MEG『SECRET ADVENTURE』インタビュー

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モデル、ファッション・デザイナーとしても活躍し、時代の最先端を切り取るセンスでブレイク中のシンガー、MEG。数々のクラブ・ミュージック・クリエイターとコラボレートしつつ、J-POPフィールドでも注目を浴びている、次世代型ポップ・ミュージック・アーティストの代表格です。現在は、エレクトロ・ポップ・ムーヴメントを象徴する存在としても広く知られています。

そんなMEGが、2010年初となるニュー・シングル、『SECRET ADVENTURE』をリリースしました。2009年5月に発表したアルバム『BEAUTIFUL』以来、久々に中田ヤスタカ(capsule)が楽曲プロデュースを担当した本シングル。その制作風景について、MEG本人にインタビューを行いました。


――音源のリリースは、ミニ・アルバム『JOURNEY』以来、約半年ぶりですよね。

「そんなに久しぶりという感覚ではなかったですけど、でも『JOURNEY』から半年経っていますもんね。今回の曲は、ニュー・アルバム用の曲を制作していく中でできたものなんですよ」

――アルバムの曲づくりも、並行して進めていたんですね。中田さんと、久々に一緒に制作した感触はいかがでしたか?

「私としては、前のアルバム『BEAUTIFUL』ですごく良いものができたから、そこからもう一枚アルバムを一緒につくるとなると、“うわぁ、どうなるんだろう? わからん”っていう心配がありましたね(笑)。いやぁ…実際制作に入ってからも、テンポがつかめるまでは苦しかったです。『BEAUTIFUL』で、自分の中でひと区切りって気持ちがあったんです。だから、次のアルバムではスタイルを変えるのか、そのままいくのかも固まってなくて。来た球はちゃんと投げ返そうと思ってはいたんですけど、上がってきたデモに対して、あんまりコレ! という歌詞が浮かんでこなくて。やーばーい、って結構悩みましたね」

――歌詞だけじゃなく、楽曲のテーマも考えるのが難しかったですか?

「難しかったかも。前は、曲を聴いたら“こういうシチュエーション、こういうキャラでいこう”ってすぐ浮かんだんですけど、今回はそうじゃなかったですね。今回は、中田くんのデモが全部弾き語りで上がってきたんですよ。そういうつくり方だと、他に入っている音からインスピレーションを受けることも少なくて、メロディー重視になってる分、どんな言葉を乗せても、歌詞が浮き出てきちゃって。いい意味でメロディアスなんですけど、浮いちゃう歌詞がこれでいいのかって悩んでいたら、結構時間がかかっちゃいました」

――このたびシングルで発表した、『SECRET ADVENTURE』も、制作には苦労したんですか?

「このシングルは、その中でもわりとすぐできた曲なんですよ。アルバム制作の中盤に録った曲なんですけど、良いものができたから、シングルにしたいなと思ったんです。中田くんも、“これはすごく良い曲だと思うから、先にやって”って、めずらしく意思表示を(笑)。レコーディングした当日に、シングルにする曲を決めなきゃいけなくて、結構ギリギリだったんですよ。録る前にもうジャケのラフができてる、みたいな(笑)」

――そうだったんですね(笑)。弾き語りでデモが上がってきたということは、中田さん自身も、今回はソングライティング重視で制作していたんでしょうか?

「つくり方を見ていると、そんな感じでしたね。『BEAUTIFUL』の時も挑戦しつつでしたけど、今回はもっとソングライティングの要素が強くなっていると思います」

――表題曲「SECRET ADVENTURE」は、メロディーと歌詞の譜割りや、単語の当てはめ方が不思議だなと感じました。

「これも、デモが弾き語りで上がってきたんですけど、それに忠実なリズムの言葉を乗せないと、“これ、違う”って言われちゃうんで(笑)。それもあって、言葉が上手くリズムに乗っていると思います」

――単語のチョイスや、言葉遊びも面白いですよね。

「そうですね。どんな歌詞を乗せても、意味が前に出てきちゃうような曲調だったから、あえて、意味がストレートにはわからないような単語を並べました」

――今までの楽曲のような、一連のストーリーを描いたものとは異なるアプローチですよね。

「うん、そうかも」

――この曲でモチーフになっているのは、揺れ動いている、わりと優柔不断なキャラクターですよね(笑)?

「そうですねぇ…とにかく、ノリが伝わればいいなと思ったんです(笑)。歌詞に引きずられず、パパッとノリ良く、3分半で終わるような曲にしようかなと。ホント言葉遊びで、“今何て言ったんだろう?”ぐらいの感じにしたかったんです」

――歌詞の一人称が“僕”になっていましたが、そこには特別が意味があるんですか?

「そうそう、女子目線だと内容が重くなっちゃうから、今回は男の子にしてみたんです(笑)」

――カップリング曲の「GLAY」は、メロディーラインやコード感が独特で、これまでMEGさんが発表してきた曲と比べると、珍しいテイストですよね。

「そうですね。“中田くんは、今回こういう感じの曲もやるんだー”と思いました。こっちの曲も、比較的スムーズに制作できましたね」

――英語詞にしたのは、何か理由があるんですか?

「日本語にしちゃうと重たくなっちゃうし、あの仮歌に合う日本語は無い! っていう話になったんです(笑)。英語の方が乗せやすかったですね」

――「GLAY」では、表題曲とは対照的で、“白黒ハッキリつけたい”っていう感情を歌っていますよね。

「カワイイ感じよりは、低めのトーンで歌っているイメージだったので、そういうシビアなことも言っちゃうキャラにしたかったんです。“グレーなのが嫌いなんです”って、ずっと言っている感じです(笑)」

――そういうキャラは、MEGさんの性格とも重なるんでしょうか?

「でもなんか、それってトシとっただけなのかな? と思って(笑)。私たちの世代に比べると、なんとなく若い子ってあんまり意思表示を好んでしないし、その前に考えない人が多いなと思って。ゆとり世代が関係あるかは、わかんないですけど(笑)。悪気無く“考えないで保留”ってしていることに、もどかしさを感じることがありますね。“こうなりたい”って思っても、なりたいって言っているだけじゃダメじゃないですか。それに向けての“ライン”が想像できる人じゃないと、そこに行けないと思うんですよ。それを考えないから進めないのになぁ…って、端から見ててもどかしい(笑)」

――なるほど。MEGさん自身、ここ数年で考え方で変わったところって何かありますか?

「ここ数年で変わったのは、誰かを育てたいっていう気持ちが大きくなったことですかね。何でも自分が指示してやった方が早いんだけど、一旦任せてみたり。どこまでできるかを見て、それ以上のことを教えてあげて、その子が成長するのを見るっていうのが楽しくて。宇川(直宏)さんが言っていたような、“育欲”みたいなのが。そうゆことが面白くなってきてます」

――それは意外ですね!? ところで、このシングルには、「SECRET ADVENTURE」のリミックスも収録されていますが、これは中田さんのセルフ・リミックスですか?

「はい。“クラブでも飛び入り参加できるようなバージョンがほしい”ってお願いしたら、“オリジナルよりは、面白くない感じになると思うよ”って言われましたね、焼き肉屋で(笑)。タイトル曲よりは派手にしたくなかったみたいで、音数をそんなに増やしていないですね。男っぽいリミックスになったと思います。シングルにしか入っていないバージョンなんですが、こっちもぜひ聴いてほしいですね」

――あと、『SECRET ADVENTURE』では、アートワークのイメージも変わりましたが、これはどんなコンセプトなんでしょうか?

「今回は、アルバムに向けてのシングルっていう考え方だったんで、両方の撮影を1日でやったんです。『BEAUTIFUL』の箱仕様がすごく好きだったので、それをもう一回やろうっていうところから始まったんですよ」

――なるほど。このビジュアル・イメージは、楽曲スタイルとも関連しているんでしょうか?

「2009年秋のワンマン・ライブで楽器を入れたのもあって、中田くんも“次のアルバムからは、楽器を取り入れやすい曲にしよう”って話をしてくれていたんですよ。それもあって、いかにもエレクトロっぽいジャケから離れたかったというか(笑)。しっとしりたアートワークがやりたかったのと、年相応な生々しさも残しておきたいなと思ったんです。荒っぽいカッコ良さが出てればいいな」

――『SECRET ADVENTURE』は、2010年初のリリースですが、このシングルを皮切りに、今後はどんなことに挑戦したいですか?

「6月にアルバムを出してからは、10月にバースデー・パーティーを、サンリオピューロランドで2日間でやることが決まっていて。まぁ、何歳になるかはおいといて(笑)。その他には、アニメーションをやってみたいですね。趣味レベルでもいいので…。自分のビジュアルや歌じゃなくても、声であそべるようなことをやりたいです」

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オーラルヴァンパイア インタビュー

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仮面をかぶった奇才トラック・メイカー / DJ、レイブマンと、吸血ボーカルのエキゾチカからなる、オーラルヴァンパイア。テクノ、エレクトロ、インダストリアル・ミュージックの実験性、昭和歌謡を彷彿とさせるレトロなメロディー、ゴシック調のビジュアル・イメージで、独特の存在感を放つ注目株です。そんなオーラルヴァンパイアが、このたび初のフル・アルバム『ZOLTANK』を発表しました!
本作では、これまでに配信限定でリリースしてきた人気曲のニュー・バージョンに、新曲を加えた、全16曲が収録されています。

そこでiLOUDは、ポップさとミステリアスな世界観をあわせせ持つ、中毒性が高いサウンドが詰まった『ZOLTANK』の制作背景を探るべく、オーラルヴァンパイアの二人、レイブマンとエキゾチカにインタビューを行いました。

オーラルヴァンパイア インタビュー

須永辰緒 インタビュー

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クラブ / ジャズ・シーンを第一線で牽引する、“レコード番長”のニックネームでおなじみのDJ / プロデューサー、須永辰緒。このたび、彼が監修する人気コンピレーション・シリーズ、『夜ジャズ』の“特別編”となる『須永辰緒の夜ジャズ・外伝~All the young dudes~すべての若き野郎ども』がリリースされました。そこで、国内のクラブ・ジャズ・シーンで活躍する、15組の精鋭ジャズ・バンドをフィーチャーした本作のコンセプトについて、須永氏にじっくりと話を聞きました。なお、インタビューの後編は須永氏による全収録曲解説となっているので、そちらも合わせてお楽しみください!

須永辰緒 インタビュー

MATT & KIM インタビュー

ブルックリンが育んだ、ポップでエキセントリックな人気デュオ

ニューヨークのブルックリンを拠点に活動する、マット・ジョンソン(Keys/Vo)とキム・シフィノ(Dr/Vo)からなる男女デュオ、MATT & KIM。シンセとドラムのみというシンプルな編成から繰り出される、ポップで、ダンサブルで、パンキッシュで、そして手づくり感満点のサウンドが持ち味の、いかにもブルックリンらしいセンスを持った注目株です。

そんな彼らが、最新アルバム『GRAND』(’08)に、リミックス曲を追加収録した日本編集盤、『GRAND – Deluxe Edition』をリリースしました。本国で40万枚のセールスを記録した「Daylight」や、全米大学生の投票によって選ばれるMTVのWoodie Awardsで、ベスト・ビデオ2009賞を受賞した「Lessons Learned」を収録した話題作です。

というわけで、ここではメンバーのキムに、本作の内容とMATT & KIMの音楽性について聞いてみました。なお、彼らはフジロックで来日することが決定しています。


――あなた達は、もともと音楽活動をやるつもりはもちろん、楽器演奏もできなかったそうですね。MATT & KIMを結成して、音楽活動をやってみようと思ったきっかけは何だったんですか?

「そう、バンドを始めるつもりは全然なかったの。ドラムをやってみたいって気持ちは、ずっとあったけどね。で、ある日、友達がドラム・セットをくれたから、早速そのドラムを自分のアパートの部屋に設置して、遊びながら叩くようになった。ちょうどマットも、友達の家の納屋で見つけたクレイジーなキーボードがあって、全然弾き方を知らなかったから、じゃあ二人の楽器を持ち寄って一緒に遊ぶと楽しいね、ってことになったわけ。そうしているうちに、友達に説得されて、というか無理矢理ライブをやらされたのよ」

――それが、’04年の10月のことですね。

「ニューヨークのクイーンズにある、アートスペースの地下でやったんだけど、その時はまだ自作の曲が3曲しかなかったし、バンド名もなかったわ。なりゆきで全てが進行していった感じだった。私達二人共メチャクチャ緊張していたから、あの夜の記憶ってほとんどないのよ。友達はみんなエンジョイしてくれたみたいだけど、ただナイスに振る舞っていてくれていただけかも」

――本格的に音楽活動を始めてからの音楽的なコンセプトは、どういうものでしたか? あなた達は、“ダンス・パンク”などと形容されることが多いですが。

「私達の音楽を説明するのって、一つのジャンルに当てはまらないことをやっているから、すごく難しいと思う。でも、そのおかげで、いろんなタイプのライブに出られる機会があって、最高よ。これまでに、ポップ・バンド、パンク・バンド、ヒップホップ・グループ、DJと同じステージに出ることができたわ。私達の音楽は、楽しくて解放された気分を味わいたい人達にピッタリだと思う。まぁ私達は、自分の楽器の弾き方もよく知らなかったわけだから、特定の音楽的コンセプトなんて持たずにバンドをはじめちゃったのよ」

――で、その後ツアーやライブ活動を重ね、’06年にデビュー・アルバム『MATT & KIM』を、’08年に『GRAND』をリリースし、現在に至るわけですが、ここまでのご自身の活動を振り返ってみて、いかがですか?

「長い道のりだったっていう実感は、あまりないかな。これからも、バンに乗り込んで、街に出て、ライブをやるっていう、最初と変わらないスタンスで活動を続けていくだけよ。最初は人家やアートスペースでやっていたライブが、今じゃ大規模なフェスティバルで、1万人を前に演奏できるまでになったけどね。でも、規模が変わっても自分達のパフォーマンスをやるだけでしょ。クレイジーなパーティーをね!」

――では、この度日本でもリリースされる『GRAND – Deluxe Edition』について教えてください。本作のテーマは何でしたか?

「アルバムのテーマは、“ブルックリン”よ。ブルックリンにある自分達の家を離れること、そして、その家に帰ってくることね。このアルバムをつくった後に、ブルックリンや、私達の近所、グランド・ストリート(彼らが暮らしている通りの名前)について書かかれた曲が多い、ってことに気がついたの」

――それで、“GRAND”というアルバム・タイトルなんですね。あなた達にとって、ブルックリンとはどんな街なんですか?

「ブルックリンは、私達が帰る場所、ホームよ。できることが山ほどあって、居心地がいい場所ね。白状するけど、私たちはマンハッタンには滅多に行かないわ。私に必要なものは全部ここ、ブルックリンに揃っている」

――曲づくりは、どのように進めていったんですか?

「レコーディングの大半は、バーモントにあるマットの実家でやったわ。自分達でやりたかったし、スタジオ代も節約できるから。で、当初はバーモントに6週間滞在する予定で、アルバムを完成させるには十分な時間だろうと思ってだんだけど、全くの計算違いだったわね。ツアーの予定が入って、制作を一時中断しないといけなくなったりして。だから、その後はブルックリンに戻って、自分達のアパートで最終的なレコーディングとミキシングをやったわ。あの時は、大音量を出しまくっていたのに、ご近所が文句を言ってこなかったから、今でも不思議よ」

――本作からは、まず「Daylight」がヒットしましたね。どのようにして誕生した曲ですか?

「「Daylight」は、マットが一番気に入っていたもので、かなり時間を費やした曲だったわ。あの曲には特別な何かがあるってことを、マットは初めから感じていて、それを形にしようと夢中だった。“でかした!”って感じよね!」

――「Lessons Learned」のビデオは、ちょっとショッキングな内容ですね。このPVは、どういう経緯で完成したものなんですか?現在は、エリカ・バドゥが同様のストーリーで自身のPVを制作したことで、さらに話題を集めていますね。

「マットのアイディアだったわ。“「Lessons Learned」は開き直って楽になることがテーマの曲だから、タイムズ・スクエアで裸になろうよ。ピッタリだ”って…。はっきり言って、私はイヤだったんだけど、何ヶ月間もマットにしつこく粘られて、渋々承知したのよ。だって、裸になるだけじゃなくて、2月だったのよ!2月のニューヨークって、ホントにありえないくらい極寒なんだから」

――フジロックでは、どんなパフォーマンスを行なう予定ですか?

「フジロックに出るのが、本当に楽しみよ。フジロックは素晴らしいフェスだっていう話を、ずっと周りから聞かされているから。初めての日本だから、何を期待すればいいのか分からないけど、最高にクレイジーで楽しい場所だといいな。日本のみんな、よろしく頼むわね!」

Translation KYOKO WATANABE

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LCD SOUNDSYSTEM インタビュー

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ジェームス・マーフィー(DFA)率いる、2000年代型ディスコ・パンクの先鞭をつけた人気プロジェクト、LCDサウンドシステムが、通算三作目のオリジナル・アルバム、『ディス・イズ・ハプニング(This Is Happening)』を5月12日にリリースします。ディスコで、パンクで、ノーウェイブな音楽性をさらに極めた、充実作となっております。

というわけで、早速ジェームスさんに本作の内容について、さらに活動休止情報の真相についても話を聞きました。

LCD SOUNDSYSTEM インタビュー

LCD SOUNDSYSTEM ディスコ・パンクの旗手が描き出す、究極にして最後のアルバム!?

ジェームス・マーフィー(DFA)率いる、2000年代型ディスコ・パンクの先鞭をつけた人気プロジェクト、LCDサウンドシステムが、通算三作目のオリジナル・アルバム、『ディス・イズ・ハプニング(This Is Happening)』をリリースします。ディスコで、パンクで、ノーウェイブな音楽性をさらに極めた、充実作となっております。

というわけで、早速ジェームスさんに本作の内容について、さらに活動休止情報の真相についても話を聞きました。


――サード・アルバム『ディス・イズ・ハプニング(This Is Happening)』の完成、おめでとうございます。まずは、本作のテーマについて教えてください。

「まず、最初のアルバム『LCD Soundsystem』(’05)っていうのは、自分のアイディアをとりあえず発表して、みんなに知ってもらうためのものだった気がする。で、2枚目『Sound Of Silver』(’07)は、そのアイディアが正しいんだってことを、もうちょっと証明するようなものだったね。そしてこの3枚目、『ディス・イズ・ハプニング』は、少しリスクを冒す、ということを試してみたくなった作品かな」

――“This Is Happening”というタイトルの由来について教えてください。

「このタイトルは、英語のイディオムみたいなものなんだけど、自分達に起こったことが、自分達でも…..なんていうのか、信じられなかったんだよね(笑)。ある意味、僕達は成功したわけじゃない? そういう事態って、全然予想してなかったのに、“ホントにそういうことが起こってるよ!(= This is happening)”ってことになって、それが面白かったから、このタイトルにしたんだ。自分達にとっても驚きだった、ってことさ」

――デビュー・アルバム『LCD Soundsystem』は、グラミー賞にノミネートされましたし、続く『Sound Of Silver』は、各メディアでその年のベスト・アルバムに選定されましたもんね。で、本作の制作には、約一年もの期間をかけたそうですが…。

「いや、そうとも言えないよ。制作作業には、結構な間があったんだ。まずはロサンジェルスで3ヶ月くらいやって、それからニューヨークに帰ったんだけど、しばらくサントラの仕事(編注:ノア・ボーンバッハ監督作品『Greenberg』のサウンドトラックを制作したほか、ロバート・ルケティック監督作品『21(ラスベガスをぶっつぶせ)』にも「Big Ideas」という楽曲を提供しています)をしていたからね。で、それからまた2ヶ月くらいかけて、このアルバムを完成させたんだ。だから、トータルの制作期間は5ヶ月くらいかな。あ、一月に風邪をひいて声が出なくなったことがあったから、結局は6ヶ月くらいかかったかもしれない(笑)」

――なるほど(笑)。先ほど“少しリスクを冒す”と表現していましたが、本作のサウンド面で特に重要視したことは何でしたか? LCDサウンドシステムらしい、ディスコでパンキッシュでノーウェイブ的な音楽性を、さらに極めた内容となっていますね。

「基本的には、これまでのアルバムと同じだったよ。まずは、作業するのに適した環境を上手く構築する、ってことことが重要だった。で、次に機材面だね。いつも僕は、自分が快適に作業できる環境をつくり上げることから始めるんだ。だから、何について書こう?みたいなことって、最初は全く考えてないよ。とにかく、快適に作業できるかどうかが重要でね。あとは、自分の中にある“葛藤”…かな」

――葛藤、ですか。では、本作を完成させるにあたって、一番時間を要したプロセスは何でしたか?

「たぶん…やっぱり、いろいろとクヨクヨしたりすること(笑)。僕は曲づくりをしていく時、クヨクヨと考え込むことに一番時間をかけてると思う(笑)。“良いものができるだろうか?”とか、とにかくクヨクヨと…」

――成功したわけですし、自信たっぷりに制作しても問題ないように思えますが、それは違うんですね。

「僕は、いつもそういう心配ばかりしてるんだよね(笑)。でも、自分の作品についてアレコレ気を遣わなくなると、でき上がるものって、本当にヒドくなっていくと思うよ。他の人の作品を見ていて、そう思うから。だから、自分の作品に関しては、いつまでもクヨクヨしていたいんだ(笑)」

――分かりました(笑)。シングル・カットされる「Drunk Girls」は、どのようにして誕生した曲ですか?

「おかしいんだけど、このバンドにいるメンバーってほとんど男なのに、一人だけいるの女の子が、僕らのことを“ガールズ”って呼ぶんだ。だから、僕らが酔っ払ってる場合は、“Drunk Girls”ってことなる(笑)。それが面白くて、曲名に使いたいと思ってね。アルバムの曲をトータルで聴き直していた時、“このレコードには、もっとバカみたいな楽しい曲が必要だ”って感じたし。それで、この曲を最後に書いたんだ」

――本作の日本盤には、ボーナストラックとしてペーパークリップ・ピープル(カール・クレイグ)の名曲「Throw」のカバーも収録されていますね。とても面白い試みですが、このトラックをカバーしようと思った理由は何ですか?

「「Throw」は、もう何年もライブでプレイしてきた曲でね。ある時、シンセが壊れちゃって、弾こうと思ってた曲がプレイできなくなったことがあったんだけど、その時ベース・プレイヤーがとっさに弾き始めたのが「Throw」だったんだ。で、みんな知ってる曲だったんで、ベースに合わせてプレイしたら、それがすごく楽しくてね。以来、そのまま何年もプレイするようになったってワケさ」

――そうでしたか。ちなみに、本作の中であなたが特に気に入っている曲って何ですか?

「それは難しい質問だね! 毎日好きな曲が変わるからな(笑)。今の気分で選ぶと、「I Can Change」かな。理由は…はっきり分からない。上手く説明できないんだけど、同じ曲でも、面白く思える時と思えない時があるんだ」

――それで、本作をもってLCDサウンドシステムのプロジェクトは終結させる、との情報がありますが、本当ですか?

「うん、そうだね」

――もうLCDサウンドシステムとしての使命は全うした、ということでしょうか?

「自分としては、今はそう思っている。自分にとってすごく重要なことなんだけど、変わらなきゃいけないような気がしてるんだ。このバンドとプレイしていくことは、すごく楽しいし、気に入ってるよ。このLCDサウンドシステム以外に、一緒にプレイしたいと思うようなバンドなんて存在しない。でも、僕は生きていて、他にいろいろやりたいことがある。レーベルの運営とかDJとか…本当に、やりたいことがたくさんあるんだ。そんな中、このバンドは、あまりにも僕の時間を独占しすぎる存在になってきてしまった」

――なるほど。

「だから今は、LCDサウンドシステムでできる限り最高の音楽をプレイしたいって思う気持ちと同時に、LCDサウンドシステムを僕の人生の全てにしてしまうことはできないって気持ちもあるんだよ。それで、妥協して中途半端な作品をつくっていくんだったら、今ここで止めておいた方がいいんじゃないかって思ったんだ。もうちょっと小さなスケールで、自分の気の済むように音楽をやっていく方が、自分のやりたいことができるように思うし」

――それでは、現在のあなたにとって、最重要課題は何ですか?

「もちろん、これからLCDサウンドシステムのツアーに出るから、それが最重要課題さ。最高のツアーにしたいって思ってるよ。そして、DFAレーベルからどんどん良い作品をリリースしていきたいね。あとは、できたら文章を書きたいって思ってるんだ。スタジオ機材のデザインもやってみたいな。やりたいことは、たくさんあるよ」

――現時点までのLCDサウンドシステムとしての活動の中で、一番印象に残っている出来事は何ですか?

「たぶん…最初のショーかな? でも、このバンドでやってきたことは、何でもすごく楽しかったよ。全部ね。そんなことになるなんて全然思ってなかったのに」

――“This Is Happening”ですね。では、フジロックでお待ちしておりますので!

「うん、フジにはまだ行ったことがないから、すごく楽しみなんだ。少し時間を取って、日本に滞在したいとも思ってるよ。今後は、パーティーの企画なんかで、年に1〜2回は日本に来たいとも考えてるし、もっと日本でいろんなことがやれるといいなって思ってるところさ」

translation Nanami Nakatani
photo Ruvan Wijesooriya

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トクマルシューゴ インタビュー

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2004年にニューヨークのレーベル、Music Relatedから『Night Piece』をリリースして以来、無印良品CMのサウンド・プロデュースや、IOC(国際オリンピック委員会)のスポットCM楽曲、NHK『トップランナー』『ニャンちゅうワールド放送局』の楽曲を担当するなど、活躍の場を広げているトクマルシューゴ。海外でも高い評価を受けている彼が、待望のニュー・アルバム『Port Entropy』をリリースしました。“総括ができた作品”と彼自身が語る通り、何十種類もの楽器が共鳴し合う、緻密なサウンドスケープと、心温まる類い希なメロディー・センスを堪能できる会心作となっています。

そんな『Port Entropy』の内容と、彼の音楽観について、トクマルシューゴ氏に話を聞きました。

トクマルシューゴ インタビュー

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須永辰緒 日本が世界に誇るジャズ・バンドが集結する 人気コンピレーション・シリーズの“特別編”

クラブ / ジャズ・シーンを第一線で牽引する、“レコード番長”のニックネームでおなじみのDJ / プロデューサー、須永辰緒。全国各地でのDJに加え、自身のソロ・ユニット、Sunaga t experience名義で発表した4枚のアルバムや、150作を超えるプロデュース・ワーク / リミックス作品を通して、“クラブにおけるジャズ”を提示し続けている重鎮だ。

そんな彼が監修する数多くのコンピレーションの中でも代表的な作品が、’06年にスタートした『夜ジャズ』シリーズだ。これまでに、全8タイトルがリリースされているが、このたび、その“特別編”となる『須永辰緒の夜ジャズ・外伝~All the young dudes~すべての若き野郎ども』が登場した。ジャズという共通のキーワードを軸に、ルーツや表現方法によって全く異なるサウンドを展開する、国内15アーティストの楽曲を収録した本作。『夜ジャズ』シリーズの中では異色の作品ながらも、その収録曲からは、他シリーズ同様、深夜のダンス・フロアに漂う濃厚な空気感や熱気、色香を感じ取ることができるだろう。

また、EGO-WRAPPIN’やSOIL&”PIMP”SESSIONS、勝手にしやがれ、PE’Zといった、ジャンルを超えて人気を博しているアーティストも参加しているため、ジャズに触れたことのないリスナーにとっては、入門編としても楽しめる作品となっている。

そこで、『夜ジャズ』シリーズのコンセプトと、現在進行形のジャズがつまった『須永辰緒の夜ジャズ・外伝~All the young dudes~すべての若き野郎ども』の内容について、須永辰緒に詳しい話を聞いた。なお、インタビューの後には、須永氏による全収録曲の解説を掲載しているので、そちらも合わせてお楽しみください。


【『夜ジャズ』の出発点は深夜3時のフロア】

ーーまずは、夜ジャズ・シリーズがスタートした経緯から教えてください。

「シリーズを始めた頃は、’60~’70年代の黄金期のジャズだけでフロアを構成するのに、自分が盛り上がっていた時期だったんです。それまでは、踊りやすい曲も割とプレイしていて、それを撒き餌にジャズで踊ってもらうスタイルだったけど、そろそろ、お客さんにストレスを与えることも厭わず、ジャズだけでフロアを構成してもいいんじゃないかと思っていたんです。ジャズだけでダンス・ミュージックとして成立させようというのも乱暴な話だし、生音のジャズだけで踊るって、ダンス・ミュージックに慣れた若いクラウドには難しかったけど、敢えてやっていたんですよ」

ーーお客さんに対する、ある種の挑戦からスタートしたんですね。

「それで、あるとき、深夜の3時にハンク・モブレーやリー・モーガン、ヨーロッパの誰も聴いたことのないジャズだけで、フロアが盛り上がっていたんですよ。あまりにもその光景が格好良くて、東京にこんなシーンがあることを誇りに思い、何か形に残したくなったんです。そのときに、“深夜のジャズだから、これは夜ジャズだ”と思ったんです。その話をレコード会社の人が面白がってくれて、コンピレーションという形でリリースできることになったんです」

ーースタンダードなジャズのどんな部分に、踊れる要素を見いだしたんですか?

「ジャズに踊れる要素を感じたというよりも、選曲やミックスで、踊れるジャズに無理矢理仕立てたんです。元をただせば、ジャズで踊るのは当たり前で、今みたいに、椅子に座ってじっと聴くものではなかったんですよ。だから、原点回帰という側面もありますね。それに、元々自分が、ハードコアやパンクのDJ出身だから、パンクな精神が好きなんですよ。DIY精神を引きずっているので、黄金期のジャズだけで現在のフロアを揺らすことが、めちゃくちゃパンクなんじゃないかと思ったんです。ジャズを方便に、パンクな精神を実践しているというところですね」

ーーなるほど。夜3時のフロアを見てひらめいた、ということですが、どんな要素を持つ楽曲が、『夜ジャズ』シリーズに適しているのでしょう?

「『夜ジャズ』をコンパイルする際にいつも意識しているのは、エドワード・ホッパーの『Night Hawks』という絵画の持つ世界観なんですよ。あとは、今回のジャケットには、名前もついてないような、NYの裏通りの写真を使ってるんだけど、こういう、夜のストリートの雰囲気を連想するような曲を、これまでに選んできました。夜ジャズを聴いてもらうと、サウンドスケープが浮かんでくるような、そういうイメージの曲ですね」

ーー作品と連動して、イベントも開催されていますが、そこには、現場でジャズを体感してほしい、という思いがあったのでしょうか?

「実は、イベントは後づけだったんですよ。ジャズ・シーンでは、古い曲から新しい曲まで体系立てて聴くスタイルがメインストリームなんですね。ただ、若い人にとっては、どこから聴いていいかわからないし、敷居が高いイメージがあるんですよ。それで、双方のリスナーをつなぐ接着剤の役割として、イベントを始めたんです。“クラブ・ミュージックを通過した耳で聴く、黄金期のジャズはこういうものだ”というコンセプトが自分の中にありますね」


【ダンス・ミュージックを通過した世代が生み出すジャズ】

ーーでは、今回の『須永辰緒の夜ジャズ・外伝~All the young dudes~すべての若き野郎ども』のコンセプトを教えてください。

「“~All the young dudes~すべての若き野郎ども”というサブタイトルが付いているけど、そもそもは、これが本タイトルで、“夜ジャズ外伝”はつけ足しだったんです。今までの『夜ジャズ』とは、全く違うコンセプトだから、“外伝”なんですよ。オーセンティックなジャズが好事家の間で脈々と聴かれている中に、若い子はなかなか入っていけないんですね。だけど、ジャズの理論を勉強した上で、タテノリの曲をやっているSOIL&”PIMP”SESSIONSをはじめ、日本には、世界に誇るジャズ・コンボがたくさんいるんですよ。どんな形にせよ、みんな、“ジャズはジャズ”という気持ちでやっているんですよね。そういう世代がたくさん出てきているので、それを一度コンパイルして、紹介したいと思っていたんです」

ーーなるほど。今回は、自己流のジャズを表現しているアーティストをピックアップしたんですね。

「ジャズのルールや決まりごとよりも、自分たちの考えるジャズを実践しているバンドですね。ジャズの影響を受けて、アコースティックな初期衝動としてのジャズをやっている世代。その多くは、ハウスやヒップホップなどダンス・ミュージックの洗礼を受けていて、その上でジャズをやっているんですよ」

ーー本作は、『夜ジャズ』シリーズの中でも、ジャズを知らないリスナーにも親しみのあるアーティストが、とりわけ多く収録されていると感じました。

「そうですね。ただ、言ってることは相反するけど、これが王道のジャズかといったら、それはどうかな? と思うんですよ。古いジャズを否定しているわけではなくて、古いジャズに、2000年代型のイディオムを加えてリロードさせると、こうした形になることもあるということです。収録アーティストは、みなさんスタンダードのセッションもできるし、古いジャズに敬意を払っていますから」

ーージャズという音楽が、時代によって様々な要素を取り込み、変化する余地があるから、2000年代的な解釈な楽曲が生まれていくのでしょうか?

「それは逆で、ジャズは基本的に変わらないんです。’60年代に雛形ができて、そこから、フュージョンやフリージャズなどいろいろな潮流が生まれたけど、基本的にオーセンティックなジャズの概念は変わらず、インプロビゼーションと演奏です。それと、今回コンパイルしたジャズの何が違うかといえば、ダンス・ミュージックを通過しているかどうかということなんです。ジャズしか勉強していない人が、クラブ・ジャズのような音楽をつくろうとしても、恐らくできないと思います。ジャズは、クラシック / ジャズ・オーディオで聴くことを前提につくられたものが多いけど、ダンス・ミュージックを通過した人の手にかかると、コンポーズやアレンジだけではなく、トラックダウンで上がってくる音も変わってくるんですよ。要するに、クラブの音響に適した音が分かっているということです。そういう曲は、ジャズとして聴くには不自然でも、ダンス・ミュージックと並列して聴くと極めて自然なんですね」

ーー本作のラインナップを見ると、ダンス・ミュージックを通過したジャズのアーティストがこんなに集まるほど、シーンが充実していることが分かりますね。

「そうですね、極めて健全だと思いますよ。’90年代初頭、イタリアにスケーマというレーベルができて、そこからクラブ・ジャズ系のアーティストがたくさん輩出されたんですね。彼らがフランスやカナダ、ノルウェー、フィンランドなど世界中を手引きして、バンドにDJがいるけど、ECMレコードからリリースするようなアーティストが、世界中から出てきたんです。そういう流れは当初から知っていて、日本からも、もっと出てきても良いんじゃないかと思っていたんで、今の状況は非常に喜ばしいですね」

ーー本作を聴くと、一口にジャズといっても、バンドの形態も、アウトプットの方法も実に多彩だと感じました。リスナーには本作をどのように楽しんでほしいですか?

「このアルバムに限ったことじゃないけど、音楽はパッケージあってのものだと思っているんです。ジャケットを手に取って、眺めながら聴きたいので、最近はCDしか出てないものも多いけど、レコードで出ているものはそれを買いますね。音楽は、ジャケットも含めてのトータルアートだと思っているので、CDの中身はもちろん、いつもジャケットにも力を入れているつもりなんです。だから、パッケージを大事にしてほしいという啓発運動の一環として、こういう作品をつくっているんですよ(笑)」

ーー以前にLOUD本誌で行ったインタビューでは、“アンチ・デジタル”とおっしゃっていましたが、パッケージへのこだわりは、それともつながるんでしょうか。

「音楽をパッケージで聴くこととはまた別の話だけど、DJとしては、完全にアンチ・デジタルですよ。デジタルどころか、最近はCDも使わないくらいですから。リスナーにとって、配信音源は便利だけど、DJとしては、音質面でお客さんにストレスを与えたり、いろいろと不都合がありますから」

ーーなるほど。デジタル音源が普及し始めてからは、作品に対する愛着が薄まってきたというか、気軽に取り扱われることが増えたように思います。

「ただ、アルバムを一回聴けば十分というような、消費されるような音楽をつくってる作り手も悪いんですよ。とりあえず耳ざわりのいい、安易なコンピレーションや、カバー・アルバムをつくって配信するだけという状況に慣れてしまうと、ユーザーが麻痺してしまう恐れがあるんですよね。一方で、魂込めて音楽をつくっている人もいるわけですから、全てを同じ並びで聴いてしまうと、音楽文化はどうなってしまうんだろうという懸念があります。ただ、自分としてはパッケージが好きだから、純粋に仲間がほしいんですね。だから、全てを含めて楽しんでほしいですね」

【須永辰緒による、収録アーティスト&楽曲解説】

ここでは、『須永辰緒の夜ジャズ・外伝~All the young dudes~すべての若き野郎ども』の全収録アーティストと楽曲を須永辰緒氏に解説してもらいました。


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01. THE SAX NIGHT

SCRAP JUNCTION

勝手にしやがれの飯島誓と、Bloodest Saxophoneの甲田伸太郎を中心に2006年に結成された、5人のサックス奏者を擁するロックン・ロールオーケストラ。2009年には現メンバーの10人編成となり、これまでに3枚のアルバムを発表。ロックンロールや’60年代のガレージ・サウンドをベースに、ジャズやスカ、タンゴ等、様々な要素を取り入れた、ワイルドなサウンドを展開。「SCRAP JUNCTION」は、本コンピのために新録された楽曲。

「THE SAX NIGHTの作品のジャケットを見た瞬間に、本作への収録を決めました。本作のジャケットのイメージにぴったりなんですよ。実は、噂は聞いていたものの、彼らの音を聴いてなくて、ディレクターから紹介されたんだけど、案の定ど真ん中でしたね」


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02. TRI4TH

BMWの女

つくり込まれた楽曲と確かなテクニックに裏打ちされた、迫力あるライブ・パフォーマンスに定評のある、2006年に本格始動した5ピース・バンド。2009年3月には須永辰緒の主宰レーベルDISC MINORからアナログ・シングル『TRI4TH plus EP』(「BMWの女」収録)をリリースしているほか、多数のコンピレーションやトリビュート・アルバムに参加。さらに、脚本・三谷幸喜、主演・香取慎吾、音楽監督・小西康陽のミュージカル『TALK LIKE SINGING』に出演するなど、多方面で才能を発揮している。

「TRI4THは、若いけど実力者で、つい最近まで、NYのブロードウェイや日本で行われていた舞台、『TALK LIKE SINGING』に、ハウス・バンドとして出演していていました。このシーンで、2、3番手に飛び出てくる可能性のあるバンドですね」


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03. JABBERLOOP

TIME PARADOX

2004年に結成された、5人組クラブ・ジャズ・バンド。2007年にニック・ウェストン主宰のMUKATSUKU RECORDSより12インチEP 『UGETSU』をリリース。同年、1stアルバム『and infinite jazz…』でメジャー・デビューを果たした。その独自の音楽性は海外でも評価が高く、ジャイルス・ピーターソンやJAZZANOVAのユルゲン、パトリック・フォージら多くのトップDJがプレイ。本コンピには、新曲の「TIME PARADOX」を提供。

「JABBERLOOPも、若いのにキャリアがあって、堅実な演奏をするバンドですね。アレンジ力のあるメンバーがたくさんいるので、彼らのアルバムは聴いていて楽しいですよ」


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04. EGO-WRAPPIN’

Nervous Breakdown

1996年に大阪で結成された、中納良恵(Vo / 作詞作曲)と森雅樹(G / 作曲)からなるユニット。 2000年に発表した4thアルバム、『色彩のブルース』がロング・ヒットを記録。 戦前のジャズやキャバレー音楽、昭和歌謡を消化し、現代的なクラブ・ミュージックの感覚も取り入れた独自の世界観は、クラブ〜ポップ・シーンの枠を越えて、幅広いリスナーから支持されている。「Nervous Breakdown」は、『色彩のブルース』の冒頭を飾る一曲。

「僕は、EGO-WRAPPIN’が大好きで、彼らの曲を日本一かけるDJなんですよ。世界中で最もお気に入りのアーティストは、多分EGO-WRAPPIN’だと思います。本人たちはジャズをやっているとは一言も言いませんが、勝手に仲間へ引き入れたんです(笑)」


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05. Bloodest Saxophone

キッスをしようぜ!

1998年に甲田伸太郎を中心に結成された、6ピース・バンド。通称ブラサキ。一発録りのライブ感あふれるサウンドをつめこんだ1stアルバム『Bloodest』以来、これまでに6枚のアルバムを発表している。そのほかにも、トリビュート・アルバム『HEDWIG AND THE ANGRY INCH TRIBUTE』や、m-floのアルバム『ASTROMANTIC』に参加するなど、幅広い活躍を見せている。「キッスをしようぜ!」は、本コンピのための新録曲。

「Bloodest Saxophoneもディレクターから紹介してもらいました。いやに味がある人たちで、語弊があるかもしれないけど、本作の中では、三枚目担当というか、句読点になる曲だと思います。アルバムとして、そういう楽曲が必要だったんですよね。ライブも迫力があって、すごく良いんですよ」


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06. cro-magnon

Feelin’

1996年、ボストンで出会った大竹重寿(Dr)、コスガツヨシ(G / B)、金子巧(Key)のトリオでセッションを開始。Loop Junction名義での活動を経て、2004年よりcro-magnonとして活動開始。ソウルを軸に、ヒップホップ、ハウス、ダブ、ジャズ、ファンク、レゲエなど、あらゆるジャンルを飲み込んだ音楽性を展開し、Jazzy Sportの看板アーティストとして人気を博している。「Feelin’」は、本コンピのための新録曲。

「cro-magnonの「Feelin’」は、本作の中ですごく重要なんです。彼らは、羊の皮を被った狼というか、とても研ぎ澄まされているんだけど、ループに徹していて、黒い狂気を放っているというか…。例えようのないほど格好いい曲ですね。この曲は新録なんだけど、“自分がcro-magnonだったら、こんな曲をつくるだろうな”という期待通りの理想的な曲で、感謝しています」


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07. indigo jam unit

Dooinit

繊細で郷愁感あふれるピアノの旋律、豪快なツイン・ドラム、極太ベース・サウンドを武器に活動する、2005年結成の4ピース・インスト・ユニット。これまでに4枚のアルバムをリリースし、全て1万枚を超えるセールスを記録している。そのほかにも、様々なリミックスや、flexlifeとのコラボ・カバー・アルバム『Vintage Black』や、COMMONのリワーク集『re:common from indigo jam』を発表。「Dooinit」は、このリワーク集に収録されている、故JAY DEE作のトラックをカバーした一曲。

「indigo jam unitも、本作に絶対収録すべきアーティストですね。クラブ・ジャズと呼ばれることを、彼ら自身がどう思っているかは分からないけど、紛れもなく、本作のフロントライナーの一組です。ツイン・ドラムという珍しいスタイルのバンドで、もっと世界に出ていってほしいですね」


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08. quasimode

Corazon

北欧最高峰のジャズ / クロスオーバー・レーベル、RAW FUSIONからデビューし、JAZZANOVA主宰のSONAR KOLLEKTIVEともライセンス契約を結んでいる4ピース・バンド。さらに、名門BLUE NOTEからもカバー・アルバム『mode of blue』と4thフル・アルバム『daybreak』をリリースしているシーン屈指の実力派。今回は、キャロル・キングが1973年に発表した「Corazon」のカバーを、本コンピのために新録。

「quasimodeも、早くからクラブ・ジャズを標榜してきたバンドで、BLUE NOTEからリリースするくらい、実力者揃い。間違いないバンドです。“クラブ・ジャズといえばquasimode”というイメージが強いですね」


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09. カルメラ

地中海に浮かぶ女

西崎ゴウシ(Tp)と宮本敦(G)が2006年に前身となるバンドを結成し、2007年4月より本格的に活動を開始。大阪市内でのストリート・ライブや、ライブ・ハウス、クラブを中心に活動する8人組インスト・バンド。胸を撃つ哀愁メロディーに、ジャズ、サンバ、ラテン、ソウルなど多彩なテイストを取り入れた、血湧き肉踊るロック・チューンを展開している。5月26日には、1stアルバム『Hello!!ワールドワイド』をリリース予定。それに先駆け、本コンピには新録曲「地中海に浮かぶ女」を収録。

「カルメラは、僕が大阪でやっている<World Standard>というイベントで、早い時間にレギュラーで演奏してくれている、4管+4リズム隊の8人編成のバンドですね。この「地中海に浮かぶ女」で初めて世に出ると思います」


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10. Black Qp’67

Lunes Feliz

オーセンティックなジャズ、クラブ・ジャズの両シーンから注目を集めているバンド、nativeのリーダーである中村智由による新プロジェクト。2009年8月に1stアルバム『Hot Chase』をリリースし、ドラム、ベースのボトムスに、オルガン、ギター、中村智由をメインとしたホーン隊がファンキーかつ華麗に絡み合う、重厚で華やかなサウンドを展開している。本コンピには、『Hot Chase』に収録されている「Lunes Feliz」を提供。

「nativeのメンバーによるアザーサイドのバンドです。ハンク・モブレーの『Dippin’』のような、ソウル・ジャズの世界観を演出しているコンセプトが面白いと思っていたんです。彼らは、唯一無二の個性を持っているので、まず紹介したいなという思いがありましたね」


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11. Sunaga t experience

A Kite

須永辰緒によるソロ・ユニットで、これまでに4枚のアルバムを発表している。2009年末にリリースした3年半ぶりの4thアルバム、『Jazz Et Jazz』には、アキコ・グレース、ティモ・ラッシー、ユッカ・エスコラ(The Five Corners Quintet)、ジェラルド・フリジーナ、リクル・マイ、万波麻希ら多彩なゲストが参加。フロア・フレンドリーなダンス・ジャズから、陶酔を誘う幽玄なエレクトロニカ・ジャズまで、多彩な楽曲でジャズの前衛性を表現している。本コンピには、そんな『Jazz Et Jazz』より「A Kite」を収録。

「これは自分の曲ですが、自分もこのシーンでDJも制作もやっているから、仲間に入れてもらった感じですね。本当は裏方になりたくて、入れるつもりはなかったけど、The Five Corners Quintetのメンバーが参加しているので、それも含めて、入れる意義があるかなと思いました」


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12. THE TRAVELLERS

GHOST RIDERS IN THE SKY

1998年、福岡県久留米市を拠点に活動を開始して以来、国内の大型ロック・フェスに出演するほか、US、UK、タイといった海外でも活躍する4ピース・バンド。ロック・テイストなものからジャズ・スタンダードまで、多彩な楽曲をメンバーが一丸となってプレイするパワフルなライブで人気を博している。「GHOST RIDERS IN THE SKY」は、2001年のカバー・アルバム、『THE TRAVELLERS』からの一曲で、1948年にスタン・ジョーンズが作曲したカウボーイ・ソング。

「THE TRAVELLERSは、福岡のバンドで、バンドをやっている人はみんな知っている、隠れた実力者なんですよ。ロッキンなジャイブがありますね。彼らは、クラブ・ジャズの仲間に入れちゃホントはまずいんだけど、このくくりで入れたらどうなのかな、と思っていたんです。クラブ・ジャズは幅広さが肝だったりするので」


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13. 勝手にしやがれ

ステンドグラスのキリスト

1997年の活動開始以来、様々なジャズをパンク・ロックの精神で独自の音楽に昇華させている7ピース・バンド。ドラムの武藤昭平がボーカルを務める独特のスタイルが特徴で、2004年にメジャー・デビュー。CMや映画のサントラにも起用されるなど、幅広い活躍を見せている。これまでに9枚のアルバムをリリースしており、本コンピには、2005年の5thアルバム『シュール・ブルー』からの一曲「ステンドグラスのキリスト」を収録。

「勝手にしやがれも、THE SAX NIGHTと同様に、バンドのコンセプト自体が、“~All the young dudes~すべての若き野郎ども”にぴったりで、最初から入れたいと思いましたね。「ステンドグラスのキリスト」は、本作のコンセプトを体現している曲だと思います」


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14. SOIL&“PIMP”SESSIONS

SUMMER GODDESS

破壊力抜群の爆音ジャズ=DEATH JAZZの呼び名で知られる、アジテーターの社長率いる6人組バンド。ジャズのスタイルをベースとしながら、あらゆる音楽を吸収したクロスオーバー・サウンドを展開し、これまでに6枚のアルバムを発表。国内の大型フェスに出演を果たしているほか、2009年夏には、14カ所におよぶ大規模なヨーロッパ・ツアーを成功させている。本コンピには、2005年のミニ・アルバム『SUMMER GODDESS』のリード・トラックを収録。

「SOIL&“PIMP”SESSIONSがいないと話にならんだろう、ということで、完璧なフロント・ライナーですね。彼らがいなかったら拍子抜けしてしまうくらい、本作になくてはならないバンドです。他にも良い曲はたくさんあるけど、「SUMMER GODDESS」は、自分がプレイした回数が最も多い曲なんです」


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15. PE’Z

人が夢を見るといふ事~Black Skyline~vocal remix by Sunaga t Experience

1999年にOhyama “B.M.W” Wataru(Tp)を中心に結成された5ピース・バンド。ジャズをベースにしながらも、ラテンやロックなどを取り込んだサウンド、緊張感と躍動感を兼ね備えた圧倒的なライブ・パフォーマンスが評判となり、2002年にミニ・アルバム『Akatsuki』でメジャー・デビュー。2009年で活動10周年を迎え、今年2月には約3年ぶりのアルバム『1・2・MAX』をリリースした。本コンピには、2004年にSunaga t Experienceが手がけたリミックスを収録。

「これは、自分がリミックスさせてもらった曲でですね。PE’Zもクラブ・ジャズ・シーンができる前からずっと、アウトローなジャズをやっていたバンドで、どうしても彼らは入れたいと最初から思っていました。自分のイベントにも出てもらっていました」

アルバム情報

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VARIOUS ARTISTS
須永辰緒の夜ジャズ・外伝
~All the young dudes~すべての若き野郎ども
(JPN) SONY
AICL-2119

01. SCRAP JUNCTION / THE SAX NIGHT
02. BMWの女 / TRI4TH
03. TIME PARADOX / JABBERLOOP
04. Nervous Breakdown / EGO-WRAPPIN’
05. キッスをしようぜ!/ Bloodest Saxophone
06. Feelin’ / cro-magnon
07. Dooinit / indigo jam unit
08. Corazon / quasimode
09. 地中海に浮かぶ女 / カルメラ
10. Lunes Feliz / Black Qp’67
11. A Kite / Sunaga t experience
12. GHOST RIDERS IN THE SKY / THE TRAVELLERS
13. ステンドグラスのキリスト / 勝手にしやがれ
14. SUMMER GODDESS / SOIL&”PIMP”SESSIONS
15. 人が夢を見るといふ事~Black Skyline~vocal remix by Sunaga t Experience/ PE’Z

【Sunaga t experience official site】
http://sunaga-t.com/

HIDEO KOBAYASHI インタビュー

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1990年代にアンダーグラウンド・テクノ・シーンで活躍し、現在はハウスを主体としたスタイルで、クラブ・シーンの屋台骨を支えているクリエイター / DJ、HIDEO KOBAYASHI。数々のトップDJから絶大な支持を獲得している彼に、二作目のソロ・アルバム『a Drama』についてインタビューを行いました。

HIDEO KOBAYASHI インタビュー

Marina and the Diamonds インタビュー

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英BBCが発表した今年の新人アーティスト・チャート、“BBC SOUND OF 2010”で、第2位にランキングされたアーティスト、マリーナ・アンド・ザ・ダイアモンズ。ギリシャ人の父とウェールズ人の母を持つシンガー・ソングライター、マリーナのソロ・プロジェクトだ。19歳の時に音楽活動を始めたという彼女は、現在24歳。昨年の夏、トリオ編成のバンドを率いて、グラストンベリー、レディング&リーズといったフェスティヴァルに出演し、一気に注目を集めた逸材だ。

そんな彼女が、デビュー・アルバム『ザ・ファミリー・ジュエルズ』をリリースした。リアム・ハウ(元スニーカー・ピンプス)、パスカル・ガブリエルといった人気プロデューサー陣を迎えて制作された、注目作だ。独学で会得したという、彼女のユニークな作曲センス、エモーショナルでエキセントリックなボーカルを引き立たせるべく、楽曲の世界観ごとに異なるサウンドを取り入れていったという本作。その内容は、エレクトロ・ポップ、フォーク、ニューウェイブ、ロック、弾き語りのバラードなどが一体となった、カラフルなものとなっている。

シングル曲「Mowgli’s Road」「Hollywood」を筆頭に、マリーナの非凡なポップ・センスを楽しめる『ザ・ファミリー・ジュエルズ』。本作の内容ついて、プロモーション来日を果たしたマリーナに、対面で話を聞いた。


――19歳の時に音楽活動を始めたそうですが、スタートは比較的遅い方ですよね。本格的に音楽をやろうと思ったきっかけは何だったんですか?

「実は、15歳の頃から“音楽をやりたい”っていう願望は持っていたのよ。誰にも告白したことがなかったから、私のだけの秘密事項だったけど。で、19歳の時、特に何かがあったわけじゃないんだけど、内なる自分の声を聞いたのよ。“あなたは絶対に音楽をやるべきだ”、というね。それで、その直感に従って、音楽の世界に入ることにしたの。今は、音楽を始めて本当に良かったと思っているわ。音楽をつくることに喜びを感じているし、曲をつくっている時って、本当に満たされた気持ちになる」

――正しく啓示を受けたんですね。ボーカルやピアノの練習は、そこから始めたんですか?

「そうね。19歳まで、歌ったり、楽器の演奏をしたことはなかったわ。もちろん、子供が歌って遊ぶ程度のことはしていたけど(笑)。で、キーボードを買うお金しか持っていなかったから、それを買って、独学でやり始めたの。だから、本当に自然の流れに身を任せるまま、ここまできたって感じよ。私は、鍵盤を叩いて、“この音っていいな”って感じて、耳で音を拾いながら音楽をつくっていくから、音楽的知識なんてなくても問題なかったのよ(笑)」

――ちなみに、子供の頃はどんな音楽が好きだったんですか。

「本当に子供の頃は、ラジオから流れてくる音楽をただ聴いていただけだったわ。私の父親はギリシャ出身だから、ギリシャの伝統音楽だとか、ルーマニアやロシアの音楽も聴いていたわね」

――なるほど。でも、そう言われてみると、あなたの音楽には、どことなくそういったフォークロア・ミュージックのテイストがありますね。

「ザッツ・ナイス! そうだといいわ(笑)」

――で、あなたは、マリーナ・アンド・ザ・ダイアモンズとしてデビューを果たしましたが、このアーティスト名には、どのような意味が込められているんですか?

「音楽活動を始めた当初、私のファンなんてもちろん誰もいなかったから、想像上のファンをつくることにしようと思って、それを“ザ・ダイアモンズ”という言葉で表現したの。で、実際にファンがつくようになった時、彼らと一緒に何かをつくり上げたいって思ったから、このアーティスト名にしたのよ。私は、ファンとのコミュニティー意識を大切にしていきたいと思っているの。日本のファンは、ジャパン+ダイアモンズで、“ザ・ジャイアモンズ”ね(笑)」

――いいですね(笑)。では、アルバム『ザ・ファミリー・ジュエルズ』について教えてください。まず、本作のテーマは何でしたか?

「このアルバムは、私がどのようにしてここまできたのかということを記録した、言わばドキュメンタリーのような作品だと思うわ。そして、“成功とは何か”、ということを提示する内容にもなっていると思う。私がかつて考えていた成功と、今考えている成功って、全く違うものなのよ。今は、成功とはお金や名声のことじゃなくて、良心ある人間になれたかどうかってことだと思っているの。このアルバムを通じて、私のそういった気持ちの変化がみんなに伝わると嬉しいわ」

――『ザ・ファミリー・ジュエルズ』は、あなたがこれまでに感じてきた気持ちや、その変化を凝縮した作品なんですね。サウンド面では、シンセ・ポップからアコースティックなものまで、幅広いサウンドを展開していますね。それらは、楽曲の世界観に合わせて、それぞれ考えていったんですか?

「その通り。このアルバムには、様々なジャンルのサウンドが入っているけど、それは、人間のあらゆる感情を音で表現したかったからよ。私もみんなも、自分の中に何人もの人格、感情を持っていると思うんだけど、それを自分の曲で表現しようと思ったら、こうなったの。レコーディング作業って、音楽活動の中で最もフラストレーションの溜まる仕事かもしれないって思ったけど、その過程で自分の頭の中にあるフィーリングをどう表現していけばいいのか、ということを学べて、とても面白かったわ」

――曲づくり自体は、日々キーボードに向かって、行っていったんですか?

「毎日曲づくりをするってことはなかったわね。メロディーのアイディアが私のもとにやってくるタイミングって、不規則だから。でも、歌詞に関しては違ったわ。私は、いつもノートを二冊持ち歩いていて、気付いたことがあったら書き留めるようにしているの。だから私の曲づくりでは、音よりもまず言葉、メッセージの方を重要視しているって言えると思う」

――なるほど。

「「Mowgli’s Road」は、完成するまでに二ヶ月くらいかかったと思う。“妥協をしてしまうのは、本当に簡単なことだ”っていう歌詞の内容が上手く伝わるように、何度も書き直したから。でも、「Obsessions」は、10分くらいでできたわね。これほど短い時間でできた曲って、なかったわ(笑)」

――セカンド・シングルの「Hollywood」は、どのようにして誕生した曲ですか?

「この曲は、“美しさとはこういうものだ、成功とはこういうものだ”って、無意味なライフスタイルを押しつけてくる風潮に、異議を唱えた曲ね。ステイタスを得るためのサークルに入らないと、みんな負け犬になってしまうなんて、おかしいでしょう? だから、別にアメリカ自体のことを批判した曲じゃないわよ」

――分かりました。では、今後の活動目標を教えてください。

「早くセカンド・アルバムをつくりたいわね。刺激的で、聴くと考えさせられるような作品にしたいわ。あと、次のPVをつくることも楽しみかな。PV撮影って長時間かかるから大変だけど、私、大好きなのよ」

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