エレクトロニック・サウンドと、ハードコア / ミクスチャー・ロックの融合を体現してきた先駆的バンド、THE MAD CAPSULE MARKETS(以下、マッド)で、ベース、ボーカル、プログラミングを担当し、同バンドの中核として活躍してきた、上田剛士。2006年にバンド活動を休止し、充電期間を経た彼が、2008年にスタートさせたソロ・プロジェクトが、ここにご紹介するAA=(エー・エー・イコール)だ。2009年に発表した、初のアルバム『#1(ファースト)』で、破壊力満点の、ボトム・ヘヴィーなバンド・サウンドと、マッドなシンセに乗せた、強烈なメッセージを提示した彼。オーディエンスをカオスへ導くライブ・パフォーマンスも相まって、カルト的な支持を獲得している。
そんなAA=が、このたび2作目のアルバム『#2(セカンド)』を完成させた。これまで以上にビートの質感にこだわり、ダンサブルなサウンドへ接近を見せている本作。その内容は、上田剛士の確固たるポリシーをストーリー仕立てで紡ぎ上げた、コンセプチュアルなものとなっている。また、前作にも名を連ねた、BACK DROP BOMBの白川貴善(Vo)、マッドの旧メンバーMINORU(G)に加え、ライブ・メンバーの金子ノブアキ(Dr)が参加している点も要注目だ。
AA=のネクスト・フェイズが提示された会心作、『#2』。その制作背景に迫るべく、上田剛士にロング・インタビューを行った。
【自らの芸術的感性を形にしたプロジェクト】
――まずは、ソロ・プロジェクトとしてAA=をスタートさせた理由を教えてください。
「マッドを活動休止にしてから、3年ぐらい何もしない時期があったんですが、その間に自分のやりたいことを、改めて見つめ直すことができたんです。その結果、新たに自分がやっていきたい方向性が見えてきたので、AA=をスタートさせました」
――3年間という、長い試行錯誤の期間があったんですね。
「そうですね。“果たして、自分はどういうことをやっていきたいんだろう?”って見直した時に、バンド形式なのか、それともPCで全部やってしまうスタイルなのか…いろいろなアイディアが出てきたんですよ。それをもとに、ちょこちょこ曲をつくっていましたね」
――そこから、AA=というプロジェクトのビジョンが見えたきっかけは何だったのでしょうか?
「最初は、自分が今までやってきたスタイルから無理に離れようとしていたんですけど、やっぱり今までやってきた音楽が自分の好きなものだし、自分らしいスタイルでいいんだって、やっと思えたのがきっかけでした。そう思えるまでには、それなりに時間がかかりましたね」
――なるほど。AA=という名前は、ジョージ・オーウェルの小説、『動物農場』に登場する一節、“All aminals are equal”に由来しているそうですね。その言葉が意味するメッセージも、本プロジェクトの活動コンセプトを支えているのでしょうか?
「自然に対する意識は、いまや特別なメッセージを形成するものではないし、みんなも普通に危機感として持っていると思いますよ。“All aminals are equal”は、自分が音楽活動をしていく中で大事にしたいテーマの一つであって、AA=で示していること全てが、世の中にとって正しいメッセージ、正解ということでは無いんです。あくまで、“自分はこう思う”っていう一つの提案をしているんですよね」
――リスナーをアジテートしているわけではないんですね。
「自分には、扇動していく指導者のイメージは無いですね。音楽をつくることって、とてもパーソナルなことなので、“自分はこう思っている”というのを表現することが、一番大事だと思うんです」
――そういったアティテュードに沿った動きとして、アルバム売り上げの一部を、環境保全団体WWFに寄付するという、地に足の着いた活動もしていますよね。
「そうやって自ら行動することによって、納得できる部分がありますからね。WWFへの寄付は、あくまでAA=が提案するスタイルなので、それに共感してくれた人が、自分のフィールドで、自分のやり方で何か行動をしてくれたら素晴らしいなと思います」
――全てのプロダクションを一人で手がけるのは、バンドで楽曲制作するのとは大きく違いますか?
「マッドの時も、わりと制作の中心的な位置にいたので、やり方はほとんど変わっていないですね。ただ、全部自分の責任で、好きなようにパッケージできるので、AA=の方が、自分の作品をアートとしてちゃんと表現できている気がします。ライブでアツく盛り上がるのも大事なんですけど、作品としての音楽、聴くための音楽っていうのが、自分の中では重要な要素なんです。AA=を立ち上げたことで、それがよりはっきり見えましたね」
――2009年2月には、AA=初のアルバム『#1』を発表しましたが、同作は上田さんにとって、どんな位置づけのアルバムなのでしょうか?
「『#1』は、新たなスタートだったし、『#1』を出して吹っ切れたものもあったから、自分にとっては重要なアルバムですね。今あのアルバムを客観的に聴くと、“もっとこうしたい”って思う部分もたくさんあるし、AA=をどう発展させていくか、今もまだ見えない部分はありますけど、『#1』を形にしたことで、いいスタートを切れたと思いますね」
――このアルバムを世に送り出して、どんな手応えを感じましたか?
「プログラミングのサウンドと、自分のグルーヴを組み合わせることから生まれる可能性は、まだまだ広がるなと思いました。伸びしろや振り幅がもっとあるし、完成度をさらに上げていけるなと感じましたね」
――『#1』のリリース後は、各所で精力的にライブを行っていましたが、そこから得たものは何かありますか?
「すごくパーソナルなものとしてつくっていたアルバムが、ライブをやっていくうちにバンド・サウンドになり、お客さんと一体になって変化することで、楽曲が生き生きするなと思いました。完成させた時は一枚の絵だったものが、ライブという場で動き出していくような感覚でしたね」
【自身のポリシーを示した、ストーリー仕立てのセカンド・アルバム】
――このたび、AA=2作目のアルバム『#2』がリリースされますが、今作はどんな意図から生まれた作品なのでしょうか?
「制作過程も含め、1作目とは違う形にしようと考えました。最初からテーマを決めていたわけではないんですが、制作を進めていくうちに、まるで一つの物語、小説を書いているような感覚になってきましたね。その結果、最終的にはアルバム全体が大きな一つのストーリーになりました。各曲は、“第一話”、“第二話”みたいな位置づけなんです」
――そのストーリーとは、具体的にはどんなものですか?
「戦っていくというと、ちょっと強い言い方になってしまいますが、“大きな力や、自分を抑制してくる権力に負けない、パワーや価値観をしっかり持つ”という、自分の中にあるポリシーが表れたものですね」
――その思いが、特に強く出ている曲はどれでしょうか?
「どの曲というよりは、アルバム全体の流れが一番重要なのですが、「GREED…」は、その中でも怒りの感情が出ているパートです。それは、このアルバムで表現したかったことの核なので、そういう意味では、アルバムを代表する楽曲と言えるかもしれませんね」
――なるほど。前作には、「I HATE HUMAN」、「PEACE!!!」、「ALL AMIMALS ARE EQUAL」といった、AA=のプロジェクト・コンセプトを象徴するような、ストレートなタイトルの楽曲が多かったですが、今回は異なる視点でタイトルが付けられていますね。
「造語や記号的なタイトルが多いんですけど、一つ一つが、アルバム全体のストーリーを構成する要素として意味を持っているんです。物語における、場面場面を象徴する単語っていう感じですね」
――アルバムのストーリーを組む上で重要な曲順は、制作した順番とリンクしているんでしょうか?
「わりとそうですね。これは結構前からのクセなんですが、最初に5〜6曲ぐらいの小さいパッケージでアルバムの全体像をつくって、その後に“もっとこういうタイプの曲がほしいな”と思ったものを足していくんです。今作でも、最初につくった数曲が、アルバムのカラーを決定づける重要な楽曲となりましたね」
――サウンド面では、リズム部分に大きな変化を感じました。これまで以上に、ダンス・ビートに接近していますよね?
「たぶんそれには、制作方法が大きく影響していると思います。今回は、リフやメロディーではなく、ビートボックスを使って、まずリズムをつくろうと決めていたんです。ビートを打ち込んで遊んでいるうちにできたものを基盤に全曲制作したので、それがアルバムの統一感にもつながっていると思いますね」
――あえてそういった手法で制作したことには、何か理由があるのでしょうか?
「前作は、数年前から溜まっていたものを吐き出したアルバムだったので、今作では肩に力を入れず、遊びのような感覚で曲をつくっていきたかったんです。あとは、以前から打ち込みだけで曲をつくったりも時々していたので、それを発展させてみたいという気持ちもありましたね」
――上田さんはAA=以前から、打ち込みでつくり出す無機的なエレクトロニック・サウンドと、ロックが持つ躍動感や人間的な要素の共存を、追求してきましたよね。
「そうですね。それがずっと、自分のスタイルにおいて中心になっています。その上で、既存の形式とか、いま旬のスタイルということよりも、自分らしいものを追求して、最高の楽曲をつくりたいと、常に思っているんです」
――そんな中、今作のプロダクションで特に重点を置いたのはどんなことでしょうか?
「今回はリズムからつくったので、そのビート感やグルーヴ感は、絶対無くさないように意識しましたね。人間の手とマシン、どっちにグルーヴの軸を持っていくかで、曲のカラーが全く変わるので、ストーリーとの兼ね合いもふまえて、各楽曲をどちらにするか決めました」
――それに加え、シンセの音色で退廃的な雰囲気が強調されているのと、全体的に奥行きのあるサウンドに仕上がっているのも印象的でした。
「今回はミックスも僕がやったので、細かいところにも自分の感情を出しやすかったんでしょうね。そのあたりは、今までよりもクリアに表現できたと思います」
――その一方で、上田さんらしい、突き抜けるようなエモーショナルなメロディーや、重厚なサウンドも健在ですね。
「そこは特に意識せずとも、自然に表れるものだと思います。自分の好きな音って、極端なものだったり、四方八方に広がっているものなんだけど、AA=の音楽は、それらが全部組み合わさった、接点の中心にあるものなんです。それは、これからもずっと変わらないと思います」
――ちなみに、今作をロック・リスナーだけでなく、クラブ・ミュージック・ファンにも届けたいという思いもあったのでしょうか?
「昔は結構そう考えていたんですけど、今はダンス・フィールドでもロックなサウンドが取り入れられているので、リスナーもその感覚をわかっていると思うんですよ。だから、あえてアピールするという気持ちはあまりなく、それよりも自分の音楽を深めていくように意識しました。一つのパターンや一つのスタイルで完結しちゃうのは、つまらないですからね」
【サウンドと密接にリンクした歌詞】
――『#2』のクレジットには、前作に引き続き、BACK DROP BOMBの白川さん(Vo)、マッドの元メンバーでもあるMINORUさん(G)が参加しているほか、ライブ・メンバーをつとめている、金子ノブアキさん(Dr)も名を連ねていますね。彼らには、やはり絶大な信頼を置いているのでしょうか?
「そうですね。今僕がイメージしている音楽を表現するのに、彼らは最も適した人たちだと思います。今作では、レコーディング前にメンバーみんなで演奏を合わせたりは、一切しなかったんですよ」
――そうなんですね!? では、どのようにレコーディングを進めたのですか?
「一人一人にデモ音源を渡して、それぞれスタジオに入ってもらい、好きなプレイを録ってもらいました。そうやって録ったものを材料として、僕がさらに手を加え、曲として構築していったんです。今までにやったことのない形式だったので、新鮮でしたね。ミュージシャンのメンタル的な部分って、自然と音に表れると思うんですが、こういうストイックなやり方は、今回の作品イメージに合っていたと思います。メンバー一人一人の緊張感によって、退廃的な雰囲気をつくり出すことができました」
――前作には、上田さん一人で作詞した曲と、白川さんと共同で作詞した曲、両方がありましたよね。今回はいかがでしょうか?
「もともとは、前回と同じ形式で作詞するつもりだったんです。でも制作を進めていくうちに、アルバム全体のテーマが重要になってきたので、“自分で作詞しないと、つじつまが合わなくなるな”って思い、全部僕が歌詞を手がけました。あまり言葉で説明しすぎないことが大事だと思ったので、メッセージを伝えるために、何かこれまでと違う表現方法はないかなと、考えながら書きましたね」
――たしかに、今作では一つのセンテンスよりも、単語のループで攻めている歌詞が多かった印象です。
「曲の世界観を、一つの単語に詰め込んだものもあるし、逆に、それに対しての反発を表した曲もあるんです。言葉って難しいけど本当に面白いですよね。同じ内容でも、言葉によっては違う聞こえ方になるし」
――どういったものが、歌詞のインスピレーション源だったのでしょうか?
「音の持っているイメージや雰囲気、色から影響を受けることが多かったですね。鳴らしている音からエネルギーをもらった部分が大きいので、まるで音に“こういう曲をつくれ!”と、指図されているような気持ちでした。音に意思があるわけではないんだけど、まるでそう言われているような感覚だったんですよ」
――サウンドと歌詞のメッセージは、密接につながっているんですね。『#2』リリース後のライブは、どんな内容になりそうですか?
「これから初めて、バンド・メンバーでリハーサルをやるような状況なので(笑)、予想がつかないですね。みんなでセッションすることによって、変わってくる部分もあるだろうし。ぜひライブで、アルバムの完成型を見てもらえたらと思います。新しい化学反応がどんどん起きたらいいなと、自分自身も楽しみにしていますね」
――もう、次なるビジョンも浮かんでいるのでしょうか?
「今作でやった手法はとても面白かったんですけど、次の作品ではまた違ったアプローチで、バンド形式でレコーディングをするかもしれませんね。テクニカルなアイディアはもう浮かんでいます」
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