幼稚園の同級生で、中学時代に曲づくりを始めた、の子(G/Vo)、高校時代にバンド活動を始めたmono(Key)、ちばぎん(B)の三名と、の子に声をかけられて’08年に加入したみさこ(Dr)からなる、千葉出身の4ピース・バンド、神聖かまってちゃん。彼らは、インターネット上で公開する過激なデモ曲/PVや、奇行とも呼べる破壊的なパフォーマンスを映した動画で話題を集め、この1~2年の間に一気にその名が知られるようになった注目株だ。特に’10年の活躍は目覚ましく、3月にインディーズからリリースしたファースト・ミニ・アルバム『友だちを殺してまで。』は、3万枚を越えるセールスとなり、7月に4千枚限定でリリースしたシングル『夕方のピアノ』は、即日完売を記録。9月には、渋谷AXで初の自主企画ライブも成功させている。
そんな時代の寵児、神聖かまってちゃんが、メジャー・デビューとなるアルバム『つまんね』(11曲収録)と、インディーズからの発売となるアルバム『みんな死ね』(13曲収録)の2作品を同時リリースした。新曲はもちろん、ネットで公開されている楽曲も全てレコーディングし直し、バンドの中心人物、の子が思い描く音世界をストレートに表現したというこの2作。その内容は、彼らにしか表現し得ないメロディーとサウンドに、リリックとボーカルが交差・衝突を繰り返す、時に恐ろしく、時に美しい、前代未聞のものとなっている。
2010年最大の衝撃作とも言える『つまんね』と『みんな死ね』。その内容について、神聖かまってちゃんのメンバー、mono、ちばぎん、みさこの三人に話を聞いた。当初メンバー全員にインタビューを行う予定だったが、の子は突然の発熱に見まわれ、急遽欠席となってしまった。
2010年の活動とメジャー・デビュー
__2010年の神聖かまってちゃんには、ファースト・ミニ・アルバム『友だちを殺してまで。』の発売やNHK出演をはじめ、様々なトピックがありましたが、一年の活動を振り返ってみてどんな感想をお持ちですか?
ちばぎん 「…キツかったですね。神聖かまってちゃんは、本当に絶妙なバランスの上に成り立っているバンドなんで、そのバランスがちょっとでも崩れると、すぐにバンド内でいざこざが起きるんですけど、そういうことも多かったですし、急激に増えたお客さんの反応についていくのも大変でした。お金も、とにかく全然入らなかったし…(笑)」
mono「僕は、このバンドを通じて、まさか骨折するとは思わなかったですね(編注:monoは、11/19に行われた渋谷WWWのこけら落とし公演で、の子と殴り合いとなり、その後楽屋の壁を殴り右手を骨折した)。バンドをやってなかったら、こんなことにはなってなかった。もっと平和に生きていたと思います。今年は、音楽業界でいろんなことに携わらせてもらって、他では味わえない経験をいろいろさせてもらう機会が多かったですね」
__それは、刺激的で楽しい経験でしたか?
mono「いやぁ、そういう感じじゃなかったですね。分からないことがまだまだいっぱいありますし、楽しいと思えるようになるのは、もっと先かなって思います」
__みさこさんは、いかがでしたか?
みさこ 「こんなマイナスなことばっかり言ってていいのかな(笑)。私は、わりと楽しかったですね。やっぱり、バンドをやっていて一番好きなのはライブなので、一年を通じてお客さんの数が増えて、ライブに来て盛り上げてくれたりするのは、楽しかった。ただ、不安定なライブをよくしてしまうので、ヒドいライブをして、すごくヘコんでしまった時もありましたけど(笑)」
__2010年末、神聖かまってちゃんはアルバム『つまんね』で、遂にメジャー・デビューを果たしました。メジャーから作品を発表するのは、かねてより目標にしていたことだったんでしょうか?
ちばぎん 「そういった目標は、特になかったですね。今マネージメントしてもらっているインディーズ・レーベルの人達から、“メジャーに行くと、流通や広告の力が大きくなって、よりいろんな人達に聴いてもらえるようになるよ”って勧めがあったので、こういう形になりました。だからメジャーに行くという目標があったわけじゃなくて、より多くの人達に聴いてもらえるなら、それでいいんじゃないか、ということでしたね。いろんな人達に聴いてもらいたいというのは、メンバー全員が純粋に思っていることでしたから」
__神聖かまってちゃんの音楽では、いわゆるメジャーとはかけ離れた部分に魅力があったりするわけですが、その点に関して不安などはありませんでしたか?
ちばぎん 「それは、僕らよりも、アルバムを出そうと思ったワーナーさんにあったんじゃないですかね(笑)。実際、某レコード会社の方がライブを観に来た時、内容がヒドくて怒って帰ったことがあった、という話を聞いたことがありますけど」
みさこ 「そういう時に限って、ものすごいヒドいライブなんだよね(笑)」
『つまんね』と『みんな死ね』の違いとは?
__メジャー盤『つまんね』は、インディーズ盤のアルバム『みんな死ね』と同時リリースされますが、メジャーとインディーズからアルバムを2枚同時リリースすることにしたのは、どうしてなんですか?
ちばぎん 「もともと、コンセプトをもとに収録曲を組み合わせて、アルバムを2枚出そう、というアイディアがあったんですよ。で、どっちのアルバムを先に出そうかという話になっていたんですけど、結局決着が付かなかったんで、じゃあ同時に出しちゃおうという話になりましたね」
__では『つまんね』と『みんな死ね』に、どのようなコンセプトで楽曲を振り分けていったんでしょうか?
ちばぎん 「『つまんね』の方が暗いアルバムで、『みんな死ね』の方が明るいアルバムです(笑)。もっと言うと、『みんな死ね』の方にはロック・バンドっぽい曲が多くて、そのメッセージも明るいものになっていると思います。で、『つまんね』の方は、打ち込み系の曲も入ってて、そのメッセージは暗いものになってますね」
みさこ 「タイトルと照らし合わせると逆じゃないのかって言われるんですけど、メンバーの総意で、暗い方が『つまんね』です。『つまんね』の方は、先にこのタイトルが決まっていたんですよ。で、アルバム・ジャケットに使う写真とか曲順を決める段階で、の子さんが“あ~、もう締め切りばっかで決めらんねぇ。みんな死ね!”って思って、もう一方のアルバム・タイトルは決まった感じでした」
__『みんな死ね』というタイトルは、その時の子さんが感じた心境を表したものなんですね。レコーディングは、2枚同時に進めていったんですか?
ちばぎん「いや。それぞれ全く別のスタジオで、違うエンジニアさんと一緒にレコーディングしました。で、『つまんね』の方は、7月に、『みんな死ね』の方は9月にレコーディングしましたね。レコーディング期間は、それぞれ1ヶ月です」
バンド形式に囚われない音づくり
__サウンド面について教えてください。『つまんね』の方は、シンセやエフェクター等を駆使した、かなりアヴァンギャルドなサウンドを打ち出したものとなっていますが、サウンドメイキング面で特に重視したことは何でしたか?
ちばぎん 「まず、これはどちらのアルバムにも言えることなんですけど、基本的にはの子のデモ音源に近づける、ということを意識しましたね」
みさこ 「の子さんが待っている曲のイメージ、“これはもっとキラキラした感じ”とか、“後半にかけてもっとうねらせる”とか、そういったことをエンジニアさんに伝えたんですけど、特に『つまんね』の方のエンジニアさんは、そのイメージをより洗練した形で音にしていってくれたと思います」
__monoさんはいかがでしたか?
mono「やっぱり、なるべくの子が表現したい世界観を壊さないよう、デモの音に近づけることを重視しましたね。あと、特に『つまんね』に関しては、バンドという意識での作業をあんまりしなかったです。バンドっていうものに囚われないやり方でやっていきました」
__それは、やはりの子さんの制作するデモのサウンドが一番良い、という判断からなんですか?
mono「というか、の子がそうしたいからそうなっちゃった、って感じでしょうか(笑)。の子のワガママを三人で聞いたってだけですよ」
ちばぎん 「まったくもって、その通りです」
__では、レコーディング作業自体も、一般的なバンドのレコーディング・プロセスとはかなり異なるものだったんでしょうか?ドラム、ベース、ギター、キーボードを順番にちゃんと録って…というような。
ちばぎん 「いや、そこはベーシックにやっていきましたよ」
mono「『つまんね』の方には、そこから後の作業で、ちゃんとレコーディングしたのかすら分からないくらいの方法で進めていった曲があった、ってことですね」
__ライブで再現してくのが大変そうですね。
ちばぎん 「いや、ライブでの再現という話では、『みんな死ね』の方がはるかに大変です。自分達でプレイできるかどうかは置いといて、の子のデモの中からコンセプト重視で曲を選んでいったんで、結果『みんな死ね』の方には、一回も練習したことのない曲が結構入ってしまったんですよ。なんで、レコーディング当日に練習しながら録った曲も、いくつかあるんです。だから、今やれって言われても、ちょっと無理(笑)」
__なるほど。現時点では『つまんね』と『みんな死ね』、どちらのアルバムが気に入っていますか?
mono「『つまんね』、ですね」
みさこ 「私も、『つまんね』の方が良くできたと思います」
ちばぎん 「エンジニアさんのタイプに違いがあったということもあるんですけど、『つまんね』の方が、世界観にまとまりが出たと思います。『つまんね』には、2週間くらいエンジニアさんの感覚でミックスしてもらえる時間があったんで、そのミックスを僕らが聴いて確認していく感じだったんですよね。一方『みんな死ね』は、ワガママをエンジニアさんに全部聞いてもらった分、良くも悪くもまとまりのない印象です」
みさこ 「『みんな死ね』のエンジニアさんは、言った通りのことを一つ一つやってくれる人だったので、結果的にの子さんの音づくりにおける荒々しさみたいなものが、そのまま残ったと思いますね」
ちばぎん 「まぁ、どちらのアルバムも、これが今の僕らにできる限界ですよ(笑)。技量的にも、時間的にも、予算的にも、これ以上のことはできないです」
__楽曲として気に入っている曲は、何になりますか?
ちばぎん 「僕は、「笛吹き花ちゃん」ですね。この曲は、の子も、mono君も、入れたい音が多すぎて、キーボードやギター・シンセを入れまくっていった結果、40トラックくらいのトラック数になっちゃったんですよ。もうグッチャグチャになってました。で、の子は、“もうコレは無理だ”って投げちゃったんですけど、僕とエンジニアさんで“なんとかしてみるよ”って言って、二人で作業をしていった結果…とまでは言わないですけど、いい感じにまとまって良かったなって思ってます」
mono「僕は、「美ちなる方へ」です。単純に、リスナーと同じ感覚で歌、メロディー、雰囲気、世界観が好きですね。ネット上で聴けるデモのバーションも良いんですけど、アルバムのバージョンにはまた違った良さがあるので、CDを買ってくれた人には聴き比べてもらえたらなって思います」
みさこ 「私は、「芋虫さん」です。デモのバージョンにあった世界観がもともとすごく好きだったんですけど、その柔らかい雰囲気をバンド演奏の方でも残せたので、良くできたなぁって感じてます」
神聖かまってちゃんは、シューゲイザー?
__曲づくりのプロセスについても少し話を聞かせてください。神聖かまってちゃんの場合は、の子さんがデモを制作した後、バンドとしてどのように楽曲をまとめていくことが多いんですか?
ちばぎん 「まずは、ネットに上がっているデモとほぼ同じ音源を、の子がメンバーにCD-Rで渡してくれますね。で、メンバーはそれを聴いて、それぞれフレーズをつくってきて、バンドで合わせます。その後、ライブでやるときはもうちょっと短くしようといったことを、の子と話し合いながら形にしていきますね」
mono「僕は、の子が考えたメロディーをそのままコピーしているだけですけどね(笑)。の子が、デモの段階で結構細かく考えてくるんで。だから、僕が常日頃考えていることと言ったら、常に切ない感情を表現しながら弾く、ってことくらいです。ライブでは、ちょっとアレンジを変えて弾いたりしてますけど、でも、あんまり目立たないようにやってます」
ちばぎん 「ベースに関しては、全曲イチからつくり直してますよ。そもそもベースが入ってないデモもあるし、そのまま弾くとグチャグチャになるのも多いんで」
__の子さん的には、その部分に関しては異論なく?
ちばぎん 「の子は、ベースなんて全く聴いてないんですよね(笑)。自分で“女子高生の耳”って言っているくらいですから。だから、好き勝手にやってます」
__神聖かまってちゃんが現在のメンバーで活動を始めてから、現在のスタイルに行き着くまでには、どのような試行錯誤がありましたか?
ちばぎん 「このメンバーになった時には、もう結構スタイルは確立していたと思いますね。その前の、の子、mono君、僕、もう一人ヘルプという編成で2~3年やっていた時とか、さらにその前の段階の時には、いろいろ試行錯誤もあったんじゃないかと思いますけど。このメンバーになる前の時代に、どんなバンドにしようかって話をしたことがあったよね?」
mono「うん、あったかもね。…覚えてない(笑)」
ちばぎん 「その頃の曲には、『みんな死ね』に入っている「あるてぃめっとレイザー!」みたいな、ハード・ロックっぽいものが多かったんですけど、そういう激しい曲の中にも、子供のような純粋さとか、純粋であるがゆえのねじれや怒りみたいな世界を出していった方がいい、って話をしたことがありました」
__具体的に、“あのバンドみたいなサウンドはどうだろう?”みたいな話をしたことはないんですか?
ちばぎん 「ほとんどないですね」
mono「強いて言うならば…マイ・ブラッディ・ヴァレンタインみたいにブワァ~とした、ノイジーだけど幻想的な感じの世界観を大事にしたい、という話をしたことはありますけど」
__では、神聖かまってちゃんのサウンドをシューゲイザー的だと評する人が多いのには、バンド側としても異論はない、という感覚なんですね。
mono「そうですね」
みさこ 「私は、まだシューゲイザーがどういうジャンルなのか分かってないんですけど(笑)」
mono「いや、実はオレも良く分かってないから(笑)。分かってないけど、“そうですね”って言ってるの」
の子の魅力は、メロディーセンス
__メンバー三人にとって、の子さんがつくり出す音楽の魅力は、どこにありますか?
ちばぎん 「メロディーラインのキレイなところ、ですかね」
みさこ 「私は、の子さんのメロディーと歌詞の組み合わせに面白さを感じています。歌詞だけを切り取ると、共感できないものもありますけど」
mono「…って感じですね(笑)」
ちばぎん 「の子自体は、実は歌詞にそれほど深い思い入れがあるってわけでもないみたいなんですよ」
__あなた達が、神聖かまってちゃんの音楽を通じて追求し、表現していきたい音世界とは何でしょうか?
ちばぎん 「それは、“の子の世界”ってことになるんじゃないでしょうかね。の子のメロディー、の子の音楽性を、バンドとしていかに表現していくか、ということに尽きると思いますよ」
__皆さん、の子さんの才能に惚れ込んだ、という感じなんでしょうか?
みさこ 「…そうですねぇ。でも、協力したいし手伝いたいし、って思っているんですけど、の子さんをリスペクトしてひたすら付いていく感じかというと、そういうわけでもなかったりして、複雑な感じです(笑)」
ちばぎん 「うん、惚れてはいないですね(笑)」
mono「僕の場合は、もう腐れ縁ですね。もはや、何か共通の思いがあって一緒にいる、という関係ではなくなっちゃってるんですよ。だから、バンドが終わった後に、なぜ一緒にいたのか、という理由が分かるんじゃないかなって思います」
__では最後に、神聖かまってちゃんの今後の活動目標を教えてください。
ちばぎん 「もう一年くらいは解散しないことですね」
mono「同じです」
みさこ 「今日も、本当はの子さんも来る予定だったのにね。申しわけないです」
mono「昨日無理したから熱が出ちゃったのかな…」
interview & text FUMINORI TANIUE