないぐらいで10曲つくらなきゃいけなくなっちゃったので、大変でした。今回は、言葉遊びみたいな歌詞じゃなかったし、一回書いてから一晩寝かせないと、ニュアンスを弱めたり強めたりっていう部分が見直せないじゃないですか。でもそんな時間も無く、歌を録りながら間に合わせることに“これでいいのかな?”って疑問に思ったりもして。そんな、“何だろう、このモヤモヤ感は?”っていう思いを表したのが、タイトル曲の「MAVERICK」なんです」
ーーそれは、思いもよりませんでした。先日のライブでMEGさんは、“「MAVERICK」は、アルバムの中で一番気に入っている曲”と話していましたよね?
「そう。タイトルに合うテーマのものを書けたから、安心したんですよ(笑)」
ーーこの歌詞をどう解釈したらいいんだろう? って思っていましたよ…。
「あははは(笑)。やっぱりアルバムを出すなら、自分のペースで制作したいんですよね。なので…型にハマらないっていう意味で、アルバム・タイトルも『MAVERICK』にしたんです。来年からの展開も含めて、今見直して組み立ててる最中で。メジャー・レーベルでの活動自体も」
ーーえぇっ!? それは、衝撃の展開ですね。
「型にハマるってことは、MEGにとって、とても退屈で窮屈なんですよ。発散したくて音楽をつくっているわけじゃないし、楽しんでもらえる人たちに、一番いい形で作品を届けてあげたいって思って。そこに、規制が出てくるとね…。メジャーでは、型にハマったこともやってみようとしたけど、自分には向いてなかったなって思うんです」
【アコースティック色を強めた、次なる音楽スタイル】
ーー中田(ヤスタカ)さんとの制作は、今回はどんな風に進めたのですか?
「今回は初めて、デモが中田くんの弾き語りで上がってきたんです。今までのデモには、実際CDに収録されるトラックとあまり変わらないものが多かったんですけど、今回はリズムとエレピ、仮歌くらいしか入っていなかったんです。そこから、最終的に楽曲がどういう風に変わっていくかわからなかったし、シンプルなオケから歌詞のイメージをふくらませなきゃいけなかったから、パターン化しちゃわないように考えたり。さらにややこしいパズルをやっているみたいな感覚になりましたね」
ーーそうだったんですね。その他にも、何か新しいアプローチはありましたか?
「今回は中田くんの中に、“いつもの手は使わない”ってルールがあったような気がするんですよ。いつもだったら、ビーって鳴らすような箇所をしなかったり、もっとドンドン、リズムが来るようなところを、あえてハズしているというか。禁止事項を彼の中で決めてつくった、コンセプト・アルバムみたいな感じがします。違うかもしれないけど(笑)」
ーーたしかに、アルバム全体を通して温かい音になっているし、ミドル / スロー・テンポの楽曲も多かったので、中田さんの、アップデートされたモードが出ているのかな? と思いましたね。
「って、中田くんも言ってましたよ(笑)」
ーーそうでしたか(笑)。MEGさん自身も、エレクトロ・ポップのアイコン的存在から、脱皮した印象を受けました。
「ありがとうございます。でも逆に、ジャンルが何かわからなくなったかもしれないですね」
ーーストリングスなど、アコースティックな音を多用していたり、シンセもゴリゴリしたサウンドではなく、レトロな音色になっていますよね。
「ちょっと懐かしい感じがしますよね」
ーー「OUR SPACE」は、ヨーロッパの民族音楽みたいな雰囲気も持っていて、かなり斬新だと思いました。
「ねー(笑)。紙一重なんですけど、面白いですよね。それぐらい思い切りの良さがある曲だと思います」
ーーMEGさん的に、新鮮だった曲は他にありますか?
「「MOSHIMO」とか」
ーーあぁー、シンプルなエレピのリフと、生音っぽいドラムが印象的な曲ですね。こういった斬新な楽曲は、作詞や歌も大変でしたか?
「面白い方向へ持っていくのか、キュンと切ないものにするべきか、最初はわからなかったですね。何を乗せても歌詞の意味が前に出てきちゃうし、シンプルなメロディーなので難しかったです」
ーーところで、レコーディングはどんな感じだったんですか?
「いつも通り、中田くんと私以外は誰も来ず。ボーカル・ブースから出たら誰もいません、みたいな感じでした(笑)」
ーーやっぱりそうでしたか(笑)。中田さんから、何かアドバイスはあったんですか?
「歌い方の指示はありましたよ。中田くんは、歌心のあるエディットをする人なので、“ここは人の力だと、ひと息で歌うのは絶対無理だけど、後でキレイに処理するから、分けて歌ってつなげよう”とか、これまでの制作よりもディレクションが多かったですね」
ーー歌詞には、これまでと違って“大人の女性の恋愛観”が描かれているように感じたんですが、いかがでしょうか?
「やっぱり、書いていてしっくりくる言葉じゃないと、“これ、みんなに伝わるのかな?”って思うので。その時の状況をリアルに残せたらOK、みたいなところはありましたね」
ーー歌詞には、これまで以上に、リアルなMEGさんが表れているんですね。
「そういう歌詞が書きたかったんです。ここ2年間ぐらいは、リズムに乗せてキャラクターを演じるのが面白かったんですけど、もうちょっと、中身の部分を残していきたいなって思い始めて」
ーーなるほど。『MAVERICK』は、シンガー / アーティストとして、パーソナルな部分を深く掘り下げたアルバムなんですね。
「だからこそ、慎重に言葉を選びたかったし、時間もほしかったんですよ」
ーーその変化は、アルバムのアートワークにも表れているんでしょうか?
「そうですね。エレクトロ・ポップみたいなものにも飽きてきたし、年相応の生々しさをアートワークでも表現したいなと思ったんです」
ーー初回限定盤は、24ページのブックレット写真集や、ポストカード、ステッカーが付いた、BOXセット仕様になっているそうですね。パッケージに対するこだわりも、さすがMEGさんだと思いました。
「CDを買った時って、家に持って帰って開ける瞬間が楽しいじゃないですか。それは大事だと思うので、できるだけ付録をいっぱい入れたいと思ったんです。やっぱり、きちんとしたものをつくって届けたいですからね」
ーーMEGさんは、CD制作だけでなく、ライブなどを含めた活動全てに対して、常にアイディアが豊富ですよね。
「私は、別にすごく歌が上手いわけでもないし、面白いことが言えるわけでもないから、MEGっていう存在自体が、みんなに面白いプロジェクトだって思ってもらえるキャラクターとして、常に何かを発信していけたらいいなぁって思っているんです。MEGというキャラクターには、退屈しないことを何でもやらせたいんですよね」
ーー繰り返しにならないように、常に新しいことを提供するのは簡単ではないので、それを実現できているのはスゴイと思いますよ。
「私は常に、自分のことを気になったくれた人を、ふるいにかけているんだと思います(笑)。“これは好きだけど、あれは好きじゃない”とか。“プロデューサーは中田くんでいいんじゃない?”って周りが言ってくれても、ハドーケン! と一緒にやってみたり(笑)。ファンのみんなは、よくついて来てくれるなぁ、マジでありがとうって思いますね」
ーー今後新たにチャレンジしたいことは、何かありますか?
「カワイイ曲を書くのは楽しいんですけど、自分じゃない人に歌ってほしいなぁってゆう歌詞が生まれることもあるんですよ。だから、他のアーティストに歌詞提供をしてみたいですね」
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