Kenichiro Nishihara コンセプト・アルバム『Rugged Mystic Jazz for TALISKER』インタビュー

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1996年に、ファッション・ブランドMILKBOYのショーで選曲を担当したことをきっかけに、パリ・コレクションの音楽ディレクターや、CM音楽のプロデューサー、DJとして活躍を見せているマルチ・クリエイター、Kenichiro Nishihara。彼がこのたび、スコットランドのスカイ島を原産としたシングル・モルトウイスキー、TALISKERをイメージしたコンセプト・アルバム、『Rugged Mystic Jazz for TALISKER』を、12月15日にリリースします。

ここでは、同アルバムの制作風景について、Kenichiro Nishihara本人に語ってもらいました。

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DUB STRUCTURE #9 ファースト・アルバム“SUGAR MORNING”インタビュー

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’07年に活動を開始した、東京を拠点とする4人組ダンス・ロック・バンド、DUB STRUCTURE #9(ダブストラクチャー・ナンバーナイン)。自らライブ / DJイベントを主催し、じわじわと注目を集めている、平均年齢25歳の新星バンドです。そんな彼らが、ファースト・アルバムとなる『SUGAR MORNING』をリリースします。そこで、本作の制作背景について、メンバーの4人に話を聞きました。

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Lily. セカンド・シングル“気づいてよ… I Love You”インタビュー

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2010年7月に、デビュー・シングル「遠く離れた場所で feat. C」を引っさげ、彗星のごとくシーンに現れた新人R&Bシンガー、Lily.。目立った活動経歴が無いにもかかわらず、一本のデモ・テープがきっかけでデビューを果たしたという、まさにシンデレラ・ガール的存在だ。時に繊細に、時に力強く響き渡る、深みのある歌声と、親近感あふれるメッセージは、多くのリスナーを魅了している。

ここにご紹介する「気づいてよ… I Love You」は、そんなLily.のセカンド・シングル。片想いという複雑な恋愛感情をストレートに表現した表題曲、「気づいてよ… I Love You」と、ポジティブなメッセージが詰まったエレクトリック・チューン「WITH YOU」に加え、デビュー曲「遠く離れた場所で feat. C」のニュー・リミックスが楽しめる注目盤だ。

ここでは、彼女のデビューにまつわるエピソードと、「気づいてよ… I Love You」に込めた思いに迫るべく、Lily.本人のインタビューをお届けする。

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CHiE セカンド・シングル『鍵をかけて』インタビュー

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R&Bダンス・ユニット、Foxxi misQのメンバーとして活躍し、クラブ・ミュージック・ファンからポップ・リスナーまで、幅広い層から支持を獲得してきた実力派シンガー、CHiE。今年9月に、シングル『Beautiful Ladies』でソロ・デビューを果たした彼女が、早くもセカンド・シングル『鍵をかけて』をリリースしました。

ここでは本シングルの内容について、CHiE本人に話を聞きました。

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Francesco Tristano『idiosynkrasia』インタビュー

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クラシックや現代音楽界で活躍する若きピアニスト、Francesco Tristano。テクノ・クラシックスを独自の奏法とアイディアでカバーしたアルバム、『Not For Piano』を’07年に発表し、クラブ・シーンでも一躍注目を浴びた存在です。近年では、Carl CraigやMoritz von Oswaldとコラボレーションしたり、自身が率いるピアノ・ユニット、Aufgang名義でアルバム『Aufgang』をリリースするなど、多岐に渡る活動を展開しています。

そんな彼が、オリジナル・アルバムとなる『idiosynkrasia』をリリースしました。なんと、Carl Craigをエグセクティブ・プロデューサーに迎えたという本作。その誕生背景について、Francesco Tristanoに話を聞きました。

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KIMONOS『Kimonos』インタビュー

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日本の音楽シーンに大きなインパクトを与えた、福岡出身のロック・バンド、ナンバーガールでの活動を経て、現在はZAZEN BOYSのフロントマンとして活躍する向井秀徳。日本人の父親とスウェーデン人の母親との間に生まれ、小学校、中学校、大学をイギリスで過ごした後、’06年に日本で本格的にアーティスト活動をスタートさせたシンガー・ソングライター、LEO今井。そのユニークな個性と音楽性で話題を集めてきた二人が、全く新しい音楽プロジェクト、KIMONOS(キモノズ)を始動させ、11月17日にいよいよフル・アルバム『Kimonos』をリリースします。

ここでは、そんな『Kimonos』の内容をLEO今井に、さらに、KIMONOSの音楽的背景を向井秀徳&LEO今井に語ってもらいました。

KIMONOS『Kimonos』インタビュー

KINGS OF LEON『Come Around Sundown』ワールド・オフィシャル・インタビュー

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ケイレブ・フォロウィル(Vo/G)、ネイサン・フォロウィル(Dr)、ジャレッド・フォロウィル(B)の三兄弟と、従兄弟のマシュー・フォロウィル(G)の四名からなる、米テネシー州出身の実力派ロック・バンド、キングス・オブ・レオン(KINGS OF LEON)。’03年にリリースしたデビュー・アルバム『ユース・アンド・ヤング・マンフッド(Youth And The Young Manhood)』が全英チャート3位、プラチナ・セールスを記録して以来、モダンで時に実験的なサウンドと、地に足着いたヴィンテージ・ロックを両立させた音楽性で、作品を発表する度に高い評価と人気を獲得してきた、現在のメインストリーム・ロック・シーンをリードする最重要アーティストです。

彼らが、モンスター・アルバムとなった『オンリー・バイ・ザ・ナイト』に続く、通算5作目となる待望の最新アルバム『カム・アラウンド・サンダウン(Come Around Sundown)』を、11月24日にリリースします(輸入盤は、発売中)。

ここでは、そんな最新作『カム・アラウンド・サンダウン』の内容を、彼ら自身が各曲解説を軸に語り尽くした、ワールド・オフィシャル・インタビューをご紹介しましょう。

KINGS OF LEON『Come Around Sundown』ワールド・オフィシャル・インタビュー

KIMONOS『Kimonos』interview

日本の音楽シーンに大きなインパクトを与えた、福岡出身のロック・バンド、ナンバーガールでの活動を経て、現在はZAZEN BOYSのフロントマンとして活躍する向井秀徳。日本人の父親とスウェーデン人の母親との間に生まれ、小学校、中学校、大学をイギリスで過ごした後、’06年に日本で本格的にアーティスト活動をスタートさせたシンガー・ソングライター、LEO今井。そのユニークな個性と音楽性で話題を集めてきた二人が、全く新しい音楽プロジェクトを始動させた。その名は、KIMONOS(キモノズ)。LEO今井は、向井秀徳がつくり出す実験的なオルタナティブ・ロック・サウンドに魅力を感じ、向井秀徳は、LEO今井が持つピーター・ガブリエルやブライアン・フェリーを彷彿とさせる洋楽的なメロディー・センスに関心を抱き、自然と二人で曲づくりをするようになったという。

そんな彼らが、大きな反響を呼んだ12インチ/iTunes限定シングル「Almost Human」に続き、11月17日にフル・アルバム『Kimonos』をリリースする。昨年から、向井が所有するMATSURI STUDIOで断続的に曲づくり/レコーディングを行い、吉田一郎(B:ZAZEN BOYS)が2曲でベースを、グレッグ・ソーニア(Dr:ディアフーフ)が1曲でドラムを担当した以外は、全てLEOと向井の二人でプログラミング/演奏を手がけた作品だ。気になるその内容は、’80年代のドラムマシンやシンセを駆使した、ソリッドでクールなサウンドと、彼らが紡ぎだす、時にエキセントリックで、時にエモーショナルなギター、キーボード、そしてボーカルが融合したもの。彼ら独特のメロディーと詞の世界が耳を刺激する、イマジネイティブでオリジナリティーあふれるアルバムに仕上がっている。

ここでは、そんな『Kimonos』の内容をLEO今井に、さらに、KIMONOSの音楽的背景を向井秀徳&LEO今井に語ってもらった。

interview & text Fuminori Taniue
photo Junji Hata

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Part 1:interview with LEO今井

__LEOさんと向井さんの出会いは、’07年に、ご自身のイベント“City Folk”に向井さんを誘ったことがきっかけだったそうですね。

「そうですね。その時に初めて会って、ちょっと話をしました。で、3〜4ヶ月後、私が『Fix Neon』(’08)というアルバムを制作している時に、3曲くらいドラムをMATSURI STUDIOで録らせてもらいました。で、そのうちの1曲が、シングルになった「Metro」で、向井さんがギター、吉田一郎(ZAZEN BOYS)君がベースで参加して、向井さんが気合いの入ったギターを弾いてくれて、曲の質感がガラって変わった。私と向井さんは、ハーフ・ジェネレーションくらい年が離れているけど、音楽的な価値観には、共通するものを感じました。それで、また一緒にやってみたいって思いました」

__で、その後、向井さんと二人でカバー・プロジェクトを始めて、そこから本格的にKIMONOSの制作も始まったんですね。

「最初は、カバーEPでも出せたらいいかもと、半分遊びの気持ちで始めました。向井さんが、PINKとかトーキング・ヘッズのカバーをやると似合うんじゃないかって言い出して。で、いろいろと話をしたり、実際に録ったりしているうちに、そのカバー企画に飽きてきて、自然とオリジナルをつくり始めましたね。それで「Haiya」って曲がすぐにできたんですけど、“コレはいい”ってことになって、そこから“6曲くらい録ろう”、“アルバムにしよう”と、話が進んでいきました。去年の秋、今年の春、今年の夏と、三段階くらいで制作したんですけど、「Haiya」はその大きなきっかけになりました」

__本作には、「Sports Men」(’82/細野晴臣『フィルハーモニー』収録曲)が、カバーの成果として収録されていますが、この曲をピックアップした経緯は何だったんですか?

「結局、ちゃんとレコーディングしたカバー曲は「Sports Men」だけでした。「Sports Men」を録ったら、カバーはコレでもういいかなって気分になりました」

__オリジナル曲をつくり始めた時には、どんな構想があったんですか?

「そういうものは、特になかったですね。初期段階には、「Haiya」と、私の「Tokyo Lights」、あと「Soundtrack To Murder」や「Almost Human」の古いデモとか、結局アルバムには入らなかった曲が、ネタとしてありました。で、制作の途中に、二つ重要なことを話しました。一つは、とってつけたような安易なコラボレーションではなく、グループとしてイーブンに、一つにならなければいけない。そして、何かのリバイバルみたいなものとは違う、オリジナリティーと真のある共作をしなくてはならない、ということ。あともう一つは、“KIMONOS”というグループ名の由来についてですね」

__“KIMONOS”という名前は、LEOさんが観た大正時代の美人画、アルバム・ジャケットにも使った中村大三郎「ピアノ」や、山川秀峰「三姉妹」にインスピレーションを得たものだそうですね。

「そうです。“LEO今井&向井秀徳”みたいな名前でもよかったんだけど、それだとちょっとアカデミックな感じがしたので、もうちょっとグループ名っぽい方が良いんじゃないかということで、私の中にあったイメージ、大正時代の美人画の話をしたんです。ホノルル美術館がこういう絵をたくさん所有していて、数年前に展覧会をやっていたんですけど、その美人画を観て、大正デモクラシー、大正モダンって言葉がある通り、当時は日本文化と西洋文化が自由主義的に融合した、今以上にある種オープンな時代だったんじゃないか、って印象がしたんです。で、そんなイメージ、アイディアが、私の理想を刺激した。そして、和と洋が完全に調和したアルバムをつくりたい、って思ったんです。そうしたら向井さんは、私の説明の中で“KIMONO”という言葉にピンときたみたいで、この名前におさまりました」

__本作では、「Tokyo Lights」のリメイクを筆頭に、東京という街への思いがテーマになってるようにも感じましたが、その点は意識しましたか?

「結果的に、そこが私と向井さんの、一番の共通点になっているんだと思います。二人とも、東京という都市に対して、憧れと同時に疎外感や嫌悪感、要は複雑な気持ちを抱いている感じがある。二人とも異邦人、ストレンジャーとして東京にたどり着いて、居心地がいいんだか悪いんだか分からないような気持ち…。KIMONOSに限らず、お互いの作品においても、そういったことが大きなテーマになっていると思います」

__歌詞も和と洋が調和したものとなっていますが、二人でどのように考えていったんですか?

「曲によって、ケースバイケースでしたね。向井さんが書いた詞もありましたし、彼がしゃべった言葉を私が英語でメモった場合もありましたし、私が書き溜めていた詞もありました。例えば「Mogura」という曲では、私が以前録ったデモ2曲から、それぞれのボーカルを取り出して、新しい別のトラックに移植しました」

__本作では、ドラムマシンやシンセを軸にしたサウンドも印象的ですが、サウンドメイキング面ではどんなことを重視したんでしょうか?

「二人でつくっていきましたから、このサウンドが一番自然だった、ということだと思います。どうしても他のパンチが欲しかった「Soundtrack To Murder」や「Almost Human」には、グレッグ(・ソーニア/ディアフーフ)や(吉田)一郎君を呼んだんですけど、基本的にドラマーとベーシストはいませんでしたから、二人とも自然と打ち込みのモードになってました。二人とも普段は生ドラムの音楽を中心にやっているんで、ドラムマシンを使った曲づくりは新鮮でしたね。私は、リンドラムの激しい音にヤラれました。そういう音を使うと、音と音の間に隙間が生まれて、ある意味スカスカな感じになるんだけど、そのカチっとしたストイックな感じが逆にハードで、それは本当に新鮮だった」

__なるほど。

「私はこれまで、音を重ねてコンプレッスしまくるという、音の壁をつくる方法でトラックのハードさを出していたんだけど、彼は音を抜いていくんですよ。勉強になりましたね。料理に例えるなら、味付けをほとんどしないで、素材をそのままボンって出す感じ。生々しいというか、塩コショウもしないでステーキを焼くというか…。とにかく、そこにハードコアマザファッカーを感じたわけなんです(笑)。その結果が、このシンプルでドープなビートです」

__12インチとiTunesでのみリリースされた先行シングル「Almost Human」には、「No Modern Animal (Hudson Mohawke Remix)」も収録されていますが、このリミックスはどういう経緯で実現したんですか?

「ハドソン・モホークのアルバムを聴いた時、“すごいヤツがいるなぁ”って衝撃を受けたんですよ。で、このリミックスをお願いするにあたって、国内外のいろいろリミキサーの候補を挙げていったんですけど、彼がベストなんじゃないかと思ったんです。予測できない感じがあったんで、一番強烈なリミックスをつくってくれるんじゃないかなって。実際、面白いリミックスになりましたよね。もっとヘンなグリッチ・ホップみたいなことをやるのかと想像していたんですけど、こんなキレイな感じのリミックスにしてくれて、やっぱり驚かせてくれました。気に入ってます。ほとんどオリジナル曲であるところも、良い」

__LEOさんが、本作の中で個人的に気に入っている曲はどれですか?

「テンション的には「Tokyo Lights」ですね。自分のオリジナルも嫌いじゃないけど、今回のバーションができた時は、“コレだ”って感じがしました。あとは、やっぱり「Soundtrack To Murder」と「Almost Human」かな。両方PVがあって、今は「Soundtrack To Murder」のPVをつくっているところです。…でも、全曲いいですよ(笑)。このアルバムは、時間をかけて選曲もできたし、流れにもこだわったんで、アルバム全体を通して聴いてほしい」

Part 2:interview with 向井秀徳 & LEO今井

__向井さんは、「Tokyo Lights」を気に入っているそうですが、同曲やLEO今井さんのどんな部分にシンパシーを感じたんですか?

向井秀徳「LEOは、東京出身であって、これまでに世界のいろんな場所で生活していて、私と彼が会った時は、まだ彼が日本に戻ってきてから間もない頃でした。それで、彼はずっと東京で暮らしてきた人間じゃないので、そういった人がつくった東京の風景というものに興味を持って、そして共感を抱きました。私も、九州の佐賀からバンドで東京に出てきまして、今はもう東京で生活して10年以上になるんですけど、九州から出てきた時のカントリー野郎が見る東京というのは、やっぱりずっと東京にいる人とは違うものなわけですよ、当然」

__ええ。

向井「で、私の場合は、単に田舎から出てきたもんだから、最初は、ビルが壁のようにあるだとか、そういうことから、わりと分かりやすい感じの、すごく無機質で冷たい印象を持ったりした。でも、そういう印象を持ちながら、実際に日常生活を送っていくと、東京の隙間に、いろんな人間っぽい営みが見えてきた。で、私は、東京に来た時に感じた無機質な印象と、実生活における生々しくて現実的な東京というものをない交ぜにして、これまで曲をつくってきたんですけど、そういった目線と近いものが「Tokyo Lights」にはあるな、と」

__なるほど。

向井「「Tokyo Lights」は、東京を愛でているのか、攻撃しているか分からない歌で、そのLEO今井独特の眼差しが好きでした。そこが、彼の音楽の核でもあると思います。だから、そういった部分は、KIMONOSの大きなポイントとして、まずあります」

__LEOさんの方は、ZAZEN BOYSやナンバーガールの音楽に初めて接した時、どこに魅力を感じたんですか?

LEO今井「私が、ZAZEN BOYSを最初に聴いて共感した部分は、音楽的なオリジナリティーと、その攻撃力でした」

__それで、’09年に二人でこのプロジェクトを始めた当初、まずはPINK「Don’t Stop Passengers」(’86)【1】や、トーキング・ヘッズ「This Must Be the Place」(’83)のカバーをやってみたそうですが、この時はどんなヴィジョンを思い描いていたんですか?

向井 「その時の自分らのテンションというのは、“遊んでみよう”といった感じの温度感でした。で、私の中に、LEO今井がやると似合うと思った曲がいくつかあったから、リクエストした」

LEO「最初、向井さんは、“やってみればいいじゃん”みたいな感じでしたよね。それで、私が、“じゃあ一緒にやりましょうよ”って声をかけて、そこからスタートしました」

向井「PINKの曲は、私の中で忘れかけていた存在になっていたものです。中学1年とか2年の頃、福岡では深夜に『ミュージックトマト』という、テレビ神奈川の音楽ビデオクリップ番組が放送されていて、あれが唯一の、日本のロックの情報源だった。洋楽は、もっといろいろありましたね。民放で『MTV』って番組もやってたし、『ポッパーズMTV』とか、ローカルで『ナイトジャック福岡』という番組もやってて、それは竹内出さんが司会でしたね。まぁ、そういった番組の中でPINKを聴いた時、他の日本のバンドと比べて、すごく個性的で大人っぽい印象がしたんです。子供が聴いてはいけないような匂いを感じた」

__分かります。

向井「友達は、もっと元気がいいタテノリのビート・ロックとかを聴いてましたけど、私はこまっしゃくれたガキだったんで、そういう音楽を聴くことで、自分の精神年齢を上げたかったんだろうね。PINKは、そういう記憶の片隅に置かれていた存在だったんですけど、LEO今井の音楽を聴いた時、それが何故が蘇ったんです。何か通じるものがある、と」

LEO「PINKというと、最初はアメリカの女性アーティストのことかと思ったんですけど、すすめられて実際に聴いてみたら、衝撃的でした。私は、ホッピー神山さんとスティーヴ衛籐さんは知っていたんですけど、彼らが昔、PINKってバンドをやっていたことは知らなかった」

__では、LEOさんから“KIMONOS”というユニット名の由来になった、大正時代の美人画の話を聞いた時、向井さんはどう感じましたか? 中村大三郎の「ピアノ」は、本作のジャケットにも使用されましたが。

向井「私は、最初に山川秀峰「三姉妹」を見たんですけど、我々がつくっている音楽の本質を突いたテーマを持っているな、って思いました。東京という街の中で、いろんな文化が混ざり合っているイメージ——だから、そこにあるのは、必ずしも和洋折衷というイメージではない、と思ってます。和洋折衷というと、琴とドラムンベースとか、そういう分かりやすいイメージしか湧いてこないと思うんですけど、そういうことではないですから」

LEO「私はこのプロジェクトに、もっと本質的な部分で、“和”とか“洋”という概念が関係なくなるくらいに融合・調和している、そういうイメージを持っていたんです。で、私が、大正時代の美人画のことを説明していると、“着物”という言葉に向井さんがピンときて…」

向井「うん、“KIMONO”というグループにしたかったんです。でも、KIMONOってグループが他にいて、アイスランドに。それで、“KIMONOS”になりました」

__音楽でも映画でも本でも何でもいいのですが、アルバム制作にインスピレーションを与えたものとしては、美人画の他にどんなものがありましたか?

向井「私は、例えば1曲目の「No Modern Animal」という曲にはパーカッションが入ってるんですけど、アレをつくっていた時には、キップ・ハンラハンの『Coup De Tete』(’81)【2】がアタマにありました。あの、有機的な16ビートのパーカッションと、ソリッドなビートが入っているニューヨークっぽいノリが、カッコイイなって思った。私は、ニューヨークのロックが昔からすごく好きで、それに対して憧れにも近い感情を持っています。トム・ヴァーラインとか、ソニック・ユースとか、やっぱり非常に“クール”なんですよ。ギターの音から情念が伝わってくるのに、その質感はすごくクール。で、自分もそういう表現をしたくて、ずっとやってきたんだけど、なかなかそうは上手くいかない。もっとスラっとしていて、頬がコケていて、目の下にクマがあるようなスタイルの持ち主じゃないと、あれは様にならないのかもしれない」

LEO「ニック・ケイヴみたいな感じ」

向井「まぁ、そういうクール・サウンドへの憧れというのがずっとあるので、なるべくソリッドな音にしたかったですよ。なんていうのかな…自分の中にあるアクの強さというものを、自分で薄めたかった」

__LEOさんとコラボレートすることで?

向井「そう。LEO今井だったら、私が思い描くあの“クールネス”を表現してくれるんじゃないか、と思いながらやってました。ただ、LEO今井も決してアクが弱い表現者じゃないので、KIMONOSの音楽は、やっぱりアクの強いものになったと思いますけど。…それはしょうがないか?」

LEO「うん。それはしょうがないね」

向井「でも、ビートの冷たい質感、冷たいけど肉感的な質感というのは、出せたと思う。’80年代のドラムマシンというものには、機械なんだけど、魂が宿ってる気がする。例えば、ジャストに打ったリンドラムのあの音色、音圧、周波数には、魂が宿ってる感じがする。実際に私は、’80年代のドラムマシンで組んだリズムパターンを、ずっと1時間くらいループして聴いていることがあります。ブギー・ダウン・プロダクションズに『Criminal Minded (Instrumentals / Hot-Club-Version)』(’87)【3】っていうのがあるんですけど、アレ、最高ですよね。『Criminal Minded』のヴァージョン集で、ドラム・サウンドだけ聴けるんですけど、あれには涙が出てきます。なんで、ドラムに関してはそこまで持っていきたいな、とも思ってました」

__本作にある’80年代的なテイストというのは、ドラム・サウンドに因る部分も大きいんですね。

向井「打ち込みでやるなら、ザ・ドラムマシンな方法が一番だと思ってましたからね」

LEO「ドラム音を打ち込む時は、“ハッ!ハッ!”って、発声しながらやりましたよ。そこに魂を吹き込むように」

向井「うん。それ、重要」

LEO「あと、上モノに関しては、私はスティーヴ・ライヒ【4】が大好きで、ああいうミニマリズムの要素を取り込もうとしました。アルバムができ上がった頃には、ティアーズ・フォー・フィアーズの作品を聴いたりもして、そういった要素の取り込み方に共感しましたね」

向井「ライヒ・スタイルのシーケンスというのは、LEOの中にコンセプトとして結構あった。私はそんなに詳しくないけど、ああいうパーカッションに近いアタック音のシーケンスというのは、どの曲にも結構入ってると思います」

LEO「あと、Warp RecordsやRephlexのアーティスト、特にマイク&リッチの『Mike & Rich』(’96)【5】とかも、私はよく聴いてました。…二人組の作品ってあんまり聴かないから、自分のレコード・コレクションから前例を探そうとしましたね。で、ダークスローンの『Panzerfaust』(’95)なんかも出てきました。ジャンルは全然違うけど、ミニマルで冷たいのにヘビーで熱い。そいういう意味では、彼らと近いものがあると思いました」

向井「二人組のユニットって、例えばティアーズ・フォー・フィアーズも、MGMTもそうなんだけど、なんかガリ勉っぽいんですよ。二人組というと、なんかそういう落ち着いたイメージしか思い浮かばなかったから、そういうのじゃない何かに持っていきたかった」

__音楽以外で、何かインスパイアされた作品はありましたか?

LEO「映画の話は、二人でよくしていました。で、僕は日本映画の知識があんまりないから、向井さんからいろいろ教えてもらったりしました。KIMONOSの音楽とは直接関係していないですけど、『ジャズ大名』(’86/監督:岡本喜八、原作:筒井康隆)【6】を借りて、それ観ることで、向井さんのことをもっと知ることができた気がしました」

向井「『ジャズ大名』は、私が音楽をやる上で基本にしている映画で、一言で言えば狂乱状態、混乱状態の映画なんですけど、すごいグルーヴ、うねりが生み出されているんですよ」

__なるほど。

向井「あと、「Almost Human」のPVを撮影する前日に、私はジャン=リュック・ゴダールの『軽蔑(Le Mépris)』(’63)【7】を観ました。やっぱり映画に関しても、私はクラスのみんなが観ているような映画は観ないという、こまっしゃくれたガキだったんで、ヌーヴェルヴァーグの退屈な映画を観ていたんですよ。ただ、そうは言っても素晴らしい作品なんで、PVで参考にしました。ゴダールの、あのドリー(カメラの台車)を使った横移動のスピード感、テンポが好きで。でも、当日スタジオにレールがなかったんで、クローズアップ/クローズアウトでいこうということで、ああなりました。静かなんだけど、ただならぬ雰囲気がある、そんなPVにしたかったです」

LEO「あと「Miss」をつくっていた時、ジョン・カーペンター『ニューヨーク1997(Escape from New York)』(’81)【8】のテーマ曲に近いものがあると、向井さんに指摘され、聴いたら確かにその通りだと思いました」

向井「ジョン・カーペンターの映画は、ある意味、自分の中で悪夢に近いものだな。カーペンターは自分で音楽もつくるんだけど、またそのサントラがね、それこそミニマルなシーケンスで、悪夢感に拍車をかけるわけよ。「Miss」のとっかかりになったベースラインは、LEOが持ってきたんだけど…怖いわ、確かにコレ」

LEO「それは、トラウマですね」

__今回KIMONOSとして、二人でアルバムをつくり終えて、いかがでしたか?

向井「KIMONOSの音楽には、表面的には非常に落ち着いた質感があるんだけど、“いやいや、オレ達は東京で温度高く生きているぞ”という叫びも、ちゃんと入れられたと思いますね。“アグレッシブでいたい in 東京”、そういうテンションや疾走感は、出せたと思う」

LEO「やっている時は気づかなかったんだけど、KIMONOSの歌詞を振り返って読んでみると、理想と現実の境を扱ったものが多いと思いました。自分は今、現実を生きているけれども、やっていることは、自分の夢を形にしているというか、現実を拒絶しているところがあるというか…。本当に偶然なんですけど、このジャケットに描かれているお嬢さんがピアノで弾いてる曲って、シューマンの「トロイメライ(夢)」(『子供の情景 (op.15)』第7曲)なんですよ。正に夢。ただそれだけなんですけど」

向井「ふーん、でも、それ面白いね」

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inspiration source of KIMONOS

【1】PINK – 光の子 <Amazon 中古盤CD>
(1986:Moon/East West Japan)

【2】KIP HANRAHAN – Coup De Tete <HMV>
(1981:American Clavé/Yellowbird/EWE)

【3】BOOGIE DOWN PRODUCTIONS – Criminal Minded (Hot-Club-Version) <Amazon>
(1987:B-Boy)

【4】STEVE REICH – Octet/Music for a Large Ensemble/Violin Phase <HMV>
(1980:ECM)

【5】MIKE & RICH – Mike & Rich <Amazon>
(1996:Rephlex/Sony)

【6】ジャズ大名 [DVD] <HMV>
(1986:角川エンタテインメント)

【7】軽蔑 [DVD] <HMV>
(1963:ジェネオン・ユニバーサル)

【8】JOHN CARPENTER – Escape from New York [O.S.T.] <HMV>
(1981:Silva/Rambling/Volcano)

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agraph『equal』インタビュー

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’08年に『a day, phases』でデビューを果たした、agraph(アグラフ)こと牛尾憲輔。’03年に石野卓球と出会って以来、電気グルーヴをはじめとする様々なアーティストの制作やライブをサポートしてきた、実力派エレクトロニカ・アーティストです。今年は、TETSUYA「Roulette」のリミックスを手がけたほか、iLLの最新作『Minimal Maximum』や、フルカワミキのバンドに参加するなどして、活動の場を広げています。また、先日行われたアンダーワールドのZepp Tokyo公演(10.7)では、オープニング・アクトを務めています。

そんなagraphが、11月3日にセカンド・アルバム『equal』をリリースします。砂原良徳、ミト(クラムボン)、alva notoがプロダクションに参加し、ブックレットには円城塔の書き下ろし短編も付けられた注目作です。その内容は、生楽器の響きに着目した「Lib」、新たなリズムにトライした「nonlinear diffusion」、agraph流アンビエント・ミュージックにトライした「while going down the stairs i & ii」など、前作以上に繊細かつイマジネイティブな音世界を追求したものとなっています。

agraphの新たな音楽的アイディアが詰まった『equal』。本作の内容について、牛尾憲輔に話を聞きました。

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KINGS OF LEON『Come Around Sundown』ワールド・オフィシャル・interview

ケイレブ・フォロウィル(Vo/G)、ネイサン・フォロウィル(Dr)、ジャレッド・フォロウィル(B)の三兄弟と、従兄弟のマシュー・フォロウィル(G)の四名からなる、米テネシー州出身の実力派ロック・バンド、キングス・オブ・レオン(KINGS OF LEON)。’03年にリリースしたデビュー・アルバム『ユース・アンド・ヤング・マンフッド(Youth And The Young Manhood)』が全英チャート3位、プラチナ・セールスを記録して以来、モダンで時に実験的なサウンドと、地に足着いたヴィンテージ・ロックを両立させた音楽性で、作品を発表する度に高い評価と人気を獲得してきた、現在のメインストリーム・ロック・シーンをリードする最重要アーティストです。

特に、全英チャート初登場1位、全米チャート最高4位、そして700万枚のセールスを記録した4thアルバム『オンリー・バイ・ザ・ナイト(Only By The Night)』(’08)では、’09年度の英ブリット・アワード“最優秀インターナショナル・アルバム”、“最優秀インターナショナル・グループ”賞、米グラミー”ベスト・ロック・パフォーマンス賞”を獲得、さらに’10年度の米グラミーで、主要部門となる“最優秀レコード”ほか、“最優秀ロック・ソング”、“最優秀ロック・パフォーマンス”の三冠を受賞。 名実共に、世界的ロック・バンドへと飛躍した記念碑的作品となりました。

そんなキングス・オブ・レオンが、モンスター・アルバムとなった『オンリー・バイ・ザ・ナイト』に続く、通算5作目となる待望の最新アルバム『カム・アラウンド・サンダウン(Come Around Sundown)』を、11月24日にリリースします(輸入盤は、発売中)。 全世界がその内容に注目している重要作です。ここでは、そんな最新作『カム・アラウンド・サンダウン』の内容を、彼ら自身が各曲解説を軸に語り尽くした、ワールド・オフィシャル・インタビューをご紹介しましょう。

photo by Dan Winters
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__キングス・オブ・レオンの通算5作目となる最新作『カム・アラウンド・サンダウン(Come Around Sundown)』の、アルバム・タイトルについて教えてください。

ケイレブ・フォロウィル(Vo/G)「『カム・アラウンド・サンダウン』には、色んな意味があると思うんだ。例えば“夕暮れよ、早く来てくれ”って意味にも取れる。でも実際は、“夕暮れ頃にコーヒーを飲もうかな”って意味なんだ」

ジャレッド・フォロウィル(B)「“夕暮れ頃おいで”って、とるヤツもいるよね。夕暮れ頃、うちにおいでよ、みたいな。俺はそうはとらないけど。俺の場合は“夕暮れ頃に愛し合おうとしているところ”って感じかな!(笑)」

マシュー・フォロウィル(G)「暇なときはいつもアルバム・タイトルとか楽しいことを考えるよね。俺がある歌(注:カントリー・シンガー、ジョン・アンダーソンの「スモール・タウン」という曲の一節)を聴いていたら、‘come around sundown’って歌ってたんだ。で、“いいかも”と思ってメンバーに言ったら、“それはいいぞ“って話になってね。他のタイトル候補と一緒にお蔵入りするかと思ったら、即決まったような感じだった。わりと最初からこのタイトルに落ち着いていたね」

__今作のレコーディングのプロセスは、どのようなものでしたか?

ケイレブ「このアルバムには、脆い部分もたくさんあるんだけど、それはリハーサルなしに録音したものが多かったからなんだ。ほら、昔みんなが本物の音楽をつくっていた頃は、トラックのあちこちで音が飛んだり、割れたり、ドアの開く音が入っていたりするのが良かったからね。デビュー・アルバム『ユース・アンド・ヤング・マンフッド(Youth And The Young Manhood)』(’03)をレコーディングしていた時、どの曲だったか忘れたけど、よく聴いてみると…たぶん俺達にしか聞こえないと思うけど、トラックの後ろで誰かがビリヤードをやっている音が聞こえるんだ。玉のぶつかる音が聞こえる。それがいいんだ。ああいうのは、残しておかなくちゃいけない」

ジャレッド「いつも一発録りでやろうとしているし、できるだけ録音するようにしているんだ。それで、直さないといけない部分だけを直す」

ネイサン・フォロウィル(Dr)「ラジオ向けのヒット曲をつくろうとして、ストップウォッチで計ったりするようなバンドだったことはないよ。なにしろ、オンエアしてもらうには2分半とか3分くらいじゃないといけないから」

ケイレブ「俺達みんな、考えすぎるのは好きじゃないんだ。スタジオに入って、曲を一曲レコーディングするまでの時間は…信じられないと思うよ。3回プレイして“もう1テイク頼む”って言われても、“いいじゃないか、もう3回もやったのに。これが最終形になるんだから”って言うんだ」

マシュー「今回は、ほぼ完全に一発録りだった曲がいくつかあるんだ。「メアリー」は何から何まで、それこそソロ・パートまで一発録りだった。俺はそのソロをすごくやり直したかったけど、“いや、そのままにしておきなよ。すごくいいから”って言われてね。だから、“分かった”って言ったけど。あの曲は俺のために、完全にライブ・トラッキングされたんだ」

ケイレブ「スタジオで何もかも分割して、それぞれをできるだけパーフェクトな音にするなんてことは、やらなかった。そんなに完璧になったことなんて、本当にないんだからさ」

__曲順はどのように決めていきましたか?

ケイレブ「アルバムの曲順を決めるのは、いつも大変だよ。その時々でお気に入り曲が違うこともあるからね」

ジャレッド「「ビーチ・サイド」は「バック・ダウン・サウス」の次にくるべき曲だっていうのは、前から確信していたな。「バック・ダウン・サウス」のドラム・フィルに合わせた笑い声が「ビーチ・サイド」につながっていくのが、何かいいんだよね。すごくクールな感じがしてさ」

ケイレブ「各自で曲を全部並べてから、みんなで集まって、どの曲順が全員の希望に一番適っているのか見極めるんだけど…たいてい結構似通ってはいるけど、ちょっとしたズレがあるのが常だね」

ネイサン「みんなそれぞれ、理想のブックエンド(最初の曲と最後の曲)があるからね。それぞれ、“あの曲でアルバムを始めるべきだ、あの曲で終わるべきだ”って思っている2曲がある。他の部分はチェンジ可能だったりするんだけど…。ケイレブが言っている通り、全員の曲順を見て、全体で合意できる曲順を選ぶんだ」

マシュー「俺自身も、自分たちで曲順を決めるまでは考えたことがなかったけど、曲順は結構重要だって、みんなあまり知らないんじゃないかな。曲順がアルバムの雰囲気を完全に変えてしまうことだって、あり得る。全く違うアルバムにすることだってできるんだよ」

ケイレブ「曲順を決める時は、あの曲のエンディングは、この曲のイントロにうまくつながっていく、というのを考えるね。それは、アルバムづくりで楽しいことの一つでもあるよ」

__今作の収録曲について、何曲が詳しく教えてください。まず、1曲目「ジ・エンド」について。

ジャレッド「「ジ・エンド」をライブでやる時は、どうしたらいいか分からない。カジモド(注:ヴィクトル・ユーゴー著『ノートルダムのせむし男』の主人公)みたいに猫背になって、思いきりハードにプレイするんだ。俺が書いた中でも、一番ハードなベース・ラインだからね! 指弾きなんだけど、すごく速いよ。アルバムではこもった感じの音になっているから聞き取りにくいけど、トム・ヨークみたいに弾こうとしたんだ。俺にはハードすぎたけどね。文字通り、背中を向けて弾かないといけないよ。この世のものとは思えない顔つきで弾くことになるからね!(笑)」

ケイレブ「「ジ・エンド」でこのアルバムが始まるというのは…この曲は間違いなく、一節ごとに心に染みてくる曲の一つだね。アルバムのスタートとして、ああいう積み重なっていく曲があるのは、いいことだと思う」

マシュー「力強い曲でアルバムを始めたかったんだ」

ネイサン「「ジ・エンド」が1曲目っていうのは、ちょっと皮肉だったりもする」

ケイレブ「この曲には、前作の要素が少し入っているんだ。前作を気に入ってくれた人がこのアルバムをプレイしても、この曲だったらいきなり敬遠されることはないんじゃないかな」

__ファースト・シングル曲でもある、2曲目「レディオアクティブ」について。

マシュー「「レディオアクティブ」は最初に取りかかった曲の一つだけど、実は先週まで形になっていなかったんだ。どんなものになるのか、確信が持てなくてね」

ジャレッド「「レディオアクティブ」を最初に書き始めた時は、「イッツ・オールライト」というタイトルだった。セカンド・アルバム『アーハー・シェイク・ハートブレイク(Aha-Shake Your Heartbreak)』(’04)を書いた正に直後だったか、あのアルバムの制作途中だったような気がするな」

ネイサン「2作前に書いた曲を、今回やっと収録することができたわけだけど、以前の作品には何故かしっくりこなかったのというのは…この曲の力強さをよく表していると思う」

ケイレブ「うん。最初はすごくパンクな曲になったから、ボツにした。でも後になって、そのメロディーを新しいアイデアで使うことになった。でも実際にやってみたら、ヴァースとサビが似すぎててさ。何にも発展していかないような気がした」

ジャレッド「曲の構造を完全につくり変えなければならなかったんだ。今回は、そうやってアルバムをつくっていったよ。“つくった曲をボツにするんじゃなくて、どの曲も最大限良いものにしよう”ってね」

ケイレブ「それである晩…ネイサンもジャレッドも帰って、アンジェロ(・ペトラグリア:プロデューサー)も帰って、俺とマシューとジャクワイア(・キング:もう一人のプロデューサー)だけになった。で、いろいろやったんだけど、良い曲なのにアルバムに入れられそうにないから、ヘコんでたんだ。だから、“ジャクワイア、とにかく録ってくれ。今からブースに入って歌ってみるから”って言って、ブースに入って“The road is carved up yonder…”って歌い出してみた。そうしたら、前よりもずっとスペーシーな感じになって、コーラスをパワフルにすることができた。それで、翌日スタジオ入りした時に、“アレをかけてくれ”ってプレイしたら、ネイサンもジャレッドもアンジェロもやってきて、“今のは何だ? ひどく酔って歌っているような感じだけど”って言ってね。そこから、この曲をさらにつくり込んでいったよ。アレが、曲に新しい命を吹き込んだ感じだったね」

__3曲目「パイロ」について。

ケイレブ「「パイロ」では、いくつかヴァースを書いたね。山の上に住んでいる急進的なクリスチャンが、なぜかFBIのヤツらを殺してしまうって話をテレビで観て、そのことを曲にしようと書き始めたものだ。全てをイヤになった男が、自分のいる世の中は自分にとって理想的じゃないから、焼き尽くしてしまおうとするんだよ。よくある、“世の中はこうあるべきだ”って考えているところから始まって、最後には“そんな理想の姿にもなれない”って終わる曲だね。

ジャレッド「「パイロ」は、ライブでやっていて、いま一番楽しい曲だな」

マシュー「「パイロ」は、一番楽しくもあるし、一番難しくもあるね。初めてプレイした時のことを憶えているよ。ひどくナーバスになっていたから、プレイしなきゃいけないことがアタマにきていた。なにしろ、すごく不安だったからね。幸い、しくじることもなく上手くいったけど」

ケイレブ「より親密で、ボーカルが前面に出ている曲だと思う。俺にとっては、いつでも難しい曲だ。上手くいくかどうかが、自分にかかっているような気がする曲だからね。「パイロ」みたいな曲は…わりと静かな曲だから、ボーカルをパーフェクトにしないといけない。でも、俺のいう‘パーフェクト‘は、文字通りの意味じゃないよ。それは、曲の感情をちゃんと表現して、オーディエンスやリスナーが曲の内容を心から理解してもらえるようにする、ってことを意味しているんだ」

__4曲目「メアリー」について。

ケイレブ「「メアリー」は、前作『オンリー・バイ・ザ・ナイト(Only By The Night)』(’08)の時、最初に書いた曲なんだ。ある晩、自宅で酔っ払って書いた。強いエネルギーを感じる曲だったから、自分はとても気に入っていたけど、なぜか前作には収録されなかったんだよね」

マシュー「でも、誰かが古いデモをかけたときに、“お、これはもう一回やってみないと”って話になった」

ケイレブ「曲のタイトルを見直していた時に、アンジェロが“もう一度「メアリー」を録音してみないか?”って言ってさ。みんな“ええっ”なんて言ってたんだけど、俺は“頼む!”って感じだった。「メアリー」はずっとすごく気に入っていたし、今回入れられなかったらおかしかったと思うよ」

ジャレッド「デモではディストーションがきつくて、ニュートラル・ミルク・ホテルとかオリビア・トレマー・コントロールみたいな感じだった。ニュートラル・ミルク・ホテルに「Holland, 1945」って曲があるんだけど、あんな感じ。ものすごく速いバー・ソングだったんだ。レコーディングした時には、ディストーションというよりも、フィル・スペクター風にしてみたかな。ちょっと違うヴァイブでね」

ネイサン「今までにつくったイントロの中でも、「メアリー」はお気に入りの一つだね。“woo-doo”って始まって、それから直球で真っ向から当たっていくからね」

マシュー「曲の最初に出てくるバック・コーラス、あれには興奮したなぁ。あのラインを思いついたのが誰だったのか忘れたけど、“おおっ、素晴らしい!”って思ったよ」

ケイレブ「タイトルは「メアリー」(Mary)だけど、実際は“結婚”(Marry)のことを歌っているんだ。“君さえよければ結婚しよう。俺の権利は放棄した”ってね。たしかあれは、ネイサンが結婚して家を出ることに対して、ムッとして書いたんじゃなかったかな。今作は、今までよりも実験が多いね。カントリー的な側面を見せたり、時代をさかのぼっているような部分を見せたり…。そうすることで、キングス・オブ・レオンが今まで何を目指してきたのか、ちょっとした歴史が分かるようになっているんだ」

__6曲目「ジ・イモータルス」について。

ケイレブ「「ジ・イモータルス」のリリックは、集中して書いたんだ。20分くらいだったかな、結構早くできた。それから次に、ガールフレンドにじっくり聴かせてみた。そしたら目に涙をうかべて、“こんなにステキな歌は、初めて聴いたわ”って言ってくれたよ。ジャレッドも昨日、“今まで書いた中で最高のサビじゃないか”って言ってくれた」

ジャレッド「そう。俺にとってあのサビは、バンドとして書いてきた曲の中で、たとえ一番じゃなくても、最高の部類に入るものなんじゃないかって思う。素晴らしいよ。歌詞もスペシャルだしね。サビ部分の歌詞が特にいい。グッとくる。アレンジについても、すごく速い演奏から突然底を突くような感じになって、まるでフリーフォールしているような気分になるね」

ケイレブ「将来、子供たちに語りかけられるような内容にしたいと思ったんだ。あのサビが、言いたいことを全部言ってくれている。こんな感じなんだけどね、“さあ、なりたい者になりなさい。そして、この世を去るまでに、何かを愛した実感を得なさい…”」

__7曲目「バック・ダウン・サウス」について。

ケイレブ「「バック・ダウン・サウス」は、レコーディングが楽しみな曲だったよ。あの曲の歌詞は、実は一切書いてないんだけどね。心の赴くままに歌ったんだ。マシューが、ある日リハーサル場所に、ラップ・スティールを持ってきてさ」

マシュー「持ってきたものの、チューニングの仕方も何もわからなくてさ。でも、ちゃんとチューニングできて、しばらく遊んでいたんだ。そうしたら、弾き方を教えてくれたヤツがいてね。それで、最初に弾いてみたのが…」

ケイレブ「こんな感じだったよな、“Berr, bah-bah, berr, buh-buh bum”。で、それを聴いて、すぐさま“Come out and dance, if you get the chance” (出ておいで、踊ろう、チャンスがあれば)って歌ったんだ」

マシュー「それを聞いた時は、すごくワクワクしたな。ちゃんとした音にはほど遠かったけど、みんなにそのフレーズを聞かせたくてウズウズしたよ! で、実際みんなに弾いてみせたら、全員すぐに自分のパートを書き始めた。あれは最高の気分だったね」

ネイサン「「バック・ダウン・サウス」か。参加しないヤツがいないワケないじゃないか」

ケイレブ「同感!」

ネイサン「この曲は、よくあるように全員で歌ったんだ。その後ちょっと気分がまぎれて、ダーツをやったりして…飲んだよな」

マシュー「スタジオで過ごした中でも、最高のひとときだったよ!すごく早い時間にウィスキーを飲み始めてさ。で、その日の最後は、みんなでバック・コーラスをやろうって話になった。それで20人くらい、クルーもスタッフもみんな一つの部屋に集まって、マイクを数本立てて録音したんだ」

ジャレッド「俺はその時、体調不良で数日間休んでたから、家でじっとしながらすごく落ち込んでいたよ。何もできなかった。そんな時に、みんながメールでこの曲を送ってくれたんだ! “あー、メチャクチャ行きたい!”って思ったよ。そうしたら、その後みんなで歌ったコーラス部分の音源も送られてきて、“おまえ達、裏切りったな!”って思ったね、まったく。みんなでピザ・パーティーしてるんだからさ!」

ネイサン「「バック・ダウン・サウス」みたいな曲がアルバムに入ったのは、いいことだと思うね。「セックス・オン・ファイア」とか「ユーズ・サムバディ」みたいなのを6曲入れる方が、よほど楽だったはずだから。自分たちのルーツだけじゃなくて、このバンド結成当初の姿も表現されていると思うから、「バック・ダウン・サウス」みたいな曲が入って良かったよ」

__8曲目「ビーチ・サイド」について。

ケイレブ「「ビーチ・サイド」には、おかしな話があってさ。タイトルが「ビーチ・サイド」になったのは、アルバムの“ビー・サイド”(B面)になる予定の曲だったからなんだ」

ジャレッド「すごくシンプルな曲だからね。2分半くらいだし。マットがラップ・スティールを入れたことで、ワン・ランク上の曲になったけど、それでもこのアルバムの中では一番シンプルな曲だね。プレイするのも一番簡単だし」

マシュー「ネイサンがすごく’70年代っぽいドラムを入れてくれて、みんな大喜びだったよ」

ケイレブ「で、“もうBサイドとは呼べないな”って言ったんだ。とても気に入り始めていたから。それで、その前の晩、ビーチ・ハウスのコンサートに行ったジャレッドが、ビーチ・ハウスのTシャツを着てきたのを見て、“そうだ、「ビーチ・サイド」にしよう!”って言ったら、みんな“そうしよう!ぴったりだ!”って言ってくれてね。その瞬間、みんなの頭の中で、この曲はビーチっぽいサウンドを奏でるものになったよ」

ネイサン「キングス・オブ・レオンの曲としては、どう考えても異色だよね。キングス・オブ・レオンの別の一面が垣間見える曲だ」

__9曲目「ノー・マネー」について。

ジャレッド「「ノー・マネー」は、ボーカルがミスフィッツのような感じがしたな」

マシュー「「ノー・マネー」なんてタイトルの曲だと、はじめから方向性が見えているんだ、パンク・ロックになるってね。ダーティーで生々しいサウンドにしたいって。と同時に、とにかく大きな音を出したいって。やるべきことはただ一つ、“あの女を酔わせろ”ってことさ。ソロをやるときは…」

ジャレッド「ロックしたい時は、ファズ・ペダルを使うんだ。ベース音をデカくして、大胆不敵な雰囲気を出すのに頼りになる。「クロール」、「ブラック・サムネイル」、「ノー・マネー」といった、ものすごくハードな曲だけだけどね。この曲ができたときも、ビッグマフ(ファズ・エフェクターの機種名)を使おうって、すぐ決めたよ」

マシュー「ネイサンが叩いていたドラム・パートが、すごくカッコ良くて、耳が離せなかったよ。だから、ライブのサウンド・チェックの時、いつも“おい、あのドラム・ビートをやってくれ”って言ってたんだ。ヤツにとっては、すごく大変なんだけどね。で、ネイサンが長時間叩いている間に、何とかギター・パートを書こうとしたんだけど、難しかった。でも、ツアーで何ヶ月もプレイして、ある日ようやくギター・パートを思いついて、それをやってみたら、あいつが“スゴイじゃないか”って言ってくれて、他のみんなもいろいろ曲をいじり始めたんだ。“良かった”って思ったよ。ネイサンのドラム・ビートは最高だからね! 「ノー・マネー」は、このアルバムの中で唯一ロック色が濃い曲さ」

__10曲目「ポニー・アップ」について。

ネイサン「「ポニー・アップ」は、ドラムが無条件に楽しい曲だね。音数がすごいから、あの曲を聴いた人の多くは、俺が同時に全部プレイしてないんじゃないか?って思うんじゃないかな。ドラム・スティックにシェイカーを合わせたり、カウベルを叩いたり、タンバリンを叩いたり…それが一度に鳴っているんだ。俺達は、アルバムに必ず1曲、仲間たちが“マス・ロック”(数学ロック)と呼ぶものを入れるようにしている。ちゃんと考えながら叩かないといけないドラム・パートのことを指しているんだけど、シンプルなものでも、一つのビートに病みつきになることがあるんだ。「ポニー・アップ」は、間違いなくアルバムの中で俺のお気に入り曲の一つだね。いろんな音が鳴っているし、カウベルを嫌いなヤツなんていないだろ?」

__13曲目「ピックアップ・トラック」について。

ケイレブ「「ピックアップ・トラック」は、キャンプファイヤーを囲みながら書いたんだ。石炭が燃える様子を眺めていたら、白くなり始めて、それを見て“ひび割れた木材が白く変わってる”って口にした。そうしたら、何もかもがとても雄々しく、力強く感じられたんだ。俺たちは火を焚いている!自炊している!ってね。その時は、食べる魚を自分で釣って、料理して…ってことをやっていたんだ。そんな感じで、この「ピックアップ・トラック」のことを考え始めたよ。そこに、森林の警備官がやって来て、俺達を調べようとしたんだけど、てっきり屈強な警備官かと思ったら、運転してきたトラックを見て、“あれをピックアップ・トラックって呼ぶのか?”って言うようなショボいヤツでね。それが、この曲のアイディアに発展していったんだ。恋愛模様も少し取り入れようとしたけど、最終的には“俺の方が立派な男だ”っていう、男の話になったよ」

ジャレッド「俺達は、昔から南部男の恋愛小説が大好きだったんだ。南部男がピックアップ・トラックを乗り回して、キャンプファイヤーに行って、よくケンカに巻き込まれる。もしバンドをやっていなかったら、俺たちもそんな人生を送っていただろうね。あの歌のサビは、聞いた通りのままで、イージーだけどすごくリアリティーがあるんだ。現場を見たこともあるし、自分たちもこうなってただろうって思う」

マシュー「南部男のロマンスは、とにかく最高だよな」

ジャレッド「同感だな」

ネイサン「「ピックアップ・トラック」は、ドラム的には間違いなく“ビルダー”(ビートをつくり上げるもの)だね。ビートが何度も上がったり下がったりする。こうする他なかった、という感じの曲だったな。叩き方を何万通りも試してみても良かったけど、これほど良いサウンドにはならなかったと思う。一番シンプルな形でやるのがベストな場合もあるからね」

ジャレッド「「ピックアップ・トラック」は、いったんバラバラにしてから、また組み立てていく感じの曲なんだ。そういう構成の曲は今までも好きで、俺達の大好きな… 俺達にとって大きな意味のある曲にも、そういうものが多い。U2の「With or Without You」もそうだったし、ニュー・オーダーの「Ceremony」にも、たくさんブレイクダウンがあるよね。シン・リジィの「Renegade(反逆者)」も全く同じ感じ」

ケイレブ「シン・リジィの「Renegade」は、俺達みんな大好きな曲なんだ。あの曲は、最後にスローダウンして、そこからまた再構築されるんだ。「ピックアップ・トラック」が完成した時は、“この曲こそ俺たちの「反逆者」だ”って、確信したんだよ」

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