ブラック・ミュージック・バンド、Bran Van 3000のメンバーとして活動していた経歴を持ち、A-Trakの兄としても知られるデイヴ・ワン [Dave 1](ギター&ボーカル)と、アラブ人の血を引くピー・サグ [P-Thugg](トークボックス)からなる、モントリオール出身のエレクトロ・ファンク・ユニット、Chromeo。’04年に、Tiga率いるTurbo Recordingsから、ファースト・アルバム『She’s In Control』を発表し、’80sファンク / ディスコ・ミュージックさながらのグルーヴで注目を集めた実力派だ。’07年には、「Fancy Footwork」をフロア・ヒットさせ、ニュー・エレクトロ界隈で大きな話題となったほか、Vampire WeekendやFeistの楽曲リミキサーをつとめるなど、多方面から支持を獲得している。
そんなChromeoが、このたび約3年ぶりとなるニュー・アルバム、『Business Casual』を発表した。Chromeoらしい、ファンキーで粘り強いグルーヴ感とダンサブルなビート、’80s感満点のシンセ・サウンドに加え、’70年代のソフト・ロックやバラードの要素が取り入れられた本アルバム。これまで以上に歌ごころを追求した、深みのある楽曲が詰まった意欲作だ。また、ビヨンセの妹でもあるR&Bシンガー、Solange Knowlsのボーカル参加や、フレンチ・ハウス・ユニット、CassiusのPhillipe Zdarがサポート・プロデューサーをつとめている点も注目だ。
エレクトロニック・ミュージック・シーンにおいて、独自路線を貫いている個性派、Chromeo。彼らの最新モードが詰まった新作『Business Casual』について、ピー・サグに話を聞いた。
__’07年に発表した『Fancy Footwork』のヒットを経て、Chromeoはいまやリミキサーとしてもひっぱりだこで、大きな成功を収めていますね。それについて、ご自身ではどう思いますか? p>
ピー・サグ「俺達が音楽に注いでいる努力を、世間が評価してくれていると感じるね。リミックスのオファーは数多く受けているし、いいトラックもたくさんあるけど、残念ながら全てのオファーを受けることはできていないんだけどね」
__また、Chromeoはこれまでに、世界各地でギグを行ってきました。様々な国でプレイして、得たものとは何でしょうか? p>
ピー・サグ「いろんな国に行ったから、パスポートに新しいページが必要だよ(笑)! 新しい場所に行くこと、そして世界中のファンに会えることは、何よりも嬉しいね。トルコ、日本、ブラジル、アメリカ、ヨーロッパ…場所がどこであれ、ファンへの恩返しとして、最高のショーを行う機会があるのは素晴らしいことさ」
__Chromeoのように、’80sエレクトロ・ファンクやディスコ・ミュージックを、ここまで忠実に表現しているアーティストは、今のダンス・ミュージック・シーンには他にいないと思います。ある意味、異端とも言えるスタイルですよね? p>
ピー・サグ「Chromeoを結成した時から、俺達は音楽的な“異端者”だった。これは自ら選択したというよりも、純粋に俺達のセンスだね。シーンのトレンドがエレクトロクラッシュだった頃、俺らは、アルバム『She’s In Control』(’04)で見せたような生のファンクをやっていたし、Boys NoizeやJusticeのような、ディストーション・サンプルや、ヘヴィーでアグレッシブなサウンドが主流だった時には、滴音のようなリバーブや、Quincy Jonesのようなプロダクションを用いた。何を影響源とするか、そしてトレンドを追うかどうかは、自分たちで自由に決めているんだ」
__なるほど。このたび約3年ぶりに発表した、ニュー・アルバム『Business Casual』は、どんなコンセプトの作品なのでしょうか? p>
ピー・サグ「これは、Pink Floydの作品みたいなコンセプト・アルバムというわけではないけど、全体を通して、親しみのあるテーマを持った、グルーヴあふれる楽曲を収録しているよ。あと、このアルバムは、カセットテープのように二つの面を持っているんだ。アナログ・レコードで聴いてもらうと分かると思うけど、サイドA(前半)は、よりファンク色が強いグルーヴ、サイドB(後半)は、バラードとクラシックなソフト・ロック的要素で構成されている」
__たしかに本作のサウンドは、’80sミュージックの単なる再現に終わらず、オリジナリティーにあふれていると感じました。 p>
ピー・サグ「俺達は、ある一定のところまでは’80sの要素を取り入れるけど、一人よがりになってしまわないよう気をつけているからな。今作には、’70年代後半のソフト・ロックや、バラードの要素を多く取り入れた。これまでと同じことを繰り返さないためにも、アンテナを張る音楽の幅を、常に広げるよう心がけているんだ。新たな音を出すために、今回は新しいシンセを使って、音色づくりにも多くの時間を費やしたよ」
__前作『Fancy Footwork』よりレベルアップしたサウンドを届けるために、新たに挑戦したことはありますか? p>
ピー・サグ「今回は、ソングライティングに集中したね。ピアノ・コードのみで楽曲を発展させたのは、新たな挑戦だったよ。具体的には、ピアノ・コードに重点を置きながら、歌をベーシックな部分まで分解していき、その後、Chromeo特有のサウンドを肉付けしていったんだ。いきなり曲全体のサウンドを組み立てるのではなく、まずは歌の基本的な部分から、制作に着手したのさ。この方法をとったことで、歌の本質に触れることができたね」
__その結果、ボーカルはどのようにパワーアップしましたか? p>
ピー・サグ「今作のボーカルは、過去のものよりも深みが増して、より音楽的になったと思うよ。もちろん、Chromeoらしい、楽しいダンスの要素も維持するよう意識したさ。進化をしつつも、自分達のサウンドを失わないよう、バランスを保ちながら曲づくりしていったよ」
__リード・シングル「Don’t Turn The Lights On」には、どんなメッセージを込めましたか? p>
ピー・サグ「この曲を逆再生すると、Allister Crowley(※編注: ’80年代後半〜’90年代に注目を集めた、カルト系のイギリス人魔術師)が、一節歌い始める…って、それはジョークだけど(笑)。「Don’t Turn The Lights On」は、アルバムの中でも、最もシリアスなことを歌っている曲の一つさ」
__そうなんですね。この曲では、“目”をモチーフにしたユニークなミュージック・ビデオも印象的でした。 p>
ピー・サグ「あまりにシリアスになりすぎないように、ビデオには、奇抜なビジュアルや面白い展開を盛り込んだのさ。遊び心を少しだけ入れて、この曲のメッセージを、リスナーが文字通りに受け止めすぎないようにしたかったんだ」
__その一方、もう一つのシングル曲「Night By Night」は、Chromeoが以前から大事にしている、セクシーさが前面に押し出された楽曲ですね。この曲のビデオでは、デイヴ・ワン(Chromeo)がキレのいいダンスを披露していたので、驚きました。 p>
ピー・サグ「「Night By Night」は、スピード感のある、大都市的な要素をイメージした曲なんだ。それを表現する方法はいくつもあったけど、とにかく歌に込めたエネルギーを放出したかった。そこで俺達は、ビデオに’80sの伝統的なダンスを取り入れてみたんだ。これは、ビデオの監督をつとめたJeremie Rozanのアイディアなんだけど、とても気に入っているよ。特に、冒頭に映っている、デイヴのポケットに入った歯ブラシのシーンとかね(笑)」
__ところで、「When The Night Falls」には、R&BシンガーのSolange Knowlsがボーカル参加していますね。彼女とコラボレートした感想はいかがでしたか? p>
ピー・サグ「彼女はもともと、デイヴ・ワンの弟でもある、A-Trakと知り合いだったから、Chromeoの音楽も聴いていてくれたんだ。だから、このコラボレーションはとてもスムーズで、心地のいいものだったよ。彼女は、とても素晴らしい歌声を披露してくれたね!」
__Solange(Knowls)のクリアーなボーカルは、Shannonのような’80年代のフリースタイル・シンガーを彷彿とさせますね。 p>
ピー・サグ「どちらかというと俺達は、MadonnaやChaka Khan、Evelyn Champagne Kingといったディーヴァのことを思いながら、「When The Night Falls」を書いたんだけどね。この曲は、アルバムにファンクの要素を加えるために、制作期間の終盤にレコーディングしたものなんだ」
__その他に、本アルバムにおける重要曲はどれでしょうか? p>
ピー・サグ「最も気に入っている曲の一つは、「J’ai Claque La Porte」だね。普段俺達がやるようなことから、完璧に逸脱した内容になっているのと、フレンチ・バラードをChromeo流に表現できたのが、その理由さ。Chromeoは二人ともフランス語が母国語だから、そういう意味でもこの曲がアルバムに入っているのは、素敵なことだと思うよ」
__話は変わりますが、『Business Casual』のアルバム・アートワークは、Robert Palmer(※’70〜’90年代に活躍を見せた、UKの大御所ブルー・アイド・ソウル・シンガー)の『Pressure Drop』からインスパイアされたものだそうですね。 p>
ピー・サグ「あぁ。こういった昔のクラシック作品によく登場する、“洗練された色気”を再現するのが好きで、今作では足をキーボード・スタンドのような形で、融合させてみたんだ。『Pressure Drop』のアートワークそのものというよりは、あのジャケットが代表するようなスタイルが重要なのさ。説明するのが難しいけど、すごく良いヴァイブスを持っているよね」
__最後に、Chromeoの活動ビジョンを教えてください。 p>
ピー・サグ「俺達は、今後も良質な音をつくり、バンドを継続的な存在にしたいと思っているよ。ファンのみんなが、Chromeoの音楽を聴きたいと思う限りね!」
interview & text EMIKO URUSHIBATA
translation AKIMOTO KOBAYASHI
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