UNDERWORLD ライブで鍛え上げた曲をコラボレートでパワーアップさせ、ついに完成させたニュー・アルバム

「Born Slippy」「Rez」「King of Snake」「Moaner」「Two Months Off」といった名曲/人気曲を世に送り出し、世界屈指のダンス・アクトとして活躍する、カール・ハイドとリック・スミスの二人組、アンダーワールド。卓越したライブ・パフォーマンスの人気は絶大で、ここ日本でもフジロック、エレクトラグライド、オブリヴィオン・ボールといったビッグ・フェスで、ヘッドライナーの座を務めてきた。
そんな彼らが、前作『OBLIVION with Bells』(’07)以来となる、待望のオリジナル・ニュー・アルバム『バーキング(Barking)』を9月2日にリリースする。マーク・ナイト&D・ラミレス、ダブファイア、ポール・ヴァン・ダイク、ハイ・コントラスト、アップルブリム&アル・トゥレットという、クラブ・ミュージック・シーンの人気/注目プロデューサーとのコラボレート曲を中心とする、従来とは全く異なるアプローチで制作された意欲作だ。注目のそのサウンドは、ハイ・コントラストが参加した「Scribble」や、すでにUKでは話題となっている「Always Loved A Film」を筆頭に、ライブ・パフォーマンスやダンス・フロアの熱狂を、ダイレクトに音に反映させたもの。カールのボーカルもこれまで以上にフィーチャーされ、新しいアンダーワールドの魅力を感じさせてくれる。
開放感に満ちた、新機軸の収録曲でいっぱいの『バーキング』。本作の内容について、6月にプロモーション来日を果たしたカール・ハイドに話を聞いた。

【ライブとダンス・フロアに根ざしたアルバム】

―ニューアルバム『バーキング』の完成おめでとうございます。今作は、前作から3年ぶりとなりますが、現在の心境はいかがですか?

「日本に来て…ちょっと疲れているよ(笑)。今回、時差ボケはないんだけどね。それはともかく、オーストラリアでツアーをして、新しいライブセットを試してきたんだよ。新作からの曲を中心にしたセットだったんだけど、ライブ映えする曲ばかりだから、すごく手応えを感じたね。まあそれは当然で、この新作に入っている曲のほとんどは、前作『OBLIVION with Bells』を出した後、3年間世界各国をツアーしてきて、そのライブの中で実際にプレイをして、お客さんのリアクションをみながらアレコレとつくりあげていった曲ばかりなんだ」

―なるほど。

「こういう作曲スタイルは、かつてダレン・エマーソンがいた時に、リックがスタジオでつくった曲をダブプレートにして、それをダレンがDJでプレイして、お客さんの反応を直接見ながら曲を完成させていくという、自分達がかつてやってきたことと同じものだった。曲を早い段階のうちにライブで試して、みんなの反応を曲に取り入れいくというスタイルだね。この新作は、要するにそうやってできたアルバムだよ」

―『OBLIVION with Bells』は、今ふり返ってみると、あなた達にとってどんなアルバムでしたか?

「前作は、とても内省的な作品だったと思う。あのアルバムの前に、映画のサウンドトラックの仕事を二本やったということが、すごく反映された作品だった。僕らの作品は常に、そのときの自分達を素直に表現したものになっているんだよ。前作は、映画の編集室でシーンをみながら緻密に音楽をつくっていた時の作業光景が、そのまま入っている作品なんだ。だから、ある種とてもパーソナルな作品だし、ダンス・フロアから遠い部屋でつくった作品だったと言えるだろうね」

―では、今作がダンス・フロアに近い場所でつくられた内容になったのは、前作の反動だと言えますか?

「うん、当然の流れだったと思うね。前作を出した後、3年間ライブをしていく中で、『OBLIVION with Bells』には、ライブでプレイできる曲があんまりないな、って感じていたからね。だから、もっとフロアに根ざした、みんなで祝福できるような高揚感のある曲をやりたいって思うようになっていったんだ。この新作は、自分達がオーディエンスと一緒に盛り上がる喜びというものへの、強い欲求から生まれた作品さ」

【リミックスから発展したコラボレーション】

―今作は、従来作とは異なり、外部プロデューサー陣とのコラボレーションを軸にした作品となっていますね。このアイディアは、どこから生まれてきたものなんですか?

「僕らは、もともといろんな人達にリミックスをやってもらっているだろう? で、そのリミックスしてもらった自分達の曲を聴いてみると、すごく良いものが多いんだ。だから、そういったリミキサー達と、もっと深く曲について追求してみたいという気持ちを、以前から抱いていたのさ。でも、リミックスの場合は、リミックスをしたらそこで仕事は終了してしまうし、リミックスしてもらった曲をアルバムに収録することもできないよね。そこにもどかしさがあったんだ」

―確かにそうですね。

「だから、この新作では、アルバムを制作する前の段階から、そういったリミキサーの人達と制作のキャッチボールをしながら、一緒に曲を仕上げていきたかったんだ。そういう作業は、リックも何年も前からやりたがっていてね。今回は、それが実現できた。もっとも、僕らは、ブライアン・イーノと一緒に「Beebop Hurry」を手がけたり(編注:ザ・ミステロンズ=スティーヴ・ホール&ダレン・プライスとの共作コンピレーション・アルバム『ATHENS』(’09)収録曲。スティーヴ・ホールは、JBOの責任者としても知られる人物)、マーク・ナイト&D・ラミレスと一緒に「Downpipe」(’09)を手がけたりしてきたから、共作自体は珍しいことじゃないんだ。前作にも、外部の人を入れてつくった曲はあったから」

―では、コラボレート相手は、どのように選んでいったんですか?

「例えば「Scribble」は、もともと「You Do Scribble」というタイトルで、ライブではかなり以前からプレイしていた、ドラムンベースっぽいインスト曲だったんだ。でもリックは、“この曲をもっと若手のドラムンベース・プロデューサーに渡して、さらに曲を突き詰めてみたらどうなるんだろう?”って思ったみたいで、何年も前から注目していたハイ・コントラスト(リンカーン・バレット)に、コラボレートをお願いしてみることにした。そうしたら、彼も喜んで引き受けてくれたよ。マーク・ナイト&D・ラミレスに関しては、「Downpipe」を一緒にやったことが縁で、“また何か一緒にやろう”って話をしていたんだ。それで今回、「Always Loved A Film」と「Between Stars」の2曲をお願いしたよ」

―ダブファイア、ポール・ヴァン・ダイク、アップルブリム(スカル・ディスコ)&アル・トゥレットに関しては、いかがですか?

「ダブファイアとポール・ヴァン・ダイクは、スティーヴ(・ホール)が提案してくれたコラボレーターだったね。アップルブリムとは、以前にやった僕らのツアーでオープニング・アクトをやってくれたつながりがあって、僕らは彼がスカル・ディスコでやっていたことも好きだったから、お願いしてみた。基本的に、自分達の好きな音楽性を持った人達に、声をかけたんだ。そして、驚いたことに、みんな“イエス”と返事をしてくれた。特にポール・ヴァン・ダイクに関しては、声はかけてみたものの、どうせ忙しいから無理だろうって、半ばあきらめていたんだけど、“やるよ”って言ってくれてね。こういうアルバムをやってみて、とても良かった」

【自分達の世界が広がった制作作業】

―コラボレート作品にするという今作のコンセプトは、リックが決めたことだったんですね。

「アンダーワールドのプロデューサーはリックだからね。この新作の方向性も、リックが最終的に判断して決めたんだ。あと、今回リックは、ダニー・ボイル監督による『サンシャイン 2057』(’06)のサウンドトラックを手がけた時のような感じで制作を進めていきたい、とも言っていた。それはどういうことかというと、リックと僕が対等な立場で音楽に携わるということだね。だから、リックが曲の全てをまとめていくのではなく、僕も部分的に曲をまとめていったんだ。“ここの部分はこういう風にやるから、僕に任せて”って感じでね。要するに、リックが責任を一人で抱え込まないように、お互いが旗ふり役になって、交互に曲づくりを進めていったんだ」

―なるほど。

「実は『サンシャイン 2057』のサウンドトラックを手がけた時って、音楽をつくる前の段階で、結構口論になったんだ。お互いに意見が合わなくてね。それで、その時は、ある物事に対して自分はこう考えたということを、お互いに説明していくことで、意見の食い違いを解決していった。で、この新作では、そうやって意見をぶつけ合いながら作業していくことをやってみようって、リックは提案したんだ。お互いに意見を出し合いながらファイルを交換したり、作業を進めていくのって、やっぱりやっていてすごく楽しいんだよね。まぁ、そうは言っても、最後の仕上げはリックがやるんだけど(笑)」

―では、各曲のコラボレーターとは、具体的にはどういうやり取りをしていったんですか?

「まず、どの曲を誰にやってもらうか、といったことに関しては、スティーヴの意見を参考にしたよ。「Scribble」をやってくれたハイ・コントラストと、僕らのスタジオに来てやりたい曲を選んだマーク・ナイトの2組は、違ったけどね。で、その後のやり取りは、本当にリミックスをしてもらうような感じで進めていったんだ。僕らがつくった曲のデータを彼らに送って、それを彼らがつくり変えて戻してきて、今度は僕らがそれを聴いて、“いいねぇ。ただ、ここの部分はこうした方がいいんじゃないか?”って感じで、自分達のアイディアをさらに追加して戻すってやり方だった。ボーカルを入れてみたり、ビートを入れ変えてみたり、彼らが省いた要素をちょっと足し直してみたりしたな。で、それを彼らがさらにつくり変える。そういうやり取りを常に行いながら、曲を仕上げていったんだ。本当にキャッチボールみたいだった。でも、ポール・ヴァン・ダイクだけは、ずっと音沙汰がなかったよ(笑)。制作の終盤になって、“まだ間に合う?”ってやっと連絡がきたから、急いで2〜3回やり取りをして、曲を仕上げたんだ。「Diamond Jigsaw」は、そうやってできた曲だった」

―今回やり取りをしたコラボレーターの中で、一番興味深かったアーティストは誰でしたか?

「リック・スミスだね(笑)。30年も一緒にやってきたけど、彼を超えるコラボ相手なんて、いないよ」

―ですよね(笑)。ちなみに、今作の前に「Downpipe」でも一緒にコラボレートしているマーク・ナイトとは、近年かなり仲がいいんですか?

「マーク・ナイトとは、前作の「Beautiful Burnout」をリミックスしてもらった時に知り合ったんだけど、「Downpipe」の時は、彼の方から“自分達の曲で歌ってもらえないか?”って連絡をくれたんだ。最初は、“え?”って感じだったね。アンダーワールドじゃないダンス・トラックで、僕が歌を歌うことには、ちょっと違和感があったから。でも、リックが“大丈夫? できる?”なんて、逆に気をつかってくれて(笑)、“いやいや。曲を聴けば、それなりにちゃんとできるよ”ということで、トラックを持ち帰って、歌を入れて送り返したんだ。「Downpipe」は、自分達のライブでも披露しているんだけど、なかなかいい感じだよ。あれは、やって良かったね」

―「Downpipe」をやったことが、今作のアイディアにつながったということは、ありませんでしたか?

「“アンダーワールドを代表してちょっとやってくるよ”って感じで、外部の人と仕事をしたことが、自分達の世界を少し広げる契機になったのは確かだと思う。ジョン・ピールや自分達がやってきたラジオ番組と同じような感覚で、他の世界とクロスオーバーできるのは面白かったね。この新作で、外部の人とたくさん仕事をしてみて、リックと僕の関係は、結果的により強固なものになったと思う。これまでは、リックと僕の関係性をまず心配していたようなところがあったし、外部の人とコラボレートをしても、どうも上手くいかない部分があったんだけど、今回は違った。どのコラボレーションも上手くいった。おそらく、そういうタイミングだったんだろうね」

【新しいバンドに入った気分】

―今作のアルバム・タイトルである“バーキング”(barking:ほえる/どなる)という言葉には、どんな意味合いを込めているんですか?

「このタイトルは、アートワークをやっているジョン・ワーウィッカーが提案してくれたものなんだ。“バーキング”って言葉を聞いた瞬間、特に理由はないんだけど、“最高!”って感じたよ。僕らが拠点にしている英エセックス州に、バーキングって町があって、そこはかなり荒んだ地域なんだけど、歌詞を書く時にすごくインスピレーションを与えてくれる、味のある所なんだ。だからこのタイトルには、そういった僕らの地元に対する愛情も込められているよ。あと、この新作には、犬を引用した歌詞が結構あるから、“吠える”というところでも、何かピンとくるものがあってね。さらに、この言葉には、“イカれている”という意味合いもあったりするんだ」

―“バーキング”という言葉には、外の世界や新しい世界に向かっていくイメージもありますね。

「そう、そうなんだ。この新作のアートワークは、すごく色鮮やかなものになっているんだけど、これにはかなりこだわったよ。ジョンに、“とにかく元気な雰囲気にしてみて”ってリクエストしてね。今回は、これまでのアンダーワールドが展開してきたアートっぽいイメージはあえて忘れて、外向きでキャッチーなビジュアルにしたかったんだ。で、結果的にこのアートワークが完成した。気に入っているよ」

―ロゴマークも変えましたが、これには“アンダーワールドMK3”の時代が始まったという意味合いもあるんですか?

「そうだね。そういう雰囲気は、確かにあると思う。僕もそう感じている部分があるよ。新たなライブ・ツアーのリハーサルをやっていると、新しいバンドに入ったような気分になるんだ。リックもいるし、馴染みのスタッフも大勢いるんだけど、リハーサルをしていると、なんか新鮮な気持ちになるよ」

―最新シングルは、どの曲になる予定ですか?

「まず、「Scribble」を先行無料配信したのは、僕らにとってすごく大事なことだったと思っているんだ。“アンダーワールドが戻ってきたよ”ってみんなに知らせるのは、やっぱりすごく意味があることだからね。で、アルバムのリリースと同時に次のシングルを発表すると思うんだけど、どの曲にするかは、まだ決まってないな。アルバムをリリースした後、日本には10月にライブで戻ってくる予定だから、楽しみにしていてほしいね。今回は、幕張メッセのような大きな会場ではなく、もうすこし小規模な会場で数公演やる予定なんだ」

―どうしてですか?

「オーディエンスと近い位置でライブをすると、僕らはそのエネルギーの違いにすごく刺激を受けるってことが分かってね。ヨーロッパで、ロック・フェスに出た次の日に、<I Love Techno>や<Cocoon>なんかでライブをすると、本当に刺激的なんだよ。だから、そんな雰囲気のライブを、今回は日本でもやってみたいんだ。あと、僕個人は、8月25日からラフォーレミュージアム原宿でエキシビションも開催するから、よかったらのぞいてみてほしいね。このエキシビション用の音楽は、リックがつくってくれたんだ。初日には僕も顔を出して、ライブ・ペインティングを行う予定になっているよ」

interview & text Fuminori Taniue
translation Yuriko Banno

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MEG『PASSPORT / PARIS』インタビュー

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モデル、ファッション・デザイナーの顔を持ち、マルチな才能を開花させているポップ・シンガー、MEG。彼女が、最新アルバム『MAVERICK』から2ヶ月ぶりに、早くもニュー・シングル『PASSPORT / PARIS』を完成させました。MEGにとって、新たなスタートの布石とも呼べる本シングルについて、インタビューで語ってもらいました。どうぞ!

MEG インタビュー

MEG 新たなスタートを予感させる、発展的ニュー・シングル

モデル、ファッション・デザイナーの顔を持つほか、自身のライブやCD作品でもオリジナリティーあふれるアイディアを提示し、マルチな才能を開花させているポップ・シンガー、MEG。’07年に、エレクトロ・ポップ・アイコンとしてブレイクした彼女は、以来そのスタイルを常に更新し、現在はバンドを従えてライブを行うなど、多彩なアプローチを見せている。

そんなMEGが、最新アルバム『MAVERICK』から2ヶ月ぶりに、早くもニュー・シングル『PASSPORT / PARIS』を完成させた。今回も、中田ヤスタカ(capsule)を楽曲プロデューサーに迎えた本作。制作に臨んだ心境を、MEGはこう話す。

「『MAVERICK』を制作した後、ヨーロッパに一人旅に行ってきたら、わりと考えがまとまって、チャレンジしてみたいことが出てきて。そこからシングルの制作に入ったので、新たなスタートという気持ちでつくれました。作品の意味合いとしてのまとまりは、ここ最近には無かったぐらい、充実したものになりました」

『PASSPORT / PARIS』という、旅をイメージしたタイトルが付けられたこのシングル。そのインスピレーション源とは、一体何だったのだろうか。

「中田くんから最初にデモが届いた時に、滑走路とか、飛行機みたいな絵が浮かんだんです。それが、自分の境遇にぴったり合った気がしました。今秋のベスト盤で、今のレーベルを卒業するんですけど、そこでつくってきたものも、海外にもルーツとしてまた持って行きたいと思っているんです。そんな、“終わりのように見えるけど、旅立ち”というのが、このシングルのテーマですね」

1曲目の「PASSPORT」は、普遍的な魅力が詰まった、爽快なエレクトロ・ポップ・チューン。MEGらしい、キュートな歌詞が印象的だ。一方、2曲目の「PARIS」は、裏打ちのリズムと、アンニュイなメロディー&コード進行を用いた、ユニークなトラック。こちらでは、フランスの地名を並べたリリックが異彩を放っている。

「「PASSPORT」の歌詞には、これまで3年間ににつくったCDの、全作品のタイトルを入れてあります。そういう点では、ひと区切りという意味合いもある曲です。新しい場所へ行くための、身分証明書のような感じです。「PARIS」は、仮歌がアラビア語みたいだったんですよ(笑)。だから、日本語も英語も合わなくて。フランス語が意外とハマる箇所があったから、歌詞ではフランスの地名を並べてみたんです。個人的にも、フランスはすごく好きなのでイメージしつつも」

なお本作には、中田ヤスタカ(capsule)が手がけたリミックス、「PARIS T12X-mix」も収録されている。こちらは、オリジナルとはガラッと異なる、ハウシーなフロア向けチューンだ。

『PASSPORT / PARIS』を布石に、新たな道を志すMEG。そのポジティヴな思いを、最後にこう語ってくれた。

「音楽以外に、来年はやってみたいこともあるし。来年は10周年だし、もっと自由になって、いろんなことにチャレンジできるといいなと思っています」

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石野卓球 インタビュー

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電気グルーヴのメンバーで、日本を代表するテクノDJとしても知られる石野卓球。彼が、ソロ名義では実に6年ぶりとなる新作ミニ・アルバム、『CRUISE』をリリースしました。ほぼ毎週のように、日本各地のクラブやフェスでDJを行っている石野卓球の、テクノ / DJという側面にフォーカスしたダンストラックがつまった本作。その誕生背景を探るべく、ロング・インタビューを行いました!

石野卓球 インタビュー

JAMAICA インタビュー

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Antoine Hillaire(アントワン・ヒレール/元Poney Poney)とFlo Lyonnet(フロー・リオネ)の二名からなる、パリ出身のインディー・ロック・バンド、JAMAICA。先日で来日を果たした彼らが、8月18日にデビュー・アルバム『No Problem』をリリースします(デジタル・アルバムは発売中)。高校時代、メンバーのAntoineと一緒にバンド活動をしていたことがあるという、JusticeのXavier De Rosnayをプロデューサーに招き、制作した本作。その内容は、キャッチーでロッキンでアップテンポな、めるくめく3分間ポップの世界を凝縮したものとなっています。

そんなアルバム『No Problem』の内容と、JAMAICAの音楽性について、Antoineに話を聞きました。

――まずは、あなた達がJAMAICAを結成した経緯について教えてください。

「僕ら二人が知り合ったのは、それぞれの元カノが友達同士だったからなんだ。初対面の印象はお互いサイアクだったんだけど、次に会った時には、気づいたらいろんなことを夢中で話し合っていて、あっという間に時間が過ぎていったよ。で、自分の家の地下で音楽制作をしていたFloは、僕をボーカルに誘ってくれた。その頃、僕は別プロジェクトのPoney Poneyをやってたんだけど、ドラマーが抜けた時に新しい名前でバンドを続けたいとも考えていたから、これを機にFloと本格的なバンドをやろうと決めて、彼とJAMAICAを始めることにしたんだ」

――JAMAICAというバンド名にした理由は、何ですか?

「このバンド名は、ジャマイカという“場所”自体を指しているわけじゃないよ。 Boston、America、Japan、Chicagoのような、国名や土地名を使ったバンドへのトリビュートにしたくて、選んだ名前なんだ。それに、“ジャマイカ”って、Nirvanaと、Madonnaと、Jamiroquaiと、Oasisをパーフェクトにミックスした言葉の響きに聞こえるだろ?」

――なるほど。では、JAMAICAを結成した当初の、バンドの音楽的なコンセプトはどのようなものでしたか?

「はっきりとしたコンセプトはなかったね。たまたま僕が、ポップでギター中心の、わりとアップ・テンポな3分間ソングばかりを書いていたってだけのことさ。で、僕は、歌っている時にあまり複雑なギターを弾けないから、メロディー・ラインの大部分をFloのベースに委ねているんだ。JAMAICAのベーシックな音楽的要素は、それくらいかな」

――ちなみに、あなた達が影響を受けたバンドやミュージシャンには、どんな人達がいるのでしょうか?

「JAMAICAの音楽的影響には、様々なレイヤーがあるよ。まず第一は、僕らが聴いて育った音楽だね。僕の方は、NirvanaとかThe Beatles。Floの方は、PanteraとThe Beastie Boysが、初めて衝撃をうけた音楽だったらしい。で、その後、僕らはThe PoliceやTodd Rundgrenといった、ポップを主体とした音楽にひかれるようになっていったんだ。ヨットポップ(編注:日本では、A.O.R.やアダルト・コンテポラリー、ソフトロックに区分させるようなサウンド/アーティスト群のこと)っていうのかな?

――では、デビュー・アルバム『No Problem』について教えてください。まず、作品のテーマは何でしたか?

「現代的なロック・アルバムをつくりたかったね。若い男性の立場から見た、恋愛関係、友達、仕事をテーマにした歌詞とか、お決まりの、“I love you / Do you love me / I don’t love you / You don’t love me”的なフィーリングを取り入れること以外に、特にコンセプトなんてなかった」

――アルバム・タイトルを“No Problem”とした理由は何ですか?

「分かりやすくて耳ざわりのいいフレーズだから、この言葉をタイトルにしただけなんだ。だから、あまり深い意味はないね」

石野卓球 ジャパニーズ・テクノ・シーンの第一人者が送る6年ぶりの新作は、 フロアを見据えたストレートなダンス・トラック集!

1989年より、電気グルーヴとして活動する一方、日本を代表するテクノDJとしても世界各国を飛び回ってきた石野卓球。これまでにソロ名義で6枚のオリジナル・アルバムと4枚のミックスCDをリリースしているほか、川辺ヒロシとのユニット、InKとしての活動や、国内外のアーティストのプロデュースやリミックス、さらに自身のレギュラー・パーティー<STERNE>、屋内レイヴ<WIRE>のオーガナイズなどで、七面六臂の活躍を見せる重鎮アーティストだ。

そんな彼が、ソロ名義では実に6年ぶりとなる新作ミニ・アルバム『CRUISE』をリリースした。全て四つ打ちのフロア・ライクなダンス・トラック6曲を収録した本作。これまで以上にディープかつミニマルで、タイトなその楽曲群には、DJ活動で培われた石野卓球の現場感覚が存分に発揮されている。

海外のシーンとリンクしつつも、独自に発展する国産テクノ・シーンの最前線を味わうことができる『CRUISE』。その制作背景について、石野卓球に語ってもらった。


【“縛り”のないソロ・アルバム】

ーーここ数年は、DJに加え、InKや電気グルーヴ、プロデュース活動が中心で、ソロ・アルバムは’04年の『TITLE#2+#3』以来6年ぶりとなりますね。このタイミングでミニ・アルバム『CRUISE』をリリースすることになった経緯を教えてください。

「空いた時間に制作作業は進めていたんだけど、他の活動が忙しくて、なかなか形にする機会がなく、ほったらかしになっていたんですよ。で、他の仕事がひと段落したんで、やっと完成させることができました。それに、これ以上時間が空くと、危険だなと思って。“6年ぶり”、“7年ぶり”、“8年ぶり”ってどんどん重くなっていくんで(笑)」

ーー収録曲のアウトラインはできていて、それをここ数カ月で一気に形にしたんですか?

「締め切りは決まっていたんで、そこに向けて制作した感じでしたね。だけど、ソロ作品の制作自体が久々だったから、どういう所に落とし込めばいいのかが、イマイチわからなかったんですよ。ソロって好きなことができるので、他の活動みたいに“縛り”がない分、逆に難しいんですよね。だからどんな作品をつくろうか決まるまで、結構時間がかかりました。あと、Inkにしても電気グルーヴにしても、誰かしらスタジオにいるんで、自分が行かないわけにはいかないんですよね。一人だと、行かなくても良かったりするんで、夏休みの宿題みたいにズレこんじゃいましたね(笑)」

ーーなるほど。気持ちをソロのモードに切り替えるのが大変だったんですね。

「そうですね。あと、自分がDJ用に買ったり聴いたりする楽曲って、相変わらず12インチのシングルがベースなんですよ。それもあって、作品の落とし所にはなおさら悩みましたね。メジャー・レーベルから出る作品ということもあるし。クラブ・ヒットみたいな曲を一曲つくるのも違うし、かといって、フル・アルバムで全体をコンセプチュアルにまとめるものでもないと思ったので」

ーー最終的に、どのような落とし所に着地したんですか?

「今言ったことの中間というか、クラブ・トラックでありつつも、ミックスされて初めてポテンシャルが発揮される、DJツールみたいな曲にならなければいいかなと思いましたね。DJツールとしてつくるなら、もっとそぎ落とすし、CDで出す意味もあまりないと思うんで。とはいえ、最終的には、好きなようにやろうという気持ちに後押しされて完成した感じですね」

ーー本作を制作しながら、方向性を見い出していったんですね。

「方向性が分かってきたのは、制作過程の終盤でしたけどね。腰を上げるまでが大変で、いざ上がってしまえば、あとは感覚的に動いていった方が、目的地に着きやすいんですよね。毎週末DJをやっているし、あとはその感覚をどこに向けて使うのか、っていうことでしたね」

【イメージは、日常の延長にあるショート・クルーズ】

ーー『CRUISE』というタイトルにした理由は何ですか?

「トータルのコンセプトがあってできたアルバムではないので、ビジュアルのイメージがまずあって、そこから喚起されるようなもので、なおかつ内容を邪魔しないものが、このタイトルだったんですよ。熱海に初島という島があるんだけど、港からその島に行く位の距離のクルーズ感というか(笑)。ミニ・アルバムということで。ジャケットの写真も、その船上から撮ったものなんですよ」

ーーショート・トリップ的なイメージなんですね。収録曲も、タイトルを見る限り、意味が分からない言葉というか、記号的なものが多い気がしました。たとえば、4曲目の「Hukkle」とか。

「「Hakkle」は、パールフィ・ジョルジっていう監督が撮った映画で、ハンガリー語で“しゃっくり”っていう意味なんですよ。映画の内容は、おじいさんがしゃっくりをしたことから始まる珍ストーリーみたいな感じなんですけど。この曲では、ヒカシューの巻上さんの声をサンプリングさせていただいたんだけど、その声の感じが、しゃっくりっぽかったんですよ(笑)。裏を明かせば明かすほどバカバカしくなっていくから、すごく恥ずかしいんだけど(笑)」

ーーいやいやいや(笑)。5曲目の「Arek」は、何を意味しているんですか?

「これはね、反対から読むと“kera”で、ケラ(編注: ケラリーノ・サンドロヴィッチ)さんの結婚式に行った日につくったんですよ(笑)」

ーーなるほど(笑)。本作は、謎解きしない方が、先入観なしに聴けそうですね。

「がっかりするでしょ。これを毎回インタビューで言うとなると、ちょっとゾっとするっていうか(笑)」

ーーでは、後はリスナーの想像にゆだねるとして、卓球さんは、何かしらのインスピレーションを元に、楽曲をつくり上げていくタイプですか?

「曲のつくり方として、あるイメージがあって、それを具現化する場合もあるけど、それよりも多いのが、メモみたいなものがあって、それを組み合わせていく中で、だんだんおぼろげなビジョンが見えてきて、そこに向かって仕上げていくというものですね。だから、制作中に出てきたイメージがタイトルになることが多いですね」

ーーイメージがある場合、そのイメージとは、言葉にするとどういったものなんでしょうか?

「ビジュアル・イメージもあれば、クラブでDJをし終わったときにした耳鳴りのスケッチということもあります(笑)。具体的に毎回コレっていうのはないんですけどね。あと、ソロの場合は歌詞がないので、その分、元になるイメージは幅広いか。“あの時のムード”とか、何とも言葉で説明し難いものを音に持っていくことも好きですね」

ーーどこの国のどのクラブとか、何時台のフロアとか、本作の収録曲がかかる背景をイメージしたりはしましたか?

「具体的にどんな場所でかかっているかは、イメージしないですね。不思議なもので、すごく音数が少なくて、一見、密室的で小箱向きのDJツールっぽい曲でも、それが、実はすごく広い会場で機能したりする場合もあるから、それは簡単にはイメージできないんですよね。シンプルであればあるほど、使い勝手が広がったり、意外と化けたりするんですよ。昔だと、ベーシック・チャンネルの9番とか。小箱向きっぽいけど、あの曲で何万人もの観客が、ものすごいことになってるのとか、’90年代によく見ましたしね。逆に、だから、かかる場所を限定してつくることは、なるべくしたくないと思ってますね」

ーーなるほど。ということは、本作ではDJツールになりすぎず、かかる場所やかけるDJによって変化する楽曲、というのを追求したんでしょうか?

「そうですね。でも、それは次の作品で、もうちょっと突き詰めたいなと思っていますね」

【日本のクラブ・シーンに根ざしたサウンド】

ーーサウンド面では、6年前の前作と本作では、曲展開やBPM、音色など、様々な部分が変化していますが、そこはやはり、フロアで流れる音からの影響が大きいのでしょうか?

「6年前とは状況も違うし、それに前作では、そこまでフロアを意識してなかったから、変わった部分はもちろんあると思います。引きで見たら“同じじゃん”と思われるかもしれないけど、現場にいたら、すごく変化しているのを感じるんですよね」

ーー6年でテクノ・シーンのトレンドも、かなり変化しましたよね。

「6年前の、ハードなミニマルみたいなものは、ほとんどなくなってきているし、ミニマルやハウスでもさらに細分化が進んでいるし。単純に、BPMもすごく下がってきてますよね。そういうのは、DJをやっていると、すごく感じるし、自然とそういう曲を選んでいくようになるんですよ」

ーーパーティーに来るお客さんからの要求という部分も大きいんですね。

「あと、シンプルな曲の方がいいという気持ちもあって、ちょっと前までドラムの音色を加工することに時間を割いたりしていたけど、そういうことが無駄だと思うようになってきたんですよ。あと、初期のシカゴ・ハウスやアシッド・ハウスみたいなものが最近好きで、そういうものでは(TR-)909の音がむき出しだったりするんだけど、その方がミックスした時に際立つから、どんどんシンプルなものが好みになってきている感じですね。6年前と違うのはそこだと思いますね」

ーー実際に、細かい展開を取り入れたものよりも、長くじっくり変化していく楽曲が増えた印象なのですが、ヨーロッパのヒプノティックなミニマル~テックハウス・シーンを意識したところはありますか?

「国や場所によって風土や文化が違うから、必ずしもそうとは言えないけど、流れの一つとして意識したことはあるかもしれませんね。それこそ、リカルド・ヴィラロボスみたいな中毒性のある音って好きだし、DJでも使うけど、現場感がないとつくれないし、スタジオで研究してつくる音楽より、もっと感覚的なものですよね」

ーーその手の音は、日本でも人気ですが、確かにヨーロッパと日本とでは、なじみ方が違うように感じます。

「いくらダンス・ミュージックが万国共通とはいえ、土地によって好みは違うし、その違いがまた面白かったりするんですよね。ダンス・ミュージックには、どこの国でもヒット曲が同じっていう、グローバリゼーションの極みみたいな側面があるけど、その中で、この街は本質的にこのテイストが好きだとか、違いも表裏一体としてあるのは面白いですね」

ーー結果的に、本作は、日本のリスナーにすごく刺さる音になっているように思います。

「すごく日本的だと思いますよ。ここ最近は、日本での活動が多かったし、自分の現場にはないものを取り入れて中途半端になるくらいだったら、できることをやった方がいいと途中から思い始めたんですよ」

ーーこの後に、フル・アルバムのリリースを控えているということですが、その作品についても教えてください。

「ぼちぼち制作は始めているんだけど、どんな作品になるかは、まだわからないんですよ。来年の春くらいに出せたらと思っています。その他に、sugiurumnや川辺ヒロシとも何かつくろうという話が出ていたりもします」

ーー次回作も楽しみにしております! 最後に、読者へメッセージをお願いします。

「久しぶりだし、二枚組とか重い感じではないんで、気軽に聴いてみてほしいですね」

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TOWA TEI インタビュー

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20年以上にわたり、第一線でDJ活動を続けるテイ・トウワ。彼が、人気コンピレーション・シリーズの最新作、『MOTIVATION H compiled by DJ TOWA TEI』をリリースしました。彼が現在オーガナイズする二つのパーティー、<MOTIVATION>と<HOTEL H>。その両パーティー名をマッシュアップした本作は、一体どのような作品に仕上がっているのでしょうか?ここでは、『MOTIVATION H compiled by DJ TOWA TEI』の内容について、テイ・トウワのインタビューをお届けします。

TOWA TEI インタビュー

JAMES YUILL インタビュー

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 昨年、デビュー・アルバム『ターニング・ダウン・ウォーター・フォー・エアー』をリリースし、インディー・ポップ・シーンから一躍注目を集める存在となったジェームズ・ユール。彼が、セカンド・アルバム『ムーブメント・イン・ア・ストーム』をリリースしました。フォーキーなサウンドとダンサブルなエレクトロニカを融合させた、彼ならではの音楽性が楽しめる注目作です。

 というわけで、最新作の内容について、ジェームズ・ユールさんに話を聞いてみました。

「このアルバムには、特にテーマになったものはないんだ。もしあるとしたら、僕の人生の中にあった、一定の時間を書き記す、ってことかな。前作をリリースしてから、僕はずっとツアーに出ていたから、曲を書いてレコーディングしたくてたまらなかったんだ、本当に。だからこのアルバムは、そんな僕が抱いていたアイディアのコレクション、って感じだね」

では、そのアイディアとは、具体的にはどのようなものだったのだろうか?

「当初は、ちょっとハードなダンス・トラックをいくつか書いて、それをアコースティックな楽曲と一緒に並べてみたい、って思ってたんだ。でも、レコーディングが進むにつれて、すごく良いと思えた楽曲は、全て僕がギターで書いたものだってことに気づいてね。こうして、ハードなトラックの多くは、ボツになってしまった」

さらに彼は、こんな言葉も付け足した。

「僕のプロデュース/ミックスの技術が向上したことも、今作のサウンドが変化した理由の一つになっていると思う。自分が望んでいるサウンドを選び出したり、つくり出すことには、相当な時間をかけたんだ」

そんな本作の内容は、彼らしい端正なアコースティック~エレクトロニックな音楽性はそのままに、リード曲「Crying For Hollywood」のようなダンサブルな曲はより躍動的に、「First In Line」のようなアコースティックな曲はよりソフトにと、前作以上にメリハリのついたもの。今作の中で、彼が特に重視している楽曲はどれになるのだろう?

「「Sing Me A Song」か、「Ray Gun」かな。この2曲は、自分が書いてきた曲の中でも、100%に近いくらい満足できるものになったよ。アルバム全体の中で僕が特に気に入っているのは、「Sing Me A Song」で、ゲスト・ボーカリストのサマンサが歌っているところだね。このパートは、アルバム一枚書けるくらいのアイディアを、僕にもたらしてくれたんだ」

今後は、他バンドのプロデュースや、様々なサイド・プロジェクトも手がけていきたいというジェームズ・ユール。本作『ムーブメント・イン・ア・ストーム』は、非凡なソングライティング・センスのみならず、そんな目標を掲げる彼の、キラリと光るプロデュース・センスも楽しめる充実作だ。

interview & text FUMINORI TANIUE
translation NANAMI NAKATANI

TOWA TEI ピーク・チューンだけじゃない、ダンス・ミュージックの楽しみ

20年以上にわたりDJ活動を続けてきたテイ・トウワが、毎年恒例となった人気コンピレーション・シリーズの第8弾、『MOTIVATION H compiled by DJ TOWA TEI』をリリースする。東京AIRと京都WORLDで開催してきた<MOTIVATION>と、昨年、東京fai aoyamaでスタートさせた<HOTEL H>、その両パーティー名をマッシュアップした本作。そのタイトルには、テイ・トウワの最近のテーマが強く反映されているという。本作のテーマについて、テイ・トウワはこのように語る。

「<HOTEL H>には”No Peak, More Music”ってテーマがあるんだけど、これは、ピーク・オンリーの選曲にはしないってことなんです。いろんな幅の曲をかけることを意識していて、いわゆる鉄板系のフロア・キラーばかりはかけないというテーマは、このコンピでも感じてもらえると思います。それは結局、リスニング対応でもあるってことなんですね。ありそうでない、こじゃれたコンピになったかなと思います」

そんな本作の冒頭を飾るのは、テイ・トウワ’05年のアルバム『FLASH』から「Milky Way」を、砂原良徳が’09年にリミックスした楽曲。その音源に砂原自ら手を加え、本邦初公開の楽曲に生まれ変わらせている。また、アルバムには、テイ・トウワが大沢伸一と共同で手がけた「Mind Wall (SO TT Remix)」をはじめ、「Lyricist (ajapai Remix)」、「Taste of You (Zickzack Remix)」と配信限定リリースだったトラックも初収録されている。

その他、クラブ・ピープルにはおなじみのフロア・アンセム「”Why Don’t You」は、比較的レアな「Greenmoney’s Gramophountzied Remix」をチョイス。いわゆるフロア・キラーだけではなく、The 2 Bears「Mercy Time」、Bobby & Klien「I Want Sax」、Pepe Bradock「Path of Most Resistance」などの、テッキーでミニマルっぽいハウスや、大バコの王道アフターアワーズ系なMustafa feat. Natalia「Circles 2009 (Boddhi Satva Ancestral Soul Remix)」、あるいは8ビット・レゲエと呼ばれるデジタル・レゲエのSoom T「Survivor」なども収録しており、さすがはテイ・トウワと言える幅広い選曲に触れることができる。その幅広さは、二つの異なるパーティーを主催することで、自身のアーカイブとのつき合い方が変わったことに由来するようだ。

「今は<MOTIVATION>と<HOTEL H>を隔月でやっているけど、結局、DJの仕込みはパーティーの分だけあるんですよ。買って聴いてはいたけど、<MOTIVATION>みたいに、ピーク・タイムが大事な場ではかけなかった曲もたくさんあるわけです。そういう曲が、<HOTEL H>で活躍したりする。だから、本作では、二つのパーティーから最大公約数的な選曲をしてみたかった気持ちがありました。ハウス・ミュージックという軸はあるんだけど、その軸を中心に、どこまで幅を広げられるかということですね」

その結果がここにある。ダンス・ミュージックとしても、リスニング・ミュージックとしても楽しめるコンピレーション。そんな、ありそうでなかった1枚とは、まさに『MOTIVATION H compiled by DJ TOWA TEI』のことだろう。

text HARUHIKO BANNO

CROQUEMONSIEUR インタビュー

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ついにスタートした、大沢伸一とLOUDの共同主宰レーベル、LDK。その第一弾としてリリースされたのは、CROQUEMONSIEUR(クロックムッシュ)の「Wild Cat / Tiger」でした。

そこでLOUDでは、CROQUEMONSIEURこと大沢伸一を直撃。なぜ、変名プロジェクトでリリースするのか、その真意を語ってもらいました。大沢伸一の新たな一面に、ぜひインタビューで触れてみてください。

CROQUEMONSIEUR インタビュー

WILD CAT / TIGER – Single – CROQUEMONSIEURWILD