16歳でDJ活動をスタートし、数々のパーティーでプレイ経験を重ね、キャリアを培ってきた、若手筆頭ハウスDJ、YUMMY。2007年からは、<HOUSE NATION>の初代レジデントDJをつとめ、日本各地のクラウドを魅了してきたほか、<cloudland>や<DONUTZ>といったクラブ・パーティーのオーガナイズや、巨大ファッション・イベント<Girls Award 2010>の総合音楽ディレクションを手がけ、多方面で躍進を見せているホープだ。卓越したスキルとフロアの空気を読み取るセンス、豊富な音楽知識に裏づけされた柔軟な選曲は出色で、昨今急増している女性DJの中でも、他とは一線を画す存在感を放っている。2009年に、『HOUSE NATION』シリーズのサブ・ラインとしてリリースしたオフィシャル・ミックスCD、『HOUSE NATION Conductor – YUMMY』では、UKのエレクトロ・アイコン、ルチアーナをフィーチャーしたオリジナル曲、「Sparkle Love」を発表。同楽曲がアンセム化しているほか、Makotraxとのユニット、The signal名義でも、フロア・フレンドリーなオリジナル・トラックをワールドワイド・リリースし、高い評価を獲得している。
そんなYUMMYがこのたび、初のオリジナル・アルバム、『D.I.S.K.(ダイスキ)』を完成させた。彼女が、これまでの音楽活動を通じて描いてきた軌跡と、そこで出会った人たちとの関わりが凝縮された本作。そこには、LISA、Ami Suzuki、Ryohei、SHANADOOといった、ポップ・フィールドで活躍するシンガーや、ヒップホップ・シーンでドープなビートを響かせているEccy、コスプレ&アニソンDJとして、カルト的人気となっているSaolilith、国内きっての実力派ハウス・ディーヴァ、Tomomi Ukumoriなど、多彩なゲストと共にYUMMYが紡ぎ上げた、ポジティヴなヴァイブスが詰まっている。また、作詞作曲やトラック制作のみならず、アートワークのイメージづくりや、ブックレットのデザイン / グラフィック制作までを、YUMMYが自ら手がけているので、彼女のクリエイティヴィティーを様々な角度から楽しむこともできるだろう。それに加え、スティーヴィー・ホアンやMiChi、Sakura & Co.のオリジナル曲をYUMMYが再構築した、リミックス・トラックがボーナス収録されている点も注目だ。
24歳にしてDJ活動歴8年を誇り、『D.I.S.K.』では、アーティストとして次なるフェイズへと羽ばたいたYUMMY。彼女のバックグラウンドと、アルバムの制作風景について、本人にロング・インタビューで語ってもらった。
【独学でスタートさせた、DJの道】
ーーYUMMYさんは、LOUDではもうおなじみの存在ですけれど、これまでの歩みをひも解く話って、実はまだ紹介していなかったですよね?
「そうですね〜。何から話したらいいですかね?」
ーーまだ24歳とお若いですけど、DJとしてのキャリアはもう8年になるそうですね。
「こんなに長く続けられたことって、人生で他に無いですよ。本当に肌に合っているんだろうなぁ。ダンス・ミュージックとか、ボディー・ミュージックに出合った時の衝撃って、すごく大きかったんですよね。自分の体験って、一番信じられるものじゃないですか。生きていたら、いろんなものが好きになるし、気持ちが移っちゃったりもするけど、やっぱり原点に戻ってくるものだからね。DJしている時が一番楽しい」
ーーたしかに、そうですね。誰かに教えてもらったものも大事ですけど、自分の目で見たり、肌で感じたものは、間違い無いですからね。
「私はかつて、フロアで踊り倒していたんですけど、その感覚って、すごく特別なものなんですよ。ゴハンを食べたり、眠ることも幸せだけど、ダンスするっていうのも、それに近いよね。人間にとって必要な感覚、快楽というか。最近のクラブって、みんながフロアでガン踊りしているというよりも、ラウンジっぽかったり、社交場っていう意味合いの方が強かったりするよね。それはちょっと寂しいなって思う」
ーークラブの原点にあるものって、“ステキなダンス・ミュージックがかかっていて、体が勝手に動いちゃう、踊っちゃう”っていう感覚ですもんね。
「そうそう! ダンスしてなんぼ、だと思うんですよね。最近私も、レセプションとかでDJさせてもらったり、ダンス・フロアじゃない場所でプレイすることも増えたんですけど、そんな中<DONUTZ>っていうパーティーを毎月自分でやっていたのも、やっぱりみんなが踊っているフロアでDJをするのが一番好きだし、そういう感覚を忘れたくないからなんですよね」
ーーYUMMYさんの根幹にあるのは、“ダンスすること”なんですね。
「フロアの前列にガン踊りしている人がいると、後ろの方にいる人も、つられて踊ったりするじゃないですか。一人か二人ぐらい、フロアのリーダーっぽい人がいたり(笑)。そういう雰囲気って良いよね。遊びに来ていても、DJしていても、すごく重要な存在」
ーーユニティー感とでも言いましょうか(笑)。知らない人とも、フロアで一体になれるのは楽しいですよね。
「“ユニティー”、いい言葉ですね〜」
ーーダンス・ミュージックに衝撃を受けたのって、具体的にどんな場面だったか覚えていますか?
「初めてダンス・ミュージックに触れた場所はクラブだったんですけど、工藤静香とかSMAP(!)とかも、かかっていたんですよ。そういう曲の間に、’80sのディスコやロックとか、当時最先端だったハウスが挟まれていて。カラオケとかでJ-POPを聴くのとは、違うノリが生まれていましたね。あれがグルーヴというものだったのかな?? そういう、フロアで体を動かす快楽を知ったことが衝撃で、本当に楽しかったのを覚えています」
ーーそこからDJを始めたのは、どういう経緯だったんでしょうか?
「フロアで自律的にダンスするという、鮮烈な体験を経て、学園祭とかで、DJをやりたいなと思ったのが始まりでしたね。その時は、自分の周りにDJって全然いなかったんですよ。四つ打ちのパーティーをやっていたクルーにくっついて、いろんな現場を見てはきたんですけど、実際のDJプレイに関しては師匠がいなくて。その頃って、今みたいにDJはたくさんいなかったし、女の子も全然いなかったですね。今は、いろんな人にDJを教えてもらえるかもしれないから、良い時代だと思います。DJ含め、夜のクラブ活動がもっと身近な物になったとも言いますか。DJの縦社会みたいなものも、もっとオープンなものに、広がって来ているなと感じています」
ーーそうですね。DJでプレイする曲も、以前は“自分の欲しいアナログ盤を、ひたすら探して…”という方法でしか入手できなかったですし。そう考えると、DJというものに対する世間の認識は、だいぶ変わってきた気がしますね。
「でも、ダンス・フロアで我を忘れるまで踊り倒した経験のある人って、今は少なそう」
ーークラブに遊びに行くのは、飲みに行くのと同じノリなのかもしれないですね。
「顔見知りに会いに行くとか、普段から会っている仲間と遊びにいく感じなのかな。私の場合は、知らない人ばかりのパーティーで、“昼間の仕事なんて全く興味がないし、どうでもいいけど、この瞬間だけ共有できていればいいや”という人たちの集団に入っていくのが好きだったから(笑)」
ーーあははは(笑)。YUMMYさん自身のDJスタイルは、時と共に変化してきたのでしょうか?
「今と昔では、全然違いますね。DJを始めたばかりの頃は、ディープハウスや、ウワモノがすごく少ないエレクトロ・スタイルでずっとやっていたんだけど、<HOUSE NATION>に参加して現場を経験していくうちに、オーディエンスがどういう場所を求めているのか、どういうノリを求めているのか考えるようになって、その中で最善を尽くすということも考えるようになりましたね。でも今も、昔買ったアナログをセットに組み込んだり、常に自分がこれだ! と思った好きな音楽をかけているという意味では変わらない。自分でも困っちゃうぐらい、好きな音楽の幅が広いから、自分のスタイルを定義するのは難しいですね」
ーーYUMMYさんは、ハウスDJと呼ばれることが多いですよね。それについてはどう思いますか?
「ハウス、便利な言葉ですよね。最近は、四つ打ちのことを“イーブン・キック”って言うんでしょうか? ハウスDJは、イーブン・キックの曲だったら何でもかけられるし、BPMを早くも遅くもできるし、時間帯によっては、ノンビートやレア・グルーヴもプレイできる。私は、自分のことをハウスDJって言ってるけど、人によって、ハウスの解釈って全然違うなと感じます。後付けでもいいし、実際に遊んでいる人達が正しいし、音を捉えるほうの人間が判断するべきだなあと思っています」
ーーなるほど。そんなYUMMYさんのルーツには、何があるのでしょうか?
「UKのDIYカルチャーと、レイヴ・カルチャーですね。政治的なこと以前に、さっき話した“ユニティー”みたいな、音という夢の言語を通じてみんなが一つになる感覚、一つになるための共通した言語っていうのが、レイヴ・カルチャーにはあるんですよ。野外パーティーに行ったり、昔はハード・ハウスを聴いたりしていましたけど、“聴いたこと無い、何コレ!? アガる!”っていう、動物的な感覚に訴えるヴァイヴスやサプライズを常に提供したいし、変な言葉ですけれど、カッコつけることが目的じゃなくて、アホになれる音が好きなんですよね(笑)。その後、ダークでシリアスな方向にいったりもしたけど、レイヴ・カルチャーが持つ“みんなに与え合う感じ”が、自分の根っこにあるんです」
【スタイルに縛られず、周りの人への感謝を表現した、初のオリジナル・アルバム】
ーーDJ / クリエイターとして、YUMMYさんが目指している理想像ってありますか?
「私自身が、オープン・マインドな考え方や、どんな人が来てもウェルカムっていう懐の深さを、クラブやDJには求めているから、自分もそういう風になりたいな。『D.I.S.K.』はダイスキって読むんですけれど、まさに、パーティーという場所においては、人間好きでいたいし、ブースに入る前には“(フロアの)みんな、だいすきだいすき!”って、心の中で3回唱えています。信じてもらえ無いのですが、私はもともと、極度に人見知りでシャイなんです。パーソナリティーを人にさらしていくのは怖いことだけど、人前に立つ仕事をしていく限り、真剣に向き合っていかなきゃいけないことだと思うし。そんなパーソナルな部分をさらけ出した結果として生まれた、出会いや音楽への考え方が、初のアルバム『D.I.S.K.』には詰まっているんです」
ーーそれは、アルバムで作詞を自ら手がけたという点にも表れていますね。
「DJって、“他人の曲をかけているだけ”って思われている部分もあるだろうし、自分のDJは表現行為ではなかったんです。芸術的なDJプレイをしている人もいますけど、私はどちらかと言うと、エンターテイナーの視点でやっていて。だからアルバムを制作したことは、表現者としての自分を表に出せる絶好の機会だったんですよね」
ーーYUMMYさんは、東京藝大でアートを専門的に学んできた経歴もあるので、芸術表現には長けているイメージがあるのですが。
「表現者としての訓練をしてきたからこそ、簡単に“自分の表現”って口で言うことは、はばかられていました。“ここまでは表現だけど、ここからはエンターテインメント”とか、アートとそうでないものの線引きが、私の中ではハッキリしているんです。その基準が明確にあるから、自分のことをアーティストとは呼びたくありませんでした」
ーー『D.I.S.K.』は、YUMMYさんが描くアーティスト像に、自分自身を近づけていくプロセスの一部と言えるのでしょうか?
「それもあるし、これからもっと、そういうことを音楽でやっていけたらと思っていますよ。でも難しいですよね…DJって面白いし、いろんな音楽を何でも取り込めるから。続ければ続けるほど、深い世界だと思っています」
ーーYUMMYさんにとって、DJと音楽制作は別モノという位置付けなんですか?
「別ですね。だけど、DJをしていて“こんな曲があったらいいな”って思ったのを制作に生かすことは、もちろんありますよ。それを形にするのは、すごく大変ですけれど(笑)。DJは、乱暴な言い方ですが、元々ある曲を自分の文脈に取り込むべく、エディットをするような感覚の作業だから、制作と近い位置付けのものだと思うし。DJ活動は、楽曲制作に挑戦する大きな動機になっていますね」
ーー2009年に、ミックスCD『HOUSE NATION Conductor – YUMMY』をリリースした時のインタビューでは、“楽曲制作には、実は学生時代からトライしていた”と話していましたよね。
「学生の時にやっていたのと同じアプローチで曲をつくり続けていたら、自分の内側は、もっとまがまがしいものになっていたと思います。でも、人との良い出会いから生まれた、自分と周りの人との関係性も含めて作品にするっていう考え方が、自分には合っているなと感じたんですよね。ここ2年間でいろんな出来事があって、周りの環境も変わったし、自分の身近に、歌い手さんや楽器のプレイヤーとか、アーティストがすごく増えたんです。『D.I.S.K.』は、そういう今の自分がいる場所を、記録として残すアルバムにしたかったんですよ」
ーーそう話す通り、アルバムには、YUMMYさんゆかりのアーティスト / シンガーが多数参加していますよね。
「あとは、私がレイヴ・シーンにいた時代からの知り合いと、一緒につくったトラックもあるんですよ。『D.I.S.K.』は、そういう昔からの人間関係が、全部まとまった一枚なんです。自分って一人で生きているわけじゃないし、いろんな人との助け合いがあって今の私がいるから、それを形にして見せられたらいいなと思ったんです。ファースト・アルバムだし、一人で根を詰めてつくった、生みの苦しみを表したものじゃなくて、楽しさを共有し合いながらやっているものなんだっていう事実を、伝えたかったんですよね」
ーーなるほど。トラックに関しては、四つ打ちを軸としつつも、エレクトロ・テイストのものや、プログレッシヴ・ハウス調のものなど、様々なものが収録されていますね。
「エレクトロとかプログレッシヴ・ハウスっぽい要素は、結果として付いてきたもので、最初からジャンルを意識してつくった曲は無いんですよね。例えば、「鳥の詩」に参加しているSaolilithとは、<DENPA!!!>に出た時から仲良くなったんだけど、彼女の、ジャンルを壁にしない姿勢が大好きというか、お互い予想以上に話が合って。そこから“一緒に何かつくりたいよね”って盛り上がって、あの楽曲が生まれたんですよ。そういう、出会いありきで曲のイメージがふくらんでいったんです。だから、このアルバムに収録されている楽曲は、“自分のDJセットに、こういう音が欲しいな”っていう目線でつくったものばかりじゃないんです」
ーースタイルに縛られない柔軟性は、YUMMYさんの魅力だと思いますよ〜。あとは、Eccyさんとのコラボレート曲も新鮮でした。彼とは、以前から交流があるんですよね?
「結構前から知り合いなんですけれど、彼が四つ打ちの別名義をやってると聞いて、私のイベント<DONUTZ>に出てもらったんです。そこから、“一緒に曲をやろうよ”って言ったら、二つ返事でOKしてくれて。Eccyくんはホントにダンス・ミュージックが大好きで、UKファンキーやダブステップ周りの音を、すごく掘っているDJなんです。自分自身の世界を広げてもらったし、彼も自分のイメージをどんどん更新していくタイプの人だから、私とも気軽にコラボレートしてくれたのかもしれないですね」
ーーところで、本作ではシステムFのカバーも披露していますが、“「Cry」をチョイスするのは、YUMMYさんらしいよね”と、編集部で話題でした(笑)。
「「Cry」にはすごい思い入れがあって、私の中でトランスとハウスをつないだ曲なんですよね。ジュニア・ヴァスケスって、どハウスのDJだけど、BPMを落としてフェリー・コーステンの曲をかけていたんですよ。私が昔から好きなのって、そういう感覚なんですよね。ジャンルには、こだわりたくないんです。でも私の場合、どこかレイヴィーな要素が自然と出ちゃうからね。自分のスタイルは、そういうものなんだなって実感しました」
ーー『D.I.S.K.』のリリースをステップに、ご自身の音楽活動をどう発展させていきたいですか?
「日本語詞のハウスをつくったけど、それは必ずしも日本国内だけを意識したものじゃないんです。今後は日本だけじゃない、もっと広い場所に向けて、制作をしていきます。リリースや制作を続けながら、自分のキャラクターを確立したいなとも思う。あとは、このアルバムを聴いて私に興味を持ってくれた人が、ダンス・フロアに一人でも多く来てくれるのが理想です。DJとしてのやりがいは、アルバムをリリースしてから始まると思うから、それを感じられるようになるのが楽しみですね」
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