Namy インタビュー

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DJとして活動する高波由多加を中心に、多彩なミュージシャンが集い形成されたプロジェクト、Namy。ジャズ、ボサノヴァ、ソウルの要素を飲み込んだ、生楽器での音づくりにこだわり、ライブ活動を精力的に行ってきた気鋭集団だ。その活動コンセプトを、高波はこう話す。

「僕はもともとイベンターだったんですが、“生演奏でこんなに良い音楽を聞ける場があるのに、なんで人が集まらないんだろう”って、疑問を持ったのが始まりでした。そこで、つながりのあるミュージシャンに協力を仰ぎ、今っぽいアレンジの楽曲をつくって、新しいアプローチで生演奏を伝えていくプロジェクトとして、Namyを立ち上げたんです」

これまでに、イベント会場限定販売で、3枚のオリジナル・アルバムを発表してきた彼。あえてその形態を取ったのは、ライブの現場で、オーディエンスと密にコネクトすることに重点を置いているからだという。

そんなNamyがこのたび、自身の楽曲をフロア・フレンドリーに再構築したリミックス・アルバム、『Namy Black』を、初の公式流通音源としてリリースする。本作へ込めた思いを、高波はこう続ける。

「僕自身、ダンス・クラシックスみたいなキャッチーな音楽をきっかけに、昔のジャズとかを掘るようになったんですよ。そこはリスナーも同じだろうから、入り口がわかりやすい方がいいと考えたんです。より親しみやすい、このリミックス盤を聴いてもらうことで、オリジナル曲にも興味を持ってもらい、ライブ会場へ来てほしい、生音に回帰してほしいという思いがありますね」

若手注目ハウス・ユニット、Jazzin’ parkや、ジャズ / ヒップホップを自在に操る実力派トラック・メイカー、Shin-Ski、ショー・イベントの音楽ディレクションや、CM音楽のプロデュースで活躍を見せるKenichiro Nishiharaと、個性豊かな面々がリミキサーに名を連ねる本作。高波自身が、新星クリエイター@cと組んだユニット、Namy@c名義で手がけた、セルフ・リミックスも収録している。

「この『Namy Black』には、ハウスからヒップホップ、エレクトロ、ジャズまで、様々なスタイルのリミックスを収録しました。クラブ・ミュージックにもいろんなジャンルがありますけど、いろんなサウンドを虹のように楽しんでもらえたらいいですね」

音楽の原点とも言える生楽器のサウンドと、クラブ・ミュージックをつなぐ、架け橋的アルバム『Namy Black』。本作を聴いて、Namyが奏でる色彩豊かな音世界に、ぜひ触れてみてほしい。

AA= エレクトロニクスとロックの新たな化学反応を示す革新的プロジェクト、 第二章へ突入!

エレクトロニック・サウンドと、ハードコア / ミクスチャー・ロックの融合を体現してきた先駆的バンド、THE MAD CAPSULE MARKETS(以下、マッド)で、ベース、ボーカル、プログラミングを担当し、同バンドの中核として活躍してきた、上田剛士。2006年にバンド活動を休止し、充電期間を経た彼が、2008年にスタートさせたソロ・プロジェクトが、ここにご紹介するAA=(エー・エー・イコール)だ。2009年に発表した、初のアルバム『#1(ファースト)』で、破壊力満点の、ボトム・ヘヴィーなバンド・サウンドと、マッドなシンセに乗せた、強烈なメッセージを提示した彼。オーディエンスをカオスへ導くライブ・パフォーマンスも相まって、カルト的な支持を獲得している。

そんなAA=が、このたび2作目のアルバム『#2(セカンド)』を完成させた。これまで以上にビートの質感にこだわり、ダンサブルなサウンドへ接近を見せている本作。その内容は、上田剛士の確固たるポリシーをストーリー仕立てで紡ぎ上げた、コンセプチュアルなものとなっている。また、前作にも名を連ねた、BACK DROP BOMBの白川貴善(Vo)、マッドの旧メンバーMINORU(G)に加え、ライブ・メンバーの金子ノブアキ(Dr)が参加している点も要注目だ。

AA=のネクスト・フェイズが提示された会心作、『#2』。その制作背景に迫るべく、上田剛士にロング・インタビューを行った。


【自らの芸術的感性を形にしたプロジェクト】

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――まずは、ソロ・プロジェクトとしてAA=をスタートさせた理由を教えてください。

「マッドを活動休止にしてから、3年ぐらい何もしない時期があったんですが、その間に自分のやりたいことを、改めて見つめ直すことができたんです。その結果、新たに自分がやっていきたい方向性が見えてきたので、AA=をスタートさせました」

――3年間という、長い試行錯誤の期間があったんですね。

「そうですね。“果たして、自分はどういうことをやっていきたいんだろう?”って見直した時に、バンド形式なのか、それともPCで全部やってしまうスタイルなのか…いろいろなアイディアが出てきたんですよ。それをもとに、ちょこちょこ曲をつくっていましたね」

――そこから、AA=というプロジェクトのビジョンが見えたきっかけは何だったのでしょうか?

「最初は、自分が今までやってきたスタイルから無理に離れようとしていたんですけど、やっぱり今までやってきた音楽が自分の好きなものだし、自分らしいスタイルでいいんだって、やっと思えたのがきっかけでした。そう思えるまでには、それなりに時間がかかりましたね」

――なるほど。AA=という名前は、ジョージ・オーウェルの小説、『動物農場』に登場する一節、“All aminals are equal”に由来しているそうですね。その言葉が意味するメッセージも、本プロジェクトの活動コンセプトを支えているのでしょうか?

「自然に対する意識は、いまや特別なメッセージを形成するものではないし、みんなも普通に危機感として持っていると思いますよ。“All aminals are equal”は、自分が音楽活動をしていく中で大事にしたいテーマの一つであって、AA=で示していること全てが、世の中にとって正しいメッセージ、正解ということでは無いんです。あくまで、“自分はこう思う”っていう一つの提案をしているんですよね」

――リスナーをアジテートしているわけではないんですね。

「自分には、扇動していく指導者のイメージは無いですね。音楽をつくることって、とてもパーソナルなことなので、“自分はこう思っている”というのを表現することが、一番大事だと思うんです」

――そういったアティテュードに沿った動きとして、アルバム売り上げの一部を、環境保全団体WWFに寄付するという、地に足の着いた活動もしていますよね。

「そうやって自ら行動することによって、納得できる部分がありますからね。WWFへの寄付は、あくまでAA=が提案するスタイルなので、それに共感してくれた人が、自分のフィールドで、自分のやり方で何か行動をしてくれたら素晴らしいなと思います」

――全てのプロダクションを一人で手がけるのは、バンドで楽曲制作するのとは大きく違いますか?

「マッドの時も、わりと制作の中心的な位置にいたので、やり方はほとんど変わっていないですね。ただ、全部自分の責任で、好きなようにパッケージできるので、AA=の方が、自分の作品をアートとしてちゃんと表現できている気がします。ライブでアツく盛り上がるのも大事なんですけど、作品としての音楽、聴くための音楽っていうのが、自分の中では重要な要素なんです。AA=を立ち上げたことで、それがよりはっきり見えましたね」

――2009年2月には、AA=初のアルバム『#1』を発表しましたが、同作は上田さんにとって、どんな位置づけのアルバムなのでしょうか?

「『#1』は、新たなスタートだったし、『#1』を出して吹っ切れたものもあったから、自分にとっては重要なアルバムですね。今あのアルバムを客観的に聴くと、“もっとこうしたい”って思う部分もたくさんあるし、AA=をどう発展させていくか、今もまだ見えない部分はありますけど、『#1』を形にしたことで、いいスタートを切れたと思いますね」

――このアルバムを世に送り出して、どんな手応えを感じましたか?

「プログラミングのサウンドと、自分のグルーヴを組み合わせることから生まれる可能性は、まだまだ広がるなと思いました。伸びしろや振り幅がもっとあるし、完成度をさらに上げていけるなと感じましたね」

――『#1』のリリース後は、各所で精力的にライブを行っていましたが、そこから得たものは何かありますか?

「すごくパーソナルなものとしてつくっていたアルバムが、ライブをやっていくうちにバンド・サウンドになり、お客さんと一体になって変化することで、楽曲が生き生きするなと思いました。完成させた時は一枚の絵だったものが、ライブという場で動き出していくような感覚でしたね」

【自身のポリシーを示した、ストーリー仕立てのセカンド・アルバム】

――このたび、AA=2作目のアルバム『#2』がリリースされますが、今作はどんな意図から生まれた作品なのでしょうか?

「制作過程も含め、1作目とは違う形にしようと考えました。最初からテーマを決めていたわけではないんですが、制作を進めていくうちに、まるで一つの物語、小説を書いているような感覚になってきましたね。その結果、最終的にはアルバム全体が大きな一つのストーリーになりました。各曲は、“第一話”、“第二話”みたいな位置づけなんです」

――そのストーリーとは、具体的にはどんなものですか?

「戦っていくというと、ちょっと強い言い方になってしまいますが、“大きな力や、自分を抑制してくる権力に負けない、パワーや価値観をしっかり持つ”という、自分の中にあるポリシーが表れたものですね」

――その思いが、特に強く出ている曲はどれでしょうか?

「どの曲というよりは、アルバム全体の流れが一番重要なのですが、「GREED…」は、その中でも怒りの感情が出ているパートです。それは、このアルバムで表現したかったことの核なので、そういう意味では、アルバムを代表する楽曲と言えるかもしれませんね」

――なるほど。前作には、「I HATE HUMAN」、「PEACE!!!」、「ALL AMIMALS ARE EQUAL」といった、AA=のプロジェクト・コンセプトを象徴するような、ストレートなタイトルの楽曲が多かったですが、今回は異なる視点でタイトルが付けられていますね。

「造語や記号的なタイトルが多いんですけど、一つ一つが、アルバム全体のストーリーを構成する要素として意味を持っているんです。物語における、場面場面を象徴する単語っていう感じですね」

――アルバムのストーリーを組む上で重要な曲順は、制作した順番とリンクしているんでしょうか?

「わりとそうですね。これは結構前からのクセなんですが、最初に5〜6曲ぐらいの小さいパッケージでアルバムの全体像をつくって、その後に“もっとこういうタイプの曲がほしいな”と思ったものを足していくんです。今作でも、最初につくった数曲が、アルバムのカラーを決定づける重要な楽曲となりましたね」

――サウンド面では、リズム部分に大きな変化を感じました。これまで以上に、ダンス・ビートに接近していますよね?

「たぶんそれには、制作方法が大きく影響していると思います。今回は、リフやメロディーではなく、ビートボックスを使って、まずリズムをつくろうと決めていたんです。ビートを打ち込んで遊んでいるうちにできたものを基盤に全曲制作したので、それがアルバムの統一感にもつながっていると思いますね」

――あえてそういった手法で制作したことには、何か理由があるのでしょうか?

「前作は、数年前から溜まっていたものを吐き出したアルバムだったので、今作では肩に力を入れず、遊びのような感覚で曲をつくっていきたかったんです。あとは、以前から打ち込みだけで曲をつくったりも時々していたので、それを発展させてみたいという気持ちもありましたね」

――上田さんはAA=以前から、打ち込みでつくり出す無機的なエレクトロニック・サウンドと、ロックが持つ躍動感や人間的な要素の共存を、追求してきましたよね。

「そうですね。それがずっと、自分のスタイルにおいて中心になっています。その上で、既存の形式とか、いま旬のスタイルということよりも、自分らしいものを追求して、最高の楽曲をつくりたいと、常に思っているんです」

――そんな中、今作のプロダクションで特に重点を置いたのはどんなことでしょうか?

「今回はリズムからつくったので、そのビート感やグルーヴ感は、絶対無くさないように意識しましたね。人間の手とマシン、どっちにグルーヴの軸を持っていくかで、曲のカラーが全く変わるので、ストーリーとの兼ね合いもふまえて、各楽曲をどちらにするか決めました」

――それに加え、シンセの音色で退廃的な雰囲気が強調されているのと、全体的に奥行きのあるサウンドに仕上がっているのも印象的でした。

「今回はミックスも僕がやったので、細かいところにも自分の感情を出しやすかったんでしょうね。そのあたりは、今までよりもクリアに表現できたと思います」

――その一方で、上田さんらしい、突き抜けるようなエモーショナルなメロディーや、重厚なサウンドも健在ですね。

「そこは特に意識せずとも、自然に表れるものだと思います。自分の好きな音って、極端なものだったり、四方八方に広がっているものなんだけど、AA=の音楽は、それらが全部組み合わさった、接点の中心にあるものなんです。それは、これからもずっと変わらないと思います」

――ちなみに、今作をロック・リスナーだけでなく、クラブ・ミュージック・ファンにも届けたいという思いもあったのでしょうか?

「昔は結構そう考えていたんですけど、今はダンス・フィールドでもロックなサウンドが取り入れられているので、リスナーもその感覚をわかっていると思うんですよ。だから、あえてアピールするという気持ちはあまりなく、それよりも自分の音楽を深めていくように意識しました。一つのパターンや一つのスタイルで完結しちゃうのは、つまらないですからね」

【サウンドと密接にリンクした歌詞】

――『#2』のクレジットには、前作に引き続き、BACK DROP BOMBの白川さん(Vo)、マッドの元メンバーでもあるMINORUさん(G)が参加しているほか、ライブ・メンバーをつとめている、金子ノブアキさん(Dr)も名を連ねていますね。彼らには、やはり絶大な信頼を置いているのでしょうか?

「そうですね。今僕がイメージしている音楽を表現するのに、彼らは最も適した人たちだと思います。今作では、レコーディング前にメンバーみんなで演奏を合わせたりは、一切しなかったんですよ」

――そうなんですね!? では、どのようにレコーディングを進めたのですか?

「一人一人にデモ音源を渡して、それぞれスタジオに入ってもらい、好きなプレイを録ってもらいました。そうやって録ったものを材料として、僕がさらに手を加え、曲として構築していったんです。今までにやったことのない形式だったので、新鮮でしたね。ミュージシャンのメンタル的な部分って、自然と音に表れると思うんですが、こういうストイックなやり方は、今回の作品イメージに合っていたと思います。メンバー一人一人の緊張感によって、退廃的な雰囲気をつくり出すことができました」

――前作には、上田さん一人で作詞した曲と、白川さんと共同で作詞した曲、両方がありましたよね。今回はいかがでしょうか?

「もともとは、前回と同じ形式で作詞するつもりだったんです。でも制作を進めていくうちに、アルバム全体のテーマが重要になってきたので、“自分で作詞しないと、つじつまが合わなくなるな”って思い、全部僕が歌詞を手がけました。あまり言葉で説明しすぎないことが大事だと思ったので、メッセージを伝えるために、何かこれまでと違う表現方法はないかなと、考えながら書きましたね」

――たしかに、今作では一つのセンテンスよりも、単語のループで攻めている歌詞が多かった印象です。

「曲の世界観を、一つの単語に詰め込んだものもあるし、逆に、それに対しての反発を表した曲もあるんです。言葉って難しいけど本当に面白いですよね。同じ内容でも、言葉によっては違う聞こえ方になるし」

――どういったものが、歌詞のインスピレーション源だったのでしょうか?

「音の持っているイメージや雰囲気、色から影響を受けることが多かったですね。鳴らしている音からエネルギーをもらった部分が大きいので、まるで音に“こういう曲をつくれ!”と、指図されているような気持ちでした。音に意思があるわけではないんだけど、まるでそう言われているような感覚だったんですよ」

――サウンドと歌詞のメッセージは、密接につながっているんですね。『#2』リリース後のライブは、どんな内容になりそうですか?

「これから初めて、バンド・メンバーでリハーサルをやるような状況なので(笑)、予想がつかないですね。みんなでセッションすることによって、変わってくる部分もあるだろうし。ぜひライブで、アルバムの完成型を見てもらえたらと思います。新しい化学反応がどんどん起きたらいいなと、自分自身も楽しみにしていますね」

――もう、次なるビジョンも浮かんでいるのでしょうか?

「今作でやった手法はとても面白かったんですけど、次の作品ではまた違ったアプローチで、バンド形式でレコーディングをするかもしれませんね。テクニカルなアイディアはもう浮かんでいます」

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FOALS インタビュー

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英オックスフォード出身のアート系ダンス・ロック・バンド、フォールズ。’08年にリリースしたデビュー・アルバム『アンチドーツ(解毒剤)』は、全英チャート初登場3位を記録し、ゴールド・ディスクを獲得している、人気アーティストです。8月1日に、フジロックでパフォーマンスすることも決定しています。

彼らが、ニュー・アルバム『トータル・ライフ・フォーエヴァー』を5月26日にリリースします。前作とは全く異なる、自由で自然発生的なサウンドを探求した進展作で、スペーシーでイマジネーティブな音世界が詰まった注目作となっています。

本作の内容について、フォールズのリーダー、ヤニスに話を聞ききました。

FOALS インタビュー

BOOM BOOM SATELLITES インタビュー

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エレクトロニック・サウンドとバンド・サウンドを自在に行き来する音楽性で、独自のフィールドを開拓してきたブンブンサテライツ。

彼らが、空間的かつ緻密なサウンドスケープで話題をさらった、昨年のマキシ・シングル『BACK ON MY FEET』、今年1月のベスト・アルバム『19972007』を経て、通算7作目となる待望のオリジナル・アルバム『TO THE LOVELESS』を5月26日にリリースします。

制作に約2年半の時間をかけ、“あらゆる意味でネクスト・ステージに踏み込んだ作品”を目指したという本作。その内容について、メンバーの中野雅之と川島道行に話を聞きました。

BOOM BOOM SATELLITES インタビュー

(追記 5/20)
ベスト盤『19972007』の購入者特典となっていた、5月25日にCLUB ASIAで開催される限定ライブが、インターネットで生配信されることが決定しました。詳細はオフィシャルサイトまで。

配信日程 5月25日(火)18時より
http://www.sonymusic.co.jp/(PCのみ)

FOALS 美しく神秘的に進化を遂げた、 UKの人気アート・ロック・バンド

英オックスフォード出身のアート系ダンス・ロック・バンド、フォールズ。メンバーは、ヤニス・フィリッパケス(Vo/G)、ジミー・スミス(G)、エドウィン・コングリーヴ(Key)、ウォルター・ジャーヴァース(B)、ジャック・ビーヴァン(Dr)の五名。’07年にリリースしたシングル「Balloons」で一躍脚光を浴びた、当時台頭した新世代アーティストたちの中でも、人気、実力共にトップ・クラスのアーティストだ。’08年にリリースしたデビュー・アルバム『アンチドーツ(解毒剤)』は、全英チャート初登場3位を記録し、ゴールド・ディスクを獲得している。

そんな彼らが、待望のニュー・アルバム『トータル・ライフ・フォーエヴァー』を5月26日にリリースする。曲の構造やルールを重視した前作とは全く異なる、自由で自然発生的なサウンドを探求した進展作だ。その内容は、シングル「This Orient」や、ヤニスが“テクノロジーが支配する未来になっても、人間どうしのコンタクトはリアルなままであってほしいという、僕の願望”だと語るタイトル曲を筆頭に、スペーシーでイマジネーティブな音世界が詰まったものとなっている。

本作『トータル・ライフ・フォーエヴァー』のについて、フォールズのリーダー、ヤニスに話を聞いた。なお彼らは、6月15日に原宿のアストロホールで、8月1日にフジロックでパフォーマンスすることが決まっている。


ーーデビュー・アルバム『アンチドーツ(解毒剤)』のリリースから、約2年が経過しましたね。お元気でしたか?

「元気だったよ。’08年の12月までずっとツアーに出ていて、オックスフォードに戻ってからみんなで家を借りて、9ヶ月間くらい曲づくりに専念していたんだ。その後、スタジオに入ってレコーディングした以外は…散歩したり、歯を磨いたり、フツーの人間らしく暮らしていたよ」

ーーでは、ニュー・アルバム『トータル・ライフ・フォーエヴァー』について教えてください。まず、そのみんなで借りたという家、“House of Supreme Math-matics”は、どんな所なんですか?

「自然に囲まれた場所で、最高の環境にある、4階建てのタウンハウスなんだ。その地下を小さなスタジオに改造したのさ。って言っても、DIY的につくったんだけどね。僕らと、幼なじみの何人かがルームメイトで、そこでの生活は楽しかった」

ーーその家で、どのように曲づくりを行っていったんですか?

「今作の制作では、前作のように、誰がどの楽器をどうやって弾くか、といったルールや枠組みを設定したくなかったから、前作とはかなり違う方法で進めていったね。何のプランもなくて、流動的だった。特に最初の頃は、全員が部屋に集まって演奏するってシチュエーションもなかったよ。自由気ままな雰囲気を大事にしたかったんだ。だから、誰かが何かを弾き始めて、そこに他のメンバーが加わってって感じで、自然と曲ができ上がっていった。今作は、どの曲もすごく直感的で、プライベートなんだ。自分達の心と体、耳や眼で感じたこと、その一つ一つから生まれてきた作品だね」

ーーなるほど。レコーディングは、昨年末、スウェーデンのヨーテボリにあるスタジオで行ったそうですね。どうしてそのスタジオを選んだんですか?

「前回のNYに続き、今回も一度も行ったことのない場所でレコーディングしようって、決めていたんだ。そこは、スヴェンスカ・グラモフォンっていう、まるで巨大な実験室みたいなスタジオだったんだけど、ナイスだったね。心理的なつながりや思い出のない場所でレコーディングするのって、僕らに合っていると思う。クリアな気持ちで制作に望めるし、静養しているみたいな感じになるのも好きなんだ。でも、もう一度ヨーテボリに行きたいかって聞かれたら、答えはノーだね(笑)。そこは重要なところじゃないから」

ーー本作では、プロデューサーにルーク・スミス(元CLOR)を起用していますが、彼との作業はいかがでしたか?

「今作が、方向性や視点にブレのない作品になったのは、ルークのおかげだよ。余計なレイヤーを重ねることは避けて、サウンドにスペースを入れるようプッシュしてくれた。僕らっていつもカオスになりがちだから、彼との仕事は興味深い経験になったよ。ルークは、すごく頼れる存在だったね」

ーーその結果、本作のサウンドは、前作よりもディープで、時にスピリチュアルなムードを感じさせるものへと進化しましたね。

「その通り。今作では、もっとシネマティックな奥行きを表現したかったんだ。前作は、同じことを何度も繰り返す傾向にあったけど、このアルバムは、全体としてちゃんと一本の線状になっていると思う」

ーーリリック面に関して、本作で特に追求してみたかったことは何でしたか?

「もっとエモーショナルな表現を意識したよ。前作の作詞は、もっとイメージ中心というか、ビジュアル的で、少し遊び心のあるものだった。でも今作では、もっと正統的な作詞のプロセスに興味がわいてきたんだ。最近は、これまで全然聴かなかった、古いポップスにも気持ちが傾くようになっててね。それで、もっとユニバーサルで、でもパーソナルな感情がある歌詞を書きたくなったんだと思う」

ーー本作のアルバム・タイトル、“トータル・ライフ・フォーエヴァー”は、とても意味深長な言葉ですね。この言葉の意味合いについて教えてください。

「基本的には、この言葉の壮大さが好きなんだ。すごく力強いよね。でも、意味はいくつもあるよ。アルバム全体の様々なフィーリングをまとめてくれる言葉でもあるし、まるで聖歌みたいにダークな部分のある言葉でもあるし、もしくは広告コピーのような命令にも読める。要するに、そういった二重のフィーリングを表現したかったんだ。受け入れられているのに、脅かされている感覚っていうのかな。広告とか、政治や宗教のスローガンって、表向きはフレンドリーでも、裏に支配的なメッセージが隠されているんだよ」

ーーシングル曲の「This Orient」と「Spanish Sahara」は、それぞれどのようにして誕生した曲ですか?

「「This Orient」は、サウンド・コラージュみたいな曲なんだ。スタジオの中で、組み立てながらレコーディングしていった。そういった意味では、自然にでき上がっていった他の曲とは全然違うものだ。「Spanish Sahara」の方は、アルバムの中でも一番楽に書けた曲だった。唯一難しかったのは、最初に数分間ドラムを外すことだったよ。特別な個性と空気感を持った曲になったから、すごく満足している」

ーーでは、最後の質問です。今年は、6月に一度東京公演をした後、フジロックで再来日しますね。どんなライブ・パフォーマンスを予定していますか?

「エネルギッシュで、エキサイティングかつラウドなライブになるだろうね。日本では毎回素晴らしいライブを経験してきたから、今からすごく楽しみだよ。ライブは、アルバムとは全く別物になるよ。アルバムを再現することはしないからね。僕らの曲を聴いたことのないオーディエンスも来てくれると嬉しいな。そういうオーディエンスを前にすると、自然発生的で自由なサウンドが湧き出てくるんだ」

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BOOM BOOM SATELLITES トレンドやスタイルを超越し 新たなる音世界に到達した、 エレクトロニック・ロックのイノベーター

’97年にベルギーの名門テクノ・レーベル、R&Sから正式デビューを果たして以来、エレクトロニック・サウンドとバンド・サウンドを自在に行き来する音楽性で、独自のフィールドを開拓してきたブンブンサテライツ。近年はロック志向に磨きをかけ、『FULL OF ELEVATING PLEASURES』(’05)、『ON』(’06)、『EXPOSED』(’07)を連続リリースするなどして、確固たる人気を獲得している実力派だ。今年1月には、トータル約140分に及ぶ、キャリア初のベスト・アルバム『19972007』も発表。約10年に渡って展開してきた自身の音楽活動に、区切りをつけている。

そんな彼らが、空間的かつ緻密なサウンドスケープで話題をさらった、昨年のマキシ・シングル『BACK ON MY FEET』を経て、通算7作目となる待望のオリジナル・アルバム『TO THE LOVELESS』を5月26日にリリースする。制作に約2年半の時間をかけ、“あらゆる意味でネクスト・ステージに踏み込んだ作品”を目指した進展作だ。その内容は、ブンブンサテライツにしか生み出し得ない、エレクトロニックかつオーガニックな音世界を極限まで探求した、ハードで、ディープで、そしてメンタルなものとなっている。

バンドの新たなる地平を切り開いた『TO THE LOVELESS』。本作の内容について、メンバーの中野雅之と川島道行に話を聞いた。


【次なるステージを目指した理由】

――今年初頭にリリースしたベスト盤『19972007』のセールスや評判が、とても良いそうですね。まずは、そんな『19972007』に対しての、ご自身の中での評価や感想を教えてください。

川島道行「あのベスト盤を出したのは、タイミング的にとても良かったですね。初めて僕らの音楽を聴いてくれた人達にとっても、以前から僕らのことを知っていた人達にとっても、あのベスト盤は、『TO THE LOVELESS』を聴くうえでの一つの道標、もしくはクッションになったと思うので、とても意義のある作品だったんじゃないかな」

中野雅之「ベスト盤を出して、自分達の曲を俯瞰して見られる機会を持てたことで、勇気づけられた部分がありましたね。自分達は、かなり骨のあるクリエイターなんじゃないか?ということを確認できたんで(笑)、ニュー・アルバム制作後半に向けてのハズミになったし、ちょっと客観的になれる機会ももらえたと思います。あらゆる意味でネクスト・ステージに踏み込んだ作品というものを考えていたので、ベスト盤で総括できたのは、やっぱり流れが良かった」

――本作『TO THE LOVELESS』は、オリジナル・アルバムとしては『EXPOSED』(’07)以来、約2年半ぶりの作品となりますね。そこには、“前作で一区切りをつけたかった”という思いもあったそうですが、その思いに至った経緯について、改めて教えてください。

中野「『FULL OF ELEVATING PLEA-SURES』(’05)から『EXPOSED』まで、一年ごとに三枚アルバムをリリースしてきたので、キャリア的に一段落ついたかなって感じもあったし、次は何か違うものをつくらないと、自分達的にクリエイティブ面で飽きてしまう、という感じもありましたね。で、その間に音楽の聴かれ方が変化して、『EXPOSED』のマスタリングでニューヨークに行った時には、もうマンハッタンにレコード/CD・ショップが一軒もないような状況でした。要するに、音楽産業の構造が変わってしまっていた。あの頃は、いろんな意味で変化していた時期だったと思います」

川島「僕らが作品をつくるうえで、世の中の動向とか、音楽シーン全体の流れの中でどんなことができるのかといったことは、とても重要な要素になっていたんですよ。でも『EXPOSED』の頃から、時代も音楽シーン全体の流れも停滞してしまったというか、そこには興味を持てる対象がなくなってしまったんです。ある意味、お手軽に過ぎるような音楽が数多く目につく状況になってしまった、とも感じていましたし」

――どういうことですか?

川島「今の世の中って、感情が希薄で、ちょっと閉塞感があるような状況で、みんな癒しや安息感を求める方向に、安易に流されちゃってますよね。音楽の分野では、何となくそれっぽい曲が簡単につくれる環境になって、その曲をネットにすぐアップできて、その曲の感想まですぐに受け取れるようになった。言わば、お金をかけずに、自己顕示欲だけを簡単に満たせるようになってしまった。そういった曲を多く耳にするようになって、“それって、ちょっとマズいんじゃないか?”って感じたんです。だからここは一つ、僕らでつくり得る、志の高い音楽を提示することで、聴く人の創造力の門をもう一度叩きたかったというか、聴く人の創造力を喚起することが大事なタイミングなんじゃないか。僕らのキャリアにおいても、こういう時代のタイミングにおいても、そういった作品をつくり上げることが大事だろうって思ったんです。そこに到達できなかったとしても、それをやることが僕らの存在意義というか、僕らのミッションだったりするんじゃないかなって」

――そういった思いが、本作のモチベーション、そしてテーマにもなっているんですね。

中野「僕らは、良いアルバムを聴きたいとか、良いアーティストに出会って彼らについていきたいといったふうに、音楽をアルバムやアーティストの単位で見られなくなってきている、そんな風潮がイヤなんですね。だから、それに対して最大限に抵抗したかったというか、やっぱりアルバムで見せられる世界観というものを、最大限に出したかった。それで今回は、しっかり時間をかけて、丁寧につくり込まれたものをつくる、ということをテーマの一つにしたんです。アルバムが70分以上の長さになったのも、そのためですね。今の世の流れに反しているというか、そこには逆風が吹いているのかもしれませんけど(笑)、自分が音楽に対して持っている愛情は、ありったけ注ぎ込んだつもりです」

――他に、本作でテーマになったことは何かありましたか?

中野「世界的にムードが悪いと感じているので、そんなムードに寄り添いながらも、そこから現実に引き戻すような何か…。僕らなりの美学なのかもしれませんけど、現実感のない希望や夢を歌にすることには抵抗があるんですよ。そういう音楽を耳にすると、イヤな気持ちになる。だから、そういう歌とは対極にある、生きている人のための音楽をつくりたかったですね。僕らは、そこの部分に、このアルバムが世の中にちゃんと伝わって欲しいという部分に、希望を持ちたいんですよ。表面的なものしか理解してくれないようなリスナーを相手に音楽をつくっているとは、決して思いたくないんです」

【愛なき世界に愛のある音楽を】

――では、アルバム・タイトル、“TO THE LOVELESS”の意味合いについて教えてください。

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中野「今話してきたことを、そのまま言葉にしたタイトルなんですけど、やっぱり情報のスピードが早くなって、その価値も軽くなって、あらゆるジャンルにおいて、大事にされてない物事がいっぱい出てきてしまったと思うんですよ。人と人とのコミュニケーションもそうだし、一つの作品に対する評価もそうだし。で、個人的には、結局何も良くならなかったじゃないか、愛のない世界だなって思っちゃうところがある。自分がデビューして10何年経ってみたら、こんなにも殺伐とした世界になっていた(笑)。で、それに対しての憂いとか、諦めきれない気持ち…。“TO THE LOVELESS”は、僕にとってそんな意味合いですね」

川島「“LOVELESS”という言葉は、僕的には“絶対零度”といった感じなんですけど、いろんなふうに受け取れる言葉だと思います。全曲をつくり終えて、タイトルを考える段階になった時、ある種の記号性を持ったタイトルの方がいいな、と思ったんですよ。まずはオープンな感覚でこのアルバムを聴いてもらって、自分のどこに刺さって何を感じたのかという、音楽の持つ作用を再確認して欲しかったんで、タイトルにまで具体的なメッセージを持ち込みたくはなかった。いくら時間をかけてつくったアルバムだとしても、やっぱりそれを受け取った人が再生した時に、初めて音楽として完成すると思っているので」

――タイトル曲は、どのようにして誕生した曲ですか?

川島「「TO THE LOVELESS」は、比較的最近できた曲なんですよ。で、“アルバム・タイトルにできるムードの曲だな”って思っていたら、中野が突然振り向いて、“この曲のタイトルを、アルバム・タイトルにも使うといいんじゃないかな?”って言い出したので、“ああ…間違ってなかったか”というか(笑)、そのくらいアルバム全体のことを語っている曲だったんですよね、インスト曲なのに」

――なるほど。アルバム全体の流れ、曲順に関して意識したことは何でしたか?

中野「明確に、二段階の構成になっていますね。フィジカルな面の強いところから、だんだん叙情的になっていて、中盤以降は空間的に広がりが出てくる。そんな流れになっていると思います。どういうストーリがつくれるのか、何度も確認しながらやっていきましたね。アルバムって、流れが全てだと思いますよ」

――アルバム全体の流れを決める際に軸になった曲は、何かありましたか?

中野「いや、そういう曲は特になかったですね。でも、『BACK ON MY FEET』に収録した「BACK ON MY FEET」「ALL IN A DAY」「CAUGHT IN THE SUN」の3曲は、既にでき上がっていた曲をどこに配置するのかという意味では、軸になっていたかもしれませんけど。アルバムでは、「STAY」の後に「CAUGHT IN THE SUN」を聴くことになるんですけど、シングルで聴いたときの印象と全く違うはずですよ。そういう曲が持っている表情の変化も、楽しめる作品だと思います」

【音の記録を意識した曲づくり】

――本作の曲づくりに関しては、どんな部分にこだわりましたか?『BACK ON MY FEET』をリリースした時点では、“ソングライティング自体を意識している”と言っていましたが。

中野「もう、自分達の音楽、という部分に焦点を当てただけでしたね。もうカウンターをぶつけられるほど元気なシーン、元気なアーティストが存在しないんですよ。ある大きな流れに乗るにしても反るにしても、そういう対象がない時代になってしまった。さらに、音のサイクルも早くなり過ぎているので、もう自分達の足下を見るということでしか、アイデンティティーを打ち出せない状況なんですよね。そんな感じなので、結果としてソングライティングに力点を置いていくことになる。そういうことだったと思いますね」

――なるほど。

中野「だから、例えば僕らと同世代のアンクルも、きっと同じような方向に行っている気がするんですけど、ビートを抜いても曲になっている、ギター一本でも良い曲になっている、という意味でのソングライティングをやっていると思うんですよね。そうするしかないんですよ、もう。そういう意味では、多少やり辛さがあるのかな…いや、違いますね。このアルバムでは、自分達の足下を見るという部分で、自分達が思い描ける最大限の音楽を目指しましたけど、もしそこでちょっとでも色気を出して、ヘタに売れたいとか考えたら、もっと面倒くさいことになっていたと思うんですよ(笑)。最先端の音楽をつくりたいなんて思った日には、明日には価値のないものになっている可能性がある、という状況になってしまったんで、ミュージシャンとして怖いですよ。僕たちより下の世代は、すでに10年やれるアーティストにはなりにくくなっていると思いますし。…なんか、寂しい話ばっかりしてますよね(笑)」

――本当に、考えさせられることが山積みの時代ですよね。では、本作の曲づくりは、実際にギター一本から始めたような感じだったんですか?

中野「基本的には、そういうことになりました。楽器を持って、川島と向き合って曲をつくる、というのがベーシックなスタイルでしたね。それを2年半、ほぼ毎日繰り返しましたよ」

――本作には「STAY」や「HOUNDS」など、アコースティックなサウンドを生かした楽曲が多く収録されていますが、これは、そういった曲づくりを実践していった結果だと言えますか?

中野「今思い出したんですけど、いわゆるピアノとかアコースティック・ギターのような楽器って、“空間”とか“部屋”を連想させるじゃないですか。で、ある日、“そういう要素って必要だな”って思ったことがありましたね。だから生楽器を使って、音楽性の幅をオーガニックに表現していった、というところはあったと思います。やっぱり作曲の過程でアコースティック・ギターやピアノを触っていたんで、その音を素直に使う、マイクを立てて録音する、といったことが多かった」

川島「「STAY」は、アルバムの世界観をさらに広げていこうと、今年に入ってから着手した曲でしたね。メジャー・キーで作曲をして歌うということは、プロになってからほとんどなかったと思うんで、中野といろいろとやりとりしながらつくっていきました。最初のデモ段階でストリングス・アレンジもでき上がっていて、他に代え難いテイストになっていたんですけど、最終的には生のストリングスに差し替えましたね」

中野「このアルバムは、すごくつくり込まれた作品ではあるんだけど、一方で、“記録”という側面も生々しく入れているんですよ。フィールド・レコーディングをしたりだとか、スタジオ内でボーカル・マイクを録音状態にしておいて、マイクが拾った足音を曲にそのまま生かしたりだとか。それが、空間を連想させるという意味なんですけどね。人の気配って言ってもいいかな。「HOUNDS」の最後も、そういった要素を強く意識させるものになってますね。これは人間がつくっている音楽で、ある部屋でつくられているもので、リスナーもその場所にいるような感覚になる、といったことをリアルに意識してもらえる終わり方になっていると思います」

【人の内面に訴えかけるリリック】

――先ほど、中野さんは“現実感のない希望や夢を歌にすることには抵抗がある”と言っていましたが、リリック面で特に意識したことは何でしたか?

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川島「簡単に言うと、個人が持っているインナーワールドの広さ、もしくは狭さに向けて、導線を引いていくこと。それが、このアルバムでのリリックのテーマだったと思います。例えば、ライブの時にフロアでリフレインされるような、シュプレヒコール的な言葉ではなく、もっと私小説的で、個人がその内にいる別個人に向けて問いかけているような言葉。このアルバムでは、そこを意識しましたね。で、その言葉自体は、わりと暴力的というか、ドラスティックな感情に目を向けたものになっていると思います」

――なぜですか?

川島「このアルバムのサウンド・デザインにおける、言葉の持つ役割を考えた結果、そうなりましたね。このアルバムのサウンドだと、例えば、ただヘナヘナと自分のネガティブな感情を歌い流していくようなリリックは、リスナーが受け取りにくい。サウンド・デザインと言葉が対峙していないというか、世界観が違ってしまうんですよ。だから、表面的に希望や一体感を煽るような、“キミは一人じゃない”といった言葉は言わず、あえて“キミは一人だ。キミが立とうとしない限り、誰も立たせてはくれない”といった言葉で突き放すんですけど、ビートやサウンド、メロディーの方は、その“キミ”を立たせてくれる…。そういった部分を意識した感じでしょうかね」

――「UNDERTAKER」では、リーディング・スタイルのボーカルにもトライしていますね。

川島「この曲は、どういう経緯だったか忘れちゃったんですけど、リーディングでいこうってことになったんですよね。『PHOTON』(’02)の頃にリーディング・スタイルの曲をやったことがあったし、トリッキーとかアースラ・ラッカーのような音楽も好きなんで、もともと音楽的なスキル自体は持っていたんですよ。でも、この「UNDERTAKER」では、そのリーディング部分とか、最後にもうワン・メロディーを…といった部分が、ことのほか上手くできましたね。言葉とメロディーを同時に出した時に、“このままでいいや”って思えるほどツルっとできたことって、あんまりないんで、珍しいケースだったかもしれない」

――本作の中で、川島さんが特に重要視している楽曲はどれになりますか?

川島「うーん。どの曲も重要なんですよね、本当に。どの曲も丁寧につくったと思うし、きっと音楽に対する志の高さを感じてもらえるものになっていると思います。無理してピックアップすると、「CAUGHT IN THE SUN」から「FRAGMENT OF SANITY」を経て「HOUNDS」に行く瞬間、そんな感じですかね。どの曲も本当に聴きどころだと思ってます」

――最後に、ブンブンサテライツの次なる目標を教えてください。

中野「今は、やり切ったという感じなんで、アイディアが空っぽの状態なんですけど、このアルバムをつくったことで、“何かやれるな”という気持ちにもなってますね。まずは、この『TO THE LOVELESS』がリリースされた時にどんな受け取られ方をするのか、その反応を早く見てみたいです。これまでのアルバム以上に興味がありますね。あと、今回は長いツアーがあるんで、ツアーが終わった時に見えてくることもあると思っています。だから、何かをやりたいというモチベーションは高いんですけど、それが何なのかということが分かるのは、これからですね」

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MATT & KIM インタビュー

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ニューヨークのブルックリンを拠点に活動する、マット・ジョンソン(Keys/Vo)とキム・シフィノ(Dr/Vo)からなる男女デュオ、MATT & KIM。シンセとドラムのみというシンプルな編成から繰り出される、ポップで、ダンサブルで、パンキッシュで、そして手づくり感満点のサウンドが持ち味の、いかにもブルックリンらしいセンスを持った注目株です。

そんな彼らが、最新アルバム『GRAND』(’08)に、リミックス曲を追加収録した日本編集盤、『GRAND – Deluxe Edition』をリリースしました。本国で40万枚のセールスを記録した「Daylight」や、全米大学生の投票によって選ばれるMTVのWoodie Awardsで、ベスト・ビデオ2009賞を受賞した「Lessons Learned」を収録した話題作です。

というわけで、ここではメンバーのキムに、本作の内容とMATT & KIMの音楽性について聞いてみました。なお、彼らはフジロックで来日することが決定しています。

MATT & KIM インタビュー

坂本美雨 インタビュー

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これまでに4作のフル・アルバムを発表し、ROVOの勝井祐二、益子樹や、半野喜弘、ミト(クラムボン)、藤戸じゅにあ(ザ・ジェッジジョンソン)など、気鋭ミュージシャンとのコラボレーションを通じ、独自の世界観を追求してきた個性派シンガー、坂本美雨。彼女が、約1年半ぶりにニュー・アルバム、『PHANTOM girl』をリリーすします。

NYを拠点に活動する中国人クリエイター、デイブ・リアンのソロ・プロジェクト、ザ・シャンハイ・レストレーション・プロジェクトをプロデューサーに迎え、オリエンタルかつ繊細なポップ・エレクトロニカで、新境地を開拓した本作。そこで描き出した、現代を生きる女性に目を向けた幻想的なストーリーを掘り下げるべく、坂本美雨さんにお話をおうかがいしました!

坂本美雨 インタビュー

HALFBY インタビュー

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京都を拠点にDJとして活動するほか、レコード・ショップのバイヤーという顔も持つ、高橋孝博によるソロ・プロジェクト、HALFBY。ブレイクビーツやハウス、インディー・ポップなど様々な要素を融合し、遊び心満点のトラックへ紡ぎ上げるサンプリング・マエストロとして知られるほか、ピチカート・ファイブ、DE DE MOUSE、DOPING PANDA、平井堅、ザ・ゴー!チームなどの楽曲リミックスや、CMへの楽曲提供も手がけているマルチ・クリエイターだ。

そんな彼がこ のたび、約3年ぶりとなるオリジナル・アルバム、『The Island Of Curiosity』を完成させた。HALFBYの持ち味である、ファンキーなビート使いはそのままに、ラテン、ソカ、アフロ・ビートなどを彷彿とさせる、トロピカルなサウンドが詰まった本作。アルバムに描いたイメージを、彼はこう話す。

「アルバム・タイトルが“好奇心の島”というのもあって、HALFBYのパブリック・イメージに、“トロピカル”という付加価値をつけることで、夏や海を連想できるような方向性にしたかったんです。僕自身のDJが、バレアリックなものやトライバルなものに移行してきたというのも、大きな理由ですね」

ブリーピーなシンセから、アコースティック・ギターやスティール・パン、パーカッションまで、様々な音素材を用いた、ポップでカラフルなパーティー・チューン満載の、このアルバム。プロダクション面では、どんな部分にこだわったのだろうか?

「前作までは、ヒップホップ〜ブレイクビーツを基本に、“マナーや手法を維持しつつ、いかにポップスへとビルド・アップさせるか”というコンセプトがあったんですが、今作ではBPMを120~130へ変え、よりフロア向けのダンス・ミュージックに仕上げました。“トロピカル”という共通点を持たせつつ、いわゆるインディー・ポップのB級感や、ビッグ・ビート以降のフィジェット・ハウス、ボルティモア(・ブレイクス)などの要素も盛り込み、着地させた感じですね」

アイルランドのインディー・シーンをにぎわすポップ・ユニット、スキバニーや、ロンドンのマルチ・インストゥルメンタリスト、ブロードキャスト2000、インディー・ロックの新星、イズ・トロピカルといったゲスト・ミュージシャンによる、個性的な歌声も楽しめる『The Island Of Curiosity』。本作を聴けば、最高にハッピーなヴァイブスを体感できること間違いなしだ。

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坂本美雨 現代を生きる女性に贈る、人間の内面に迫るファンタジー・ストーリー

1997年に、Ryuichi Sakamoto featuring Sister M名義で「The Other Side of Love」でデビュー、その後はソロ・シンガーとして活躍を見せている、坂本美雨。これまでに4作のフル・アルバムを発表、ROVOの勝井祐二、益子樹や、半野喜弘、ミト(クラムボン)、藤戸じゅにあ(ザ・ジェッジジョンソン)など、気鋭ミュージシャンとのコラボレーションを通じ、独自の世界観を追求してきた個性派だ。彼女は音楽活動のほか、ジュエリー・ブランドのプロデュースや、詩画集の発表、舞台への出演などでも、その芸術的感性を発揮している。

ここにご紹介する『PHANTOM girl』は、そんな坂本美雨が、約1年半ぶりに発表したニュー・アルバム。NYを拠点に活動する中国人クリエイター、デイブ・リアンのソロ・プロジェクト、ザ・シャンハイ・レストレーション・プロジェクトをプロデューサーに迎え、オリエンタルかつ繊細なポップ・エレクトロニカで、新境地を開拓した意欲作だ。現代を生きる女性に目を向けた幻想的なストーリーは、リスナーの心を揺さぶる不思議なパワーを持っている。

新作『PHANTOM girl』に描き出したイメージを探るべく、坂本美雨に対面インタビューを試みた。


ーーニュー・アルバムは、ザ・シャンハイ・レストレーション・プロジェクトのデイブ(・リアン)と一緒に制作していますね。そこに至る経緯を教えてください。

「前作『Zoy』を制作した後に、次は全くお互いを知らないプロデューサーと一緒にやらないと、アルバムをつくることができないなと感じていて。そんな時に、デイブがプロデュースしたダイ・ジョンストンのアルバムを聴いて、“彼は女の子の声を扱うのが上手いなぁ、すごく声を大事にしているな”と思ったんです。それで、MySpaceからメッセージを送ったのがきっかけですね」

ーー“全く別の人とやらないと、新作がつくれない”と感じたのは、なぜなんでしょうか?

「まず、明るいアルバムをつくりたいと思ったんです。『Zoy』をつくった後、自分の引き出しが空っぽになってしまって、アイディアやモチベーションが無くなってしまったんです。ずっと歌い続けたいと思っていたけど、“果たして、それに私は値しているのかな?”とか、いろいろと考えてしまって。でもその結果、“自分の声で、人の役に立つことや、人の気持ちを少し幸せにすることを、音楽を通じてやりたい”と改めて確信したんです。そのためには、自分にとって心地よい音をつくっているだけでは、いけないと思い、あえてそれまでの自分を全く知らない人と、今までの枠を飛び出して、新しいことにチャレンジしたいと思いました」

ーー今作は、美雨さんにとって、ターニング・ポイントとなったアルバムなんですね。タイトルの『PHANTOM girl』には、どんな意味が込められているのでしょうか?

「このアルバムは、私と同世代の女の子が送る一日を想像して、サウンド・トラック的な組み立て方でつくったものなんです。そこから歌詞を書いていくうちに、“その女の子の本性は、現実世界ではなく別の場所にあるんじゃないか?”っていうイメージが沸いてきたんです。毎日通勤電車に揺られ、まじめに仕事をしている一人一人の内面には、もっと衝動的で、時に暴力的で、時にすごく乙女で、暴れ出したり踊り出すような、本能的なものがあるんじゃないかと思って。そこから生まれた、“主人公の女の子が何かの拍子に豹変して、好きな男の子のところへワーっと飛んでいっちゃう”っていう物語を、アートディレクターの森本千絵ちゃんと話していたら、彼女が“かいじゅう”みたいなキャラクターを書いてくれたんです。それを見て、“ファントムガール”って言葉の響きがピンときたんです」

ーー“社会に揉まれている女の子が、自分を解放する”というテーマは、これまで美雨さんが取り上げてきたテーマとは違ったものですよね?

「そうですね。今までは、イマジネーションの方向が内側を向いていたんですけど、今作では、もう一歩先を行きたくなったんです。具体的に、都会に住んでいる女の子をイメージして曲をつくったのは初めてでしたけど、その中には自分も含まれています。やっぱり、しんどいですよね、女の子が都会で生きていくのは。将来も不安だし、結婚もしたいし。そういう気持ちは、私もみんなと変わらないんです。私の中では音楽も、ただ楽しんでやっているだけじゃないって思っていて。このアルバムで、大変な時代に生きている同世代の女の子が送る毎日の中で、少しでも役に立ちたいという気持ちがあるんです。マインドだけでも、音楽の力で解き放つことができれば」

ーーなるほど。トラックは、デイブをプロデューサーに迎えたことで、非常にエレクトリックなものとなっていますね。これも、新たな挑戦だったのではないでしょうか。

「そうですね。彼と一緒にやるにあたり、全部打ち込みでトラックをつくることは、最初からイメージしていました。それに加え、自分のボーカルを一つの楽器として、いろんな使い方を試してみたいってことも、デイブに話したんです。完全な打ち込みトラックと自分の声が重なると、とても新鮮で、発見がいっぱいありましたね」

ーー具体的には、どんな発見がありましたか?

「例えば、叫び声とか、“あっ”とか、“うっ”っていう声を素材として録音しておいて、それを切ってリズムとして使ったり、メロディーを歌うんじゃなく、“ドレミファソラシド”の声を音階ごとに別々に録っておいて切り貼りしたりとか、声で遊んでみました。そういうアイディアは自分だけでは出てこないので、新たな発見でしたね」

ーーアルバムでは、エレクトロニックなサウンドと同時に、人間の声が秘めた不思議なパワーや、有機的な感情も表現していますよね。

「このアルバムでは、エレクトロニックなものと、体そのものである歌を、ちゃんと共存させたいという気持ちがあったんです。歌えば歌うほど、“歌は呼吸そのもので、その人の体そのものなんだな”って実感するようになって。肉体の持つ力というものは、何事にも代え難いと思いましたね」

ーーまた、アルバムの途中に差し込まれているインタールードも、作品の世界観を表す上でとても重要だと感じました。

「アルバム全体をサウンド・ストーリーのように組み立てたので、途中に挟みたいものをデイブと二人で映像的に考えて、声で形にしたんです。あと、「Our Home」や「A Girl’s Waltz」みたいな歌詞のない曲も、インストっていうつもりではつくっていなくて、あれも歌ですね。シガー・ロスの曲とかでも、そこにあるのは歌詞というよりは“シガー・ロス語”じゃないですか。そういう、言葉として意味はなくても伝わるものにしたかったんです。声って呼吸そのものなので、人間の呼吸が持っている力や、“歌詞よりも膨らませられる何か”に、チャレンジしてみた楽曲ですね」

ーーたしかに、歌詞で入ってくる情報が削ぎ落とされている分、聴いた時にすごく立体的な映像やイメージが頭に浮かぶし、イマジネーションの幅も大きくなるなと思いました。ところで、本作でリスナーに一番感じ取ってほしいのは、どんなことですか?

「イマジネーションです。それから、衝動とか、本能とかを感じる瞬間。自分の肉体がちゃんとあって、社会もあって、その上で生まれるイマジネーションやファンタジーって、ある意味現実社会よりもリアルだと思うんです。人間の中身であるイマジネーションという宇宙が無かったら、その人は生きられないと思っているんです。アルバムのミュージック・ビデオに登場するファントムが、その想像力の結晶であり、象徴でもあるので、ぜひそれも見てほしいです」

ーー『PHANTOM girl』をステップに、今後描いているビジョンはありますか?

「音楽とダンスなどを取り入れた、舞台作品にも力を入れていきたいです。歌と同じように、舞台空間で発揮される人間の力も信じているので、肉体表現という世界の中で、音楽をもっと突き詰めていきたいですね」

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