Schroeder-Headz interview

DE DE MOUSEや佐野元春、PUFFY、CHEMISTRY、BONNIE PINKなど、著名ミュージシャンのライブやレコーディングに参加しているキーボーディスト、渡辺シュンスケ。自身のソロや、カフェロン名義で、精力的なライブ活動を行っている。DE DE MOUSEのライブで、激しいパフォーマンスを披露しているキーボーディストといえば、ピンとくる読者も多いことだろう。

そんな彼が、このたび新たなソロ・プロジェクト、Schroeder-Headz(シュローダーヘッズ)を始動。ファースト・アルバムとなる『newdays』をリリースした。エレクトロニカ、ブレイクビーツ、ポスト・ロックといった現代音楽の要素を、ジャズやクラシックのフィルターを通し、ピアノ、ベース、ドラムのトリオ編成+プログラミングで独自に構築した本作。ときにセンチメンタルに、ユーモラスに、情熱的に変化していく、リリカルな楽曲群を楽しむことができる、斬新な作品となっている。

生演奏と打ち込みの融合を、ピアノ・トリオという最小限の編成で追求した『newdays』。その誕生背景を探るべく、渡辺シュンスケに話を聞いた。


ーー本誌初登場ということで、まずは音楽遍歴から教えてください。

「幼い頃からピアノをやっていたわけではなく、学生の時にバンド・ブームだったので、そこから音楽の道に入ったんです。坂本龍一さんに憧れて、あんな風にピアノを弾けたらいいなと思っていましたね。で、音大に進学する前後あたりから、さまざまな音楽を聴き始めました」

ーー渡辺さんの活動で軸となっているジャズには、いつ興味を持ったんですか?

「クラシックの勉強は大学でやったんですが、それとは別にジャズを習いに行っていました。ビル・エヴァンスのようなモダン・ジャズの、知性を感じさせるところが好きで、自分でも弾けたらと思ったんです。進学で上京した頃、ちょうど’90年代でアシッド・ジャズが流行していたのも、ジャズに興味を持ったきっかけでしたね」

ーーSchroeder-Headzを始動したきっかけは何だったんですか?

「まずは、ピアノ・トリオをやりたかったんです。ピアノ・トリオって、ベース、ドラム、ピアノという一番ミニマムなアンサンブルの基本形態だと思うんですね。で、ピアノ・トリオってジャズのイメージがあるけど、ジャズにとらわれず、いろんな音楽をこの形態で表現したかったんです。特に、DE DE君がやっているような音楽を、生のピアノ・トリオ・アンサンブルに翻訳したら、すごく面白いんじゃないかと思いました」

ーーなるほど。Schroeder-Headzでは、音を音に翻訳するというのが活動のスタンスなんですね。

「そうですね。エイフェックス・ツインをジャズ・ピアノ・トリオで演奏する、ザ・バッド・プラスというアメリカのバンドがいるんですが、彼らが生でドリルンベースとかを演奏しているライブを観て、すごくカッコいいと思ったんです。原曲は、いわゆるジャズ的にカバーしやすい構造の曲ではないと思うけど、彼らの場合は、それをピアノ・トリオのアンサンブルにうまく翻訳しているんですよね。ほかには、エレクトロニカとかフォークトロニカも好きで、北欧のmumとか、morr musicのラリ・プナをよく聴いています。生楽器とエディットした音との境目が分からないものって、心地良いんですよね。Schroeder-Headzでも、完全な生演奏のみではなく、エディットを取り入れたりして、リリカルで気持ち良い音を表現できたらと思っています」

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ーー渡辺さんは、カフェロンではボーカルも担当されていますが、完全インストのSchroeder-Headzとは、全くテイストが違いますね。

「歌があると、どうしてもそちらに意識が傾くので、Schroeder-Headzでは、もうちょっと純粋に音を掘り下げてみたかったんです。それに、僕自身もダンス・ミュージックが好きなので、そちら側のリスナーにアピールできたらと思ったんです」

ーーなるほど。今作『newdays』の収録曲は、ベーシストとドラマーとともにセッションを重ね、その音をエディットして制作したんですか?

「ベーシストとドラマーに簡単なデモを聴いてもらって、まずはラフな音をつくり、それをエディットして、固めていった感じですね。通常の人間の演奏家は、曲の盛り上げる部分や抑える部分を、無意識に感覚でとらえて演奏していると思うのですが、そこを意識的かつ客観的に上手く引き出して、コントロールしたいと思いました」

ーーどんな部分に、エディットを加えたいとイメージしましたか?

「リズムですね。パソコンや機材でつくったビートの持つ、ズレのないジャストな気持ち良さってありますよね。そんな打ち込みのビートと、生演奏との一番いいバランスを、試行錯誤しながら探っていきました」

ーーさまざまなアーティストのサポートや、渡辺さん自身のライブ活動から得たフィードバックもまた、今作の軸になっているように感じました。

「そうですね。やっぱり人と演奏するのは、意外性もあるし、すごく楽しいんですよ。機材はずっと同じ音を繰り返し奏でることができるけど、人間が演奏する場合、いつも全く同じ音にはならないですよね。何でそれが気持ちいいんだろう? って思っていて、そこを掘り下げたかったんです。たとえば、手書きの文字が持つ味と、パソコンで打った文字の整然とした気持ち良さ、そのどちらもほしいので、うまいバランスで一緒になればいいなと思いました」

ーー本作の中で、特に印象深い曲はありますか?

「やっぱり「newdays」ですかね。制作中は、これをアルバムのタイトル曲にしようとは考えていなかったけど、完成した音を聴いたとき、やっとつくりたかった音を形にできたなと思いました」

ーーなるほど。「newdays」は、アルバムを象徴する一曲なんですね。

「そうですね。このアルバムをつくれたことで、自分の中でちょっと世界が変わったというか、初恋をしたときのような気分になりました。“景色が違って見える!”みたいな(笑)。今までと違う感覚で、すごく楽しんで制作できました」

ーーインストながら、どの収録曲からもエモーションを感じるのには、そういう理由があったんですね。最後に、読者へメッセージをお願いします。

「Schroeder-Headzは、ピアノ・トリオですが、ジャズとか特定のジャンルに偏らず、さまざまな音楽を聴く、現代の耳を持ったリスナーの方に、ぜひ聴いてもらいたいですね」

interview & text HIROKO TORIMURA

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skrew kid インタビュー

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高校時代に、Pavementに影響を受け作曲活動を開始し、名古屋を拠点に活動するポスト・ロック・バンド、ALL OF THE WORLDのメンバーとしても活躍する、YOSHIHIRO TSUCHIE。彼がバンドと並行して行っているソロ・プロジェクトのskrew kid(スクリュー キッド)名義で、約5年ぶりとなるセカンド・アルバム『room tapes』を発表しました。穏やかな休日の雰囲気をそのまま閉じ込めたかのような、ローファイで緩やかなインスト曲がつまった『room tapes』。本作がどのようにして生まれたのか、YOSHIHIRO TSUCHIEに話を聞きました。

「バンドでは、ダンス・ミュージックを意識していますが、その流れを汲みつつ、もっとテンポが緩くて、間のある音楽をやりたいと思い、skrew kidを始めました。あまりつくり込みすぎず、未完成な粗さが残っていて、体を揺らして聴ける音楽が好きなので、skrew kidでは、そんな自分が聴きたいと思えるものを、ライフワークとして制作したいと思っています」

そんなskrew kidの約5年ぶりとなるセカンド・アルバムが、ここにご紹介する『room tapes』だ。クラシック・ギターやローズ・ピアノの楽器音と、打ち込みのビートを軸に、シンプルなメロディーのループで構成された本作。まるで、穏やかな休日の雰囲気をそのまま閉じ込めたかのような、素朴で優しいサウンドに満ちた作品だ。その収録曲は、どのように形にしていったのだろう?

「外でお茶をしている時とかにイメージを膨らませて、それがある程度形になってから、絵を描くように音を具現化させていく感じです。実際に録音してみると、音の質感が変わってくることもあるので、そこからまた新たにイメージを膨らませていくこともあります。それと、前作よりも踊れる作品にしたいと思ったので、多少ビートも入れました」

オープンリールやテープ・エコー、テープ・レコーダー等、デジタル主流の現代には珍しい機材を用いて制作された本作。レコーディングの際は、録音した音をアナログのオープンリールで再生し、それを、細かなノイズも含めて、ハイビットでデジタル録音するというプロセスを繰り返し、心地よく聴こえる音の質感を探っていったという。

「デジタル・レコーディングだけでは、、すごくツルっとした音になるというか、楽器の持つキャラクターが消えてしまう気がするんですよね。それをまた、ザラついた音に加工するのは嘘くさいし、抵抗があったんです。ノイズも含めて、その時に偶然生まれた音が好きなので。それに、できるだけ使う音を少なくしたかったので、存在感のある音ができれば、一つ楽器を減らせるとも思いました」

風通しのよい軽やかさと、味わい深さをあわせ持つ、日常生活に心地よく馴染む音がつまった『room tapes』。本作は、聴き手のくつろぎの時間を、優しく彩ってくれることだろう。

Of Montreal『False Priest』インタビュー

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 米ジョージア州アセンズ出身のサイケデリック・ポップ・バンド、オブ・モントリオール。前作『Skeletal Lamping』(’08)で新境地を切り開き、一気に知名度を高めた彼らが、通算10作目のアルバム『False Priest』をリリースしました。その内容は、従来のサイケでグラムなテイストはそのままに、ファンク~ディスコ的なフィーリングも加わった、よりグルーヴィーな音世界を表現したもの。ソランジュ・ノウルズ(ビヨンセの妹)とジャネル・モネイも参加した、話題作となっています。

そんな『False Priest』の内容について、バンドの中心人物、ケヴィン・バーンズに話を聞きました。

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iLL 最小で最大の音世界を創造する、中村弘二の新たなるサウンド・デザイン

スーパーカー、NYANTORAを経て、変幻自在の音楽を追求している中村弘二(ナカコー)の音楽プロジェクト、iLL。’06年に『Sound by iLL』で衝撃的デビューを果たして以来、様々なシーンから注目を集めてきた、ユニークなアーティストだ。『Dead Wonderland』(’08)、『ROCK ALBUM』(’08)、『Force』(’09)と、これまでに計4作のオリジナル・アルバムを発表。今年6月には、山本精一+勝井祐二、向井秀徳、POLYSICS、ALTZ、Base Ball Bear、DAZZ Y DJ NOBU、the telephones、RYUKYUDISKO、moodman、ABRAHAM CROSS、ace、ASIAN KUNG-FU GENERATION、clammbonという個性的なアーティスト達が参加したコラボレーション・アルバム『∀』(ターンエー)をリリースし、話題を集めている。

そんなiLLが、10月13日に、早くも通算5作目となるオリジナル・アルバム『Minimal Maximum』を発表する。近年作の定番レコーディング・メンバーである、沼沢尚(Dr)、ナスノミツル(B)、西滝太(Keys)と共に、最小限の音楽的環境から最大限の作品をつくり出すべく制作に臨んだ、進展作だ。新たなエレクトロニック・サウンドのアイディアや、より洗練された演奏をベースにつくり出したその楽曲群は、「Seagull」や「With U」を筆頭に、ミニマルなテイストを独自に解釈した、イマジネイティブな音世界が広がるものとなっている。

自身が“肉体的で冷めた感じのダンス・ミュージック”と表現する、iLLの最新作『Minimal Maximum』。本作の内容について、中村弘二に話を聞いた。


【コラボ作品『∀』で得たもの】

__最新アルバム『Minimal Maximum』のお話の前に、今年2010年の活動状況について、少し振り返らせてください。今年に入ってから、the telephones『A.B.C.D. e.p.』のプロデュースや、コラボレーション・アルバム『∀』(ターンエー)のリリースなど、他アーティストの制作が多かったですね。このタイミングで、そういった他アーティストとの共同作業を多く行ったことには、何か理由があるんですか?

「the telephonesとの作業に関しては、オファーをもらった時に、ちょうど自分の制作も終わって、単純に時間が空いていたので、“ああ、全然できますよ”って感じだったんですよ。『∀』に関しては、前々からコラボレーション・アルバムをやりたいと思っていたんですけど、参加してもらうアーティストのタイミングと、こっちのタイミングが合ったんで、つくることができた感じでしたね」

__ちなみに、the telephonesとは、以前から面識があったんですか?

「いや。オファーがきてから、彼らと初対面しました。で、“こういうことやりたいんですよ”って話をもらったんで、“ああ、じゃあやってみようか”って感じで…(笑)。自分の制作とは違う現場で、面白かったですよ」

__『∀』の方は、どのくらい前から構想していた作品だったんですか?

「かなり前から、コラボレーション・アルバムをやりたいと思ってましたね。でも、他にやらなきゃいけないことが結構あったんで、ずっと後回しにしていたんです。で、実際に声をかけ始めた時期は、アーティストによってバラバラだったんで…なんとも言えないですね。去年の夏に声をかけた人もいれば、今年の初めに声をかけた人もいたんで。で、その間にthe telephonesのお話をいただいたり、って感じだったんですよ」

__なるほど。では、そもそもコラボレーション・アルバムをやってみたかった理由は、何だったんですか?

「それは、これまであんまりコラボレートをやったことがなかったからかな。自分と違う人が制作した曲に手を入れる作業って、面白いじゃないですか。で、なんかそういう作品ができたらいいなって思っていた時期に、ちょうど宇川(直宏)さんがUKAWANIMATION!を始めたりして、やっぱり面白いって感じたんですよ。で、“自分だったらこうやる”みたいな、具体的な土台が見えたんです。それで、自分が興味のある人達とか、どういう内容の曲をつくるんだろう?って思った人達に、声をかけていきました」

__『∀』を制作してみて、新たに得たもの、再発見できたことは、どんなことでしたか?

「どんな音楽が自分の手元にきても、とりあえずそれに対応するというのは、自分がやっていきたいと思っていることなんで、それが具体的な作品として形にできたことは、良かったかな。自分は器用にやれるだろうなぁ…って思っていたことが、実際にやれたから、そこは確認できましたね」

【ライトなイメージの最新作『Minimal Maximum』】

__では、『Minimal Maximum』について、教えてください。まず、今作は『∀』と平行して制作していた作品なんでしょうか?

「そうですね。去年の9月、10月くらいに仕込みをして、今年の初頭にレコーディングして完パケた作品です。今年は、アルバムを2枚出さなきゃいけないということが、わりと早い段階から分かっていて、しかも制作時期がかぶるということも分かっていたので、『Force』をリリースした後に、すぐ仕込みを始めたような感じでした」

__どういうコンセプトで制作を始めましたか?

「『Minimal Maximum』の方は、わりとライトなアルバムしようというイメージで、制作を始めましたね。うん、ライトなアルバム…ですね(笑)。聴いた時に、40~50分があっと言う間に過ぎるような、あんまりヘヴィーじゃないアルバムにしたかったです。あんまり重かったり、すごく難しいことをやっているようなアルバムじゃない方が、いいと思って。’70年代のアルバムには、7~8曲で終わりみたいなレコードが結構あるじゃないですか。そんなような存在感のアルバムにしたかったんですよ。そういうのは、結構以前からつくりたかったものでもあったんで」

__なるほど。曲づくり自体も、ある種ライトな感じで進めていったんですか?

「まぁ、仕込みをした段階で、ある程度曲にはなっているものもありましたけど、音はあるけどメロディーがないとか、そんな曲もありましたね」

__そもそも、iLLの楽曲制作やリリース・ペースは、かなり早い方だと思うのですが、日頃から曲をつくり溜めていたりとかもしているんですか?

「いや、最近はもう、制作が決まってからじゃないとつくらないですよね。あんまり普段から曲をつくらなくてもいいかなぁ…と思って(笑)。普段から曲をつくっていたら、大変ですよ。もちろん、何をつくりたいのかといったことは、常に考えてますけどね。でも、その時実際につくらなくても、頭の中で思っていればいいというか、いざつくり始めたときにそれが出せればいいかなって、最近は思うようになったんです」

__制作の中では、どこに一番時間をかけいるのでしょうか?

「うーん。実際に作業をする時間よりも、何をつくるかというネタ探しの方に時間をかけている感じですね。そこには、時間をかけてます」

__“Minimal Maximum”というアルバム・タイトルの意味合いについて教えてください。

「ライトなものをつくろうと思ってやっていた中で、このアルバム制作は『∀』の制作とかぶっていたこともあって、最小限のスケジューリング、最小限の日数で良いものを、最大限のものをつくらなくちゃいけないというものになったんですよ。その考え方は、音とも少しはリンクしますしね。それでこのタイトルを思いついたんです。本当は“ミニマム・マキシマム”なんですけど、それはクラフトワークがもうタイトルで使っちゃっていたので(編注:『ミニマム・マキシマム』は、’05年に発表されたクラフトワーク初の公式ライブ・アルバム)、“ミニマル・マキシマム”にしとこうかな、と(笑)」

__最小限の要素から最大限の音楽を引き出すというのは、ある種、近年のiLL作品に共通するアイディアのようにも感じますが、いかがですか? 以前から、シンプルな表現とか、シンプルなレコーディングを重視しているようですが。

「音を良く聴かせたいという思いがあるので、あんまりゴチャゴチャさせたくないんですよ。一つの音がだんだんと変化していく様子を伝えたいから、それを追求していくと、音も少なくなるし、楽曲もすごくシンプルになっていきますね。でも、一番は、音を良く聴かせたい、ということですね」

【iLL流、ミニマル・テイスト】

__サウンド面についても、話を聞かせてください。今作には、エレクトロニックなテイストの楽曲が多く収録されていますが、その理由は何でしたか?

「レコーディングは、いつものメンバーとしたんですけど、“打ち込み主体になります”とは言ってありましたね。最近打ち込みモノをあんまりやってなかったし、ミニマルの人じゃないけど、ミニマル・テイストの音を出すような人達、ミニマルな世界の音が好きな人達が増えたから、ちょっとやってみたくなって」

__ちなみに、いつものメンバーというのは、沼澤尚さん(Dr)とナスノミツルさん(B)ですか?

「あとは、西竜太さん(Keys)ですね。それと、「Love」と「With U」の2曲にだけ、お手伝いとしてagraphが参加しています」

__ミニマル系ではないミニマル・テイストの音を出す人達というのは、具体的にはどんなアーティストのことですか?

「うーん。名前を覚えないんで、具体的には言えないんですけど(笑)、そういう人達が、けっこう良いCDを出していたりするんですよ。実際にそうなのか分かりませんけど、きっとハットの音が大好きで、ハットに命かけてるんだろうなって人のCDとか。それだったら、打ち込みをそういう風に使っていくといいかもって思ったんです。それは、パターン的じゃない打ち込みの使い方ということですね」

__なるほど。

「例えば、リカルド・ヴィラロボスとかは、わりとミニマルを代表する人ですけど、そういう耳で聴いて面白い作品を出していますよね。でもそうじゃなくて、リカルドまではいかないんだけど、やっていることはリカルドと近くて、わざとリカルドにはなりたくない、みたいなことをやっているような人達のCDがあって、それを結構好きで聴いているんです。もっとポップだったり、ミニマルと言わずにミニマルをやっているようなアーティストの作品ですね。…名前は覚えないんですけど(笑)。やっぱりドイツの人達が多いのかな」

__では、今作の音づくりで特に意識したことは何でしたか?

「生楽器と打ち込み楽器が自然とくっついているような、肉体的で冷めた感じのダンス・ミュージックをやってみたかったかな。去年、ザ・フィールドのライブを朝霧JAMで見たんですけど、それにはわりと感銘を受けましたね。こういうやり方があるんだって、思いました。あのライブは、肉体的なのに冷めた感じがあって、良かったですよ」

【自由でストイックなレコーディング】

__レコーディングのプロセスは、どのように進めていきましたか?

「曲によって違うんですけど、打ち込みが多い曲の場合は、僕がまず全体をつくって、それにあわせて皆さんに弾いてもらいましたね。で、良ければそれでOK。あんまり後から編集したりはしなかったですよ。で、みんなで演奏するような曲の場合は、普通にみんなで演奏しました」

__特にエレクトロニック色の強い「On The Run」や「Seagull」のような曲も、ほとんど編集はしていなんですか?

「「On The Run」の方は、ほとんど僕一人で完結しているような曲でしたね。「Seagull」の方は、打ち込みを聴いてもらいながら、沼澤さんとナスノさんに、好きなように演奏してもらって、その中から良いテイクを選びました。だから、内容に関わる編集はしてないんですよ」

__そうなんですか。もう生演奏自体が、ある種ミニマムというか、ミニマル的なんでしょうか?

「そうですね…。“いつものようにやってください”って感じでしたけどね(笑)。“アレです、アレ”、“ああ、アレね”って感じで。そんなんでした。でも、その時何を弾くかは、みんな自由なんですよ。録音したものを聴き返す時に、“ここは、もうちょっと落としてみましょうか”とか、“もうちょっと上げましょう”みたいな話はしますけど、その時も、具体的にこう演奏しましょうみたいなことは、一切言わないですから。というのも、ある種のパターンみたいなものをただ演奏してしまうと、楽曲に合わなくなってしまうんですよ」

__どういうことですか?

「なんと言うのか…ストイックに、ゆっくりと変化していく音楽をやっているので、それに対して、聴いたことのあるようなベースラインだとかフレーズを弾いてしまうと、やっぱりちょっと違和感があるんです。だから、自然とそういうものではない演奏になっていきましたね」

__アルバムの軸になった楽曲は何でしたか?

「5曲目の「Seagull」と、10曲目の「With U」ですね。この2曲は、今、最もやりたかったことを形にした曲なんで、重要視していました。他の曲は、この2曲を軸にバランスをとってつくった感じですかね。さすがに「Seagull」や「With U」のようなトラックだけでアルバムを構成するのは、ちょっと厳しいと思ったんで、バラエティーをということで、他の曲を散らしていきました」

__リリック面に関しては、今作ではどんなことを意識したのでしょうか?

「歌詞は、曲としての音世界がちゃんとできてから、最後にまとめて書きました。だから、音に合わせて言葉をつけていくような作業でしたね。で、わりと満遍なくというか…繰り返しの歌詞にはしたいと思ってました。下手すると、1~2行だけの歌詞でもよかったくらい。本当は、もっと言葉を減らしたかったんですけどね。例えば、ダンス・ミュージックの歌詞って、そんなにいっぱい言葉が乗っているわけでもないじゃないですか。多くて2フレーズくらいで、それを組み合わせて使っていたりしますよね。このアルバムの歌詞では、それの、もうちょっと肉体的なことをやりたかったんです」

__サウンド面にしてもリリック面にしても、そもそもナカコーさんがミニマムな表現に魅力を感じている理由というのは、何なのでしょうか?

「リミテッドな世界の中でどれだけ面白いことがやれるか、という主旨の制作は、やりがいがありますね。素材はコレしかありませんという状況の中で、どれだけデザインしてセンスを見せられるか、という話ですから。だから面白いんですよ」

【『Minimal Maximum』と『∀』のギャップとは?】

__アルバム制作中のエピソードとして、何か印象に残ったこと、面白かったことがありましたら教えてください。

「『Minimal Maximum』の制作は、『∀』の制作と比べると、本当に淡々としていましたね。『∀』のレコーディングは、毎回ゲストがやってきて、わりと華やかだったんですよ。見たことない人達がいっぱいやってきて、言わば『さんまのまんま』みたいなもんだったから(笑)。“あ~、ゲストが来た。へぇ”みたいな。でも、こっちのアルバム制作では、そういうのが全くなかったんで、そのギャップが凄かった」

__目に浮かびます(笑)。

「だから、『∀』の制作の翌日に『Minimal Maximum』の制作があったりすると、スタジオの雰囲気が全く違っていて、それは面白かったかな。“今日は人がいないなぁ…”みたいな。しかも、こっちの方は作業も早くて、一日で5~6曲くらい録っちゃうから、二日間で完パケちゃって、“じゃ、お疲れさまでした~”みたいな。で、その後は一人で地道な作業をコツコツと。対称的でしたね」

__『∀』と『Minimal Maximum』は、そういう意味では、ある種対になっている作品とも言えるのかもしれませんね?

「まぁ…内容的には全然対になっていませんけど、作業行程に関しては、そうでしたね(笑)」

__今作は、ナカコーさんの中で、どういう位置づけのアルバムになりましたか?

「どのアルバムもそうなんですけど、前からやってきたことと、自分がこの先やりたいこと、そのバランスの取り合いの中でつくっていった作品でしたね。それに加えて、ライトなものをつくりたいというイメージもあったんで、気軽に聴ける存在のアルバムと捉えてもらえると、ありがたいです」

__次回作の構想は、もうなんとなくできているんですか?

「次のアルバムでは、わりともっと露骨に好きなことをやろうかなって思ってます。「Seagull」や「With U」のようなトラックのみで構成されたアルバムも、一度やってみたいですね。こう…ダンス・ミュージックって言い方は、ちょっと違うような気がしますけど、どれだけ肉体的で冷めた、踊れるビートをつくれるのか、みたいなことはやってみたい」

__ちなみに、これまでにリリースしてきたiLLのアルバムの中で、ご自身の中で一番印象深い作品はどれになりますか?

「それは、やっぱり一枚目の『Sound by iLL』(’06)ですね。すごく考えてつくったアルバムだったし、たぶんこの先もつくらないタイプのアルバムだと思うんで。あの時は…病気だったと思いますよ(笑)。でも、『Sound by iLL』があったから、何でもできるような気がしています」

__では、最後に今後の活動予定を教えてください。11月には新代田FEVERで、毎回異なるゲスト・アーティストを招いて、4デイズ・イベントをやりますね。

「そうですね。一日一日形式の違うセットでやろうと思ってるんですけど、まだどうなるか分からないですね。『Minimal Maximum』の楽曲もやると思いますよ。あとは…特にないですね。平和に生きていければ、それでいいかなぁ(笑)」

TOKYO HOUSE UNDERGROUND – Milton Jackson Destination EPインタビュー

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現在進行形の“東京”、そして、“アンダーグラウンドなシーン”というフィルターを通して、世界の新進気鋭作家を紹介するという目的で発足した、 TOKYO HOUSE UNDERGROUND。Apt. Internationalが、配信リリース限定で毎月お送りする、新プロジェクトです。

このたびその第一弾として、Freerangeなどから作品を発表し、欧州のみならず世界的に評価を受けているディープ・ハウサー、Milton JacksonのニューEP、『Destination』がリリースされることとなりました。ここでは、“まさにMilton節!”と唸りの上がる好楽曲、「Destination」を引っ提げた、彼のインタビューをお届けします。

TOKYO HOUSE UNDERGROUND – Milton Jackson Destination EPインタビュー

CHiE インタビュー

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10代〜20代の女性から多くの支持を獲得してきたR&Bユニット、Foxxi misQのメンバーとして2006年にデビュー、バンドでの活動経験を生かし、豊かな音楽センスを発揮していたフィメール・シンガー、CHiE。このたび彼女が、ソロ・デビューを果たし、ファースト・シングル『Beautiful Ladies』をリリースしました!

ここでは、ソロ活動への意気込みと、デビュー曲へ込めた思いに迫るべく、CHiE本人に話を聞きました。

CHiE インタビュー

TOKYO HOUSE UNDERGROUND – Milton Jackson リリース第一弾、Destination EPインタビュー

現在進行形の“東京”、そして、“アンダーグラウンドなシーン”というフィルターを通して、世界の新進気鋭作家を紹介するという目的で発足した、TOKYO HOUSE UNDERGROUND。Apt. Internationalが、配信リリース限定で毎月お送りする、新プロジェクトです。

このたびその第一弾として、Freerangeなどから作品を発表し、欧州のみならず世界的に評価を受けているディープ・ハウサー、Milton JacksonのニューEP、『Destination』がリリースされることとなりました。ここでは、“まさにMilton節!”と唸りの上がる好楽曲、「Destination」を引っ提げた、彼のインタビューをお届けします。

まず、あなたの音楽的なルーツを、うかがいたいと思います。幼少の頃に影響を受けた音楽、そしてエレクトロニック・ミュージックに興味を持つきっかけになったアーティストを、それぞれ教えてください。

「エレクトロニック・ミュージックを聴き始めたのは、1990年代中盤から後半にかけてだね。ドラムン・ベースやハウスが好きだったんだ。若い頃は、Kerri ChandlerやLTJ Bukemが好きだったんだけど、歳をとるにつれて、Steven Tangみたいな、ディープでメロディックなテクノにひかれていったね」

そういったルーツは、自身の音楽に反映されてると思いますか?

「たぶん、初期のドラムン・ベースは、自分の音楽に影響していると思うよ。(初期のドラムン・ベースが持っていた)ヴァイブスを見習おうとしているし、自分のインスピレーションは、そういった古い楽曲から導き出されることが多いんだ」

あなたが近年発表している作品は、温かみがありながらも、ディープかつテッキーな、独特の風合いを持っていますね。日本にも、ファンがたくさんいます。こういった、独特なサウンドを生み出す秘訣はあるのでしょうか?

「制作には、LogicとAbleton(Live)を一緒に使っているよ。たくさんのサンプルとピッチを、シンセの代わりに使っている。そうすると、温かみのあるサウンドになるんだ。あと、たくさんのアウトボード、サミング・ミキサー、Oberheim Matrix(※ヴィンテージ・シンセ)と、Akaiの古いサンプラーも重要な機材だね。オークションでシンセを買うのが好きで、何曲かの制作に使っては、すぐ売ってしまうんだ。常に新鮮でいる為にね。

その他にも、制作に関してこだわっている点はありますか?

「ドラムをサンプリングするために、昔のレコードをたくさん買っているよ。アナログからサンプリングすると、音に温かみが生まれるからね。そのやり方だと、ノイズも一緒に取り込むことになるんだけど、サンプルCDからサンプリングしたような、キレイすぎるキックよりも、素晴らしいことは確かさ。だから、アナログからサンプリングするのが一番いい方法だと思っているよ。それに、最近はみんな同じような機材を使って、同じサンプルCDを買っているだろう? 僕の音には、それとは違う独自の風合いがあると思うよ」

あなたは、Apt. Internationalがお届けする配信楽曲シリーズ、TOKYO HOUSE UNDERGROUNDの第一弾アーティストにピックアップされましたが、このプロジェクトの軸となっている、東京には、どんなイメージを抱いていますか?

「東京は、いつ行ってもフレンドリーで、探索するにも、レコードを買うにも最高の場所だよ。日本のクラブでは、ちょっとエクスペリメンタルなプレイも許容されるし、ヨーロッパよりもオープンな部分がたくさんあると思うよ」

これまでに来日した際の、印象的なエピソードがあれば教えてください。

「東京には、これまでに3回行ったことがあるんだけど、毎回いい体験をしているよ。そのうち一回は友達と一緒に行ったんだけど、アルコールと時差ボケのダブルパンチで、友達が思いっきりダウンしてしまってさ。僕のDJ中に、彼がステージから落ちてしまったことがあったね。ステージはとても高いところにあったから、病院に連れて行かなくちゃと思ってたんだけど、彼は大丈夫だったよ。翌朝は築地の魚市場にいったんだけど、魚の匂いが、二日酔いの彼をさらに気分悪くさせていたよ(笑)」

TOKYO HOUSE UNDERGROUND第一弾リリースとなるニューEP、『Destination』表題曲のコンセプトを教えてください。

「日本に向かう飛行機に乗るとき、僕はいつもすごく興奮しているから、「Destination」では、その気持ちを再現しようと思ったのさ。ヨーロッパから日本へのフライトは、ロシアの上を通るから、北極圏の近くを飛ぶだろう? タイミングが良ければ、そこで素晴らしい景色が見られるんだ。この曲には、そんな気分を当てはめたかった。だから曲名も、「Destination」にしたのさ。メロディーに多様な動きがあって、旅行をしているような雰囲気を持った曲だね」

今後、TOKYO HOUSE UNDERGROUNDシリーズでピックアップすべき、おすすめのクリエイターはいますか?

「James Blakeの作品は、興味深いと思うな。R&Sからアルバムがリリースされる予定なんだけど、彼の音楽はショッキングだよ! Skudgeの楽曲も、疾走感があって僕好みだな。TOKYO HOUSE UNDERGROUNDでは、彼らやShur-i-kanといったクリエイターを、フックアップするべきだよ! 彼らなら、必ずいい作品を提供してくれると思う」

その他、最近興味を持っている音楽や、凝っていることはありますか?

「個人的には、1980年代後半から1990年代にかけての、古いダンスミュージックを掘るのが好きなんだ。特にこの時代の、フレンチ・ディープ・ハウスは最高だよ。あとは、Soundcloudで古いDJミックスを探すことにも凝っているね。最近、DJ Deepが1994年に発表したDJミックスを見つけたんだけど、とても素晴らしかったよ!」

Interview & Text by Keita Takahashi

CHiE 新たなフィールドへ羽ばたいた、希代のダンス・ポップ・ディーヴァ

2006年にデビューし、10代〜20代の女性から多くの支持を獲得してきたR&Bユニット、Foxxi misQ。その中でも、バンドでの活動経験を生かし、豊かな音楽センスを発揮していたのが、ここにご紹介するCHiEだ。DJ KOMORI「Flash」にゲスト参加するなど、その歌声とダンス・パフォーマンスは、本格派のクラブDJからも評価されている。

今年7月に、Foxxi misQは活動休止を発表、そんな中、CHiEがこのたびソロ・デビューを果たすこととなった。ソロ活動への意気込みを、彼女はこう話す。

「ユニットでは、三人で楽しく意見を言いながらできたけど、誰かに甘えちゃう部分も正直あったと思うんです。ソロだと、自分が追うべき責任の重みが全然違いますよね。“自分がこうしたい”っていう意思を、強く持つ必要があると思っています」

ここにご紹介する『Beautiful Ladies』は、そんなCHiEが満を持して送り出す、ファースト・シングル。タイトル曲「Beautiful Ladies」は、エレクトロの要素を取り入れた、ニュータイプのダンス・ポップ・チューンだ。

「「Beautiful Ladies」は、今までと違うスタイルだからといって、特別に難しいとは感じなかったですね。女の子らしくありつつも、耳に残る印象的なドラム・ロールやビートが入っていて、すごく好きな曲です」

そんな「Beautiful Ladies」では、いわゆるラブ・ソングとは異なる、“女子らしい日常の楽しみ方”や、“自分を磨くことへの欲求”といった、新しい視点の歌詞が展開されている。

「「Beautiful Ladies」の歌詞では、いわゆる“女子会”みたいな、女の子どうしで集まった時の雰囲気を表現しました。思いっきり楽しみつつも、“今日のあの子は、こういうファッションなんだ。じゃあ私は、今度こうしてみよう!”って、考えたりしているイメージが、このトラックには合うと思ったんです」

また本作には、アップテンポなR&Bチューン、「Sweet Love」や、CHiE自身が作詞に参加した、メロディアスなミドル・バラード、「Still Love You」も収録されている。これらの楽曲では、彼女の本来的な魅力を堪能することができるだろう。

「「Sweet Love」は、懐かしさと今っぽさが両方ある、メロディー・ポップですね。コーラスの厚みがあるので、レコーディングは大変でしたけど、良い曲になったと思います。「Still Love You」は、女性ならではの温かさや、優しさが表れた曲ですね。感情移入を一番しやすかったです」

なお、本シングルの初回限定盤には、「Beautiful Ladies」のPVを収録した、DVDが付属している。CHiEの新しい側面がうかがえる、幻想的なビジュアル・イメージの同ビデオも、要注目だ。

『Beautiful Ladies』を皮切りに、新たなスタートを切ったCHiE。11月には、早くもセカンド・シングルのリリースも決定しているので、その動向からは、今後も目が離せない。

Underworld インタビュー

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世界屈指のダンス・アクトとして活躍するアンダーワールドが、『OBLIVION with Bells』(’07)以来となる、待望のオリジナル・ニュー・アルバム『バーキング(Barking)』を9月2日にリリースします。マーク・ナイト&D・ラミレス、ダブファイア、ポール・ヴァン・ダイク、ハイ・コントラストといった、クラブ・ミュージック・シーンの人気/注目プロデューサーとのコラボレート曲を中心にした、従来とは全く異なるアプローチで制作された意欲作です。

そんな『バーキング』の内容について、カール・ハイドに話を聞きました。

Underworld インタビュー

RÖYKSOPP インタビュー

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昨年、約三年ぶりに待望のニュー・アルバム『ジュニア』をリリースした、ノルウェー出身のエレクトロ・ポップ・ユニット、ロイクソップ。彼らが、その『ジュニア』の姉妹作として、かねてより話題を集めていたアルバム『シニア』を、9月8日に日本先行リリースします。同作品は、従来の華麗な音世界とは異なる、趣味性の高いディープなサウンドを探求した注目作です。
ここでは、そんな本作の背景を探るべく、メンバーのスヴェイン・ベルゲに話を聞きました。

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